招かれざる客
スコルの言葉を聞いたサヤは顔を手で覆い、天を仰ぐ他なかった。今まで人生の困難に直面したことは何度かある。いやまさか命を狙われる立場になるとは思わなかった。改めて現実を突きつけられると心にくるものがある。叫びそうになるのを堪える。泣いても叫んでも変わらないんだ。それよりもきかなければいけないことがある。
意を決してスコルの顔を見据える。
「私からも聞きたいことがあります。スコルさんの渡してきた本、召喚の魔法陣だけ解読できたと仰ってましたね」
「あぁ、そうじゃ」
本を収納袋から取り出し、机の上のスープボウルに入れる。夜に調べた時と同じように黒い液体がしとどに溢れる。黒い液体がスープボウルに徐々に溜まっていく。スコルは椅子から立ち上がって後ずさる。
「こ、これは…なんという…」
黒い液体がスープボウルから溢れかけたのでスプーンですくい、コップにせっせと移す。
スコルの視線は本の異様な様に釘付けだった。スコルの頰を汗が流れ落ちる。
「この本について知っていること、全部教えてください」
スコルはため息をついて椅子に座った。
黒い液体に触れることを一瞬躊躇うも、意を決して持ち上げて観察するスコル。
「ワシがサヤを召喚した時は隠匿の魔法陣が作用しておった。必要な箇所だけ剥がしておいたのじゃが…これは、どうしたものか。このようになったのを見るのは初めてじゃわ」
ほとほと困り果てた様子でスコルは机に本を置く。
「この本はいつ作られたものですか?」
スコルは首を振り、わからないと回答する。埒があかないので筆者について聞いてみることにした。もしかしたら似たような蔵書があるのかもしれない。
「ではオリバー・コルテサンはご存知ですか?」
「ふむ、聞いたこともないの。いきなりなんじゃ、なにを聞きたいのかわからんぞ」
スコルは訝しむように眉をひそめ、苛立った様子だ。
「ここの見開きに書いてあるじゃないですか」
「だからなんの話じゃ?…なにも書いとらんではないか」
しっかりと書かれている文を指し示し、スコルに見せるも当の相手はさらに眉をしかめるだけだった。もしかして本当に見えていないのか。サヤはため息をついて話題を変える。
「では次に最後の質問です。隠匿の魔法陣、それの剥がし方を教えてください」
「……ッ!」
スコルがはじめて動揺を見せた。杖を持ち、慌てて椅子から立ち上がる。額から汗が流れ落ち、塔の出入り口である扉を見つめた。
「サヤ、すまないがその質問には答えられそうにないようじゃ」
スコルがそう答えるや否や頑丈な鉄製の扉が宙を舞った。