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召喚の秘密

閲覧数が伸びるたびに心臓が潰れてお腹が痛くなりますね…これが、生きてるって感覚なんだな

 異世界に召喚されてから数週間経った。サヤはスコルに教えてもらいつつ、基礎的な呪文を使えるほどにまで成長していた。今なら小さな火や水を発生させることができる。

 スコルはモンスター避けの魔法陣を直すため、現在は最上階で作業している。手伝いを申し出たものの断られたため、サヤは書物庫で新たな呪文習得のために本を漁っていた。


「なんかいい本ないかなぁ…これは分厚い」


 ハードカバーの本を眺めながら自分のレベルにあったものを選定する。


「これは難しい…そっちやった…これかな」


 『これを知らないと損!?生活に役立つ100の呪文』と題された本を引っ張り出す。引っ張り出した拍子に別の本も引きずり出したらしい。他とは違った様相のその本に興味を惹かれる。青漆のカバーで覆われているものの、かなり薄い。おそらく20頁もないだろう。とりあえず開いた。


「最も困難な時に支えてくれた我が友、オリバー・コルテサンに捧げる」


 著者だと思うの親友への追悼を込めた文を見つけた。見開き中央に位置するその文は手書きで書かれたもののようだ。海外の本にありがちな文を新鮮な気持ちでみる。

 サヤは日本にいた頃、よく小説を読んでいたが前書きや後書き、著者のコメントを飛ばして読んでいた。著者の人間性や交友関係より小説の中身が気になって仕方ない性分であり、小説を読み終わった頃には後書きといったものは忘却の彼方に葬りがちなのである。

 次の頁を開くと白紙だった。その次も捲る。落丁本かと思い、さらに頁をめくる。目が滑るような文章がいきなり視界に飛び込んできた。捲る手を止め、内容を読み上げる。


「異界における魂の召喚方法……?」


 そういえば召喚された時にスコルが見せてきた本に似ているな、と思い出す。記憶の通り次の頁は魔法陣が描かれていた。屋上で見た魔法陣と特徴が一致しているな。あの時以来スコルが肌身離さず持ち歩いていると思ったが、大方難しい本に挟んでおけば見つからないと踏んでいたのだろう。ちょうどいい、日本に帰る手段を見つけるため、考察を程々にして中身に目を通す。


『異界から魂を呼び寄せるには莫大な魔力はもちろんのこと、必要となる死体も用意しなければならない』


 おっと、想像していた以上に血生臭い行程を要求してきたな。動揺しながらも次の文章を読む。


『死体の数や種類だが、召喚する魂によって大きな違いが出る。死体の傾向に似た魂が召喚されるので注意することー』


 死体の傾向に似た魂が召喚される?視界の端で腕に鳥肌が立つのが見えた。嫌な想像をくりひろげようとする頭を振り、次の頁をめくる。


『尚、人間の魂を召喚する場合のみ死体を複数用意する必要がある』


 本を閉じ、目を瞑る。召喚された時に見た魔法陣、その上に配置されていた灰の数を思い出す。まだ、人間だと決まったわけではない。…わけではないはずだ。

 ディーン村の兄弟に向けた笑顔、ウインクした顔、そしてリタのことを語った時の表情。微笑ましいと思っていた思い出が途端に牙を向いてきた。足音が聞こえ、振り返る。


「サヤ」


 いつのまに扉が開いていたのか、ドアノブに手をかけたスコルがそこにいた。スコルの視線はサヤの持つ本に注がれている。


「何故オヌシがその本を…いや、それよりも中身を読んだのじゃな」


 はい、と震える声で答えた。スコルは顎髭を撫で、椅子に座る。特に動揺した様子もなくいつもと変わらぬ態度だ。


「何人ですか…?」

「娼婦から買い取った子供達を4人じゃな」


 サヤの心臓が早鐘を打ち、軽い痛みを感じる。


「なに考えてんだお前…殺したのか……」

「買ったのは死体じゃよ、サヤ」

「だからってこんな…」


 スコルはクスリと笑う。その瞳は一切笑っておらず、怒気を孕んでいた。ひどく冷たい声音でサヤを制する。


「許されない、などというつもりかの?」


 言いたいことを的確に言い当てられ、言葉に詰まる。スコルは両手を開き、朗々と喋った。その表情は一切の陰りも曇りもなく、自身は正義であると確信に満ちている。


「死体を買ってオヌシを召喚したことに対してワシは言い訳はしない。確かに悪いことじゃろう、じゃがそれでもせねばならなかった」


 唾を飲み込む。目の前のこの老人が怖くて仕方ない。それでもサヤは知らなければならない、何故自分を召喚したのかを。震える唇を根性で動かす。


「なんで、私を召喚したんですか」


 スコルは懐から巻物を取り出し、机の上に広げる。巻物には複雑な魔法陣が描かれている。


「この魔法陣じゃが、サヤは何か気づくかの?」


 質問に質問で返され、困惑しつつも魔法陣を観察する。どうやら一つの魔法陣ではなく系統の異なった魔法陣が複数組み合わさってはじめて効果を発揮するもののようだ。


「これ、複数の魔法陣で制御している。所謂複合魔法陣ですか?」


 空気を取り込む魔法陣、電気を流す魔法陣が最も外側に描かれている。中央に近い魔法陣ほど複雑になり、サヤには解読不可能なものが3種類ほどあった。


「ああ、そうじゃ。この魔法陣はワシが生涯をかけて作り上げ、完成させたもの。理論は完璧じゃった」


 スコルは指で外側の魔法陣を節くれだった皺だらけの指で指す。


「空気を取り込み、電気で肉体を動かす」


次にサヤが理解できなかった魔法陣を指差していく。


「機能不全の部位に魔法陣を刻み込み、機能を回復させる。欠損した部位は魔力で創りだす」


最後に中央の魔法陣を指でなぞる。


「そして、神の腕に抱かれた魂を呼び戻す」


サヤはスコルの説明を脳内で噛み砕き、複合魔法陣の一つの名称を口に出した。


「死者蘇生…魔法陣?そんなものを作り出したんですか」


 スコルは巻物を巻き直す。表面は煤け、年季を思わせる代物だ。


「リタに会いたくてのぅ。頑張って作ったんじゃが成功しなかった。ワシは必死で原因を探った」


 紐でクルクルと縛り、巻物を机の前に置く。


「そして見つけたんじゃ。その本をな」


 サヤは自分の前においてある青漆の本に視線を落とす。


「そして1つの仮説を立てたんじゃ。神の腕に抱かれたリタの魂を呼び戻すには神の理から外れたものの協力が必要じゃろう」


漸く自身が召喚された理由に思い至り苦い顔をする。スコルは椅子から立ち上がり、地面に膝をついた。両手を胸の前に握る。その姿は神に縋る信徒を彷彿とさせた。


「頼む、サヤ。許せとは言わん、虫のいい話じゃがワシに協力してくれ」

「スコルさん、私には無理です。何をすればいいのかも検討がつかないんですから力になれません」


スコルの嘆願に首を振る。魔法陣の仕組みも理解できなかったサヤが助力になるはずがない。スコルは尚もサヤに縋り付いた。


「オヌシにしか出来ないことじゃ。その本の内容が全て明らかになれば元の世界に帰ることもリタを呼び戻す方法もあるはずなんじゃ」


青漆の本を無理やり手に持たされる。鬼気迫った様子のスコルに圧倒されてしまったサヤは受け取ってしまった。


「とにかく、その本が唯一の手がかりなんじゃ。その本はサヤが持っていてくれ」


本を押し付けたスコルは立ち上がり、また明日話し合おうとだけ言い残すとその場を去ってしまった。かける言葉が見つからず、その背中を見送る。手に持った本を見つめ、サヤはため息をついた。

いやぁ、1話のフラグをようやく回収しましたね。長い、長すぎる。



憂いを帯びたイケオジの告白にサヤは何を思ったのか。


次回、乞うご期待!!

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