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異世界召喚

沙耶を賢い子にしたかったのですが作者が賢くないので沙耶には馬鹿になってもらいました。

小並沙耶は取り立てて特徴のない学生である。そこそこの成績と友人関係、可もなく不可もない人生。アニメや漫画は中学の頃までに卒業させようと教育熱心な両親は躍起になったが、結局は失敗に終わった。今では立派なオタクであり、SNSでアニメの新作を漁る毎日を送っている。

 高校時代とは違った人間関係にもようやく慣れ、レポートの書き方も相談に乗れるほどの腕前になった。

最も相談してくる友人はいない。これから出会うんだろう、多分きっと近い未来に会えるから。本当だから!

 周りの恋愛報告に若干の焦りを持ちつつもどこか他人事のように感じていた。念のために伝えておくがモテなかったわけじゃない、縁がなかっただけなんだ。


 その日は期末テストの一週間前というのもあり、どこを歩いても学生の姿を見ることができた。沙耶ははやめに昼食を食べ終わり、空席を探す人に譲るため立ち上がる。学生はジェスチャーで感謝を伝え、友人に声をかけて沙耶の座っていた席に座る。


 沙耶はセルフサービスと壁にペイントされた印を辿り、ベルトコンベアの前に移動する。自分の分の箸や皿を貼り付けられた紙の指示に従って取り分け、ベルトコンベアに乗せる。


「ご馳走様でした」

「あいよー」


 壁の向こうの職員から返事が返ってくる。この前よく知らない根暗女から偽善ぶりやがって気持ち悪いぶりっ子と陰口を叩かれたような気もするが、一体何経由で知り合いになったのかよくわからない。今では親友面してくるあたりなかなかしたたかな奴である。


 腕時計を確認すると次の授業までまだ余裕がある。期末のために復習でもするか、と独り言を呟く。赤色の包装を破り、チョコ菓子を口に咥えながら歩く。


「遅刻遅刻〜!やべぇゼミに間に合わねぇ!!」


野太い声をあげながら食パンを加えた男子大学生と間抜け面で歩く沙耶とぶつかった。体重と筋力で敗北した沙耶は尻餅をつく。沙耶と衝突した男性が慌てて背後を見るが、そこにはいつもの道路と曲がり角の景色があった。


「おい、どうしたんだよ」

「いや、今女性とぶつかったような気がしたんだけど……」


 男性の友人は誰もいねーぞ、と呟き男性をからかう。


「気のせいだったわ」


 男性は特に気にすることもなく食パンの最期のかけらを飲み込み、腕の時計を確認する。慌てて駆け足で走り出した。


 これが最後に確認された小並沙耶の消息である。これ以降彼女の目撃情報も本人からの連絡は一切なく、日本のよくある行方不明事件の1つとして処理された。






 1人の老人は革靴の音を響かせながら石の階段を登って行く。階段と同じ素材の壁には老人の頭よりも高い位置にガラスをはめ込んだだけの窓が月の光を取り込んでいる。

 月光を取り入れてもなお5段から先は闇に閉ざされ、老人の視点からでは階段の終わりが見えない。


 老人の片手には身の丈ほどの長さのある木の杖が握られており、身に纏う黒色のローブも相まって怪しげな雰囲気を漂わせている。

 木の杖を支えに階段を登るが、足取りは重く息も乱れている。もう片方の手はしきりに豊かな白い顎髭に触れ、額からは汗が流れていた。


「もうすぐじゃ、もうすぐで深淵に手が届く。そうすればワシはもう一度、こんどこそ!!」


 老人は爛々と目を開き、口の端から涎が垂れる。その姿はもはや正気があるとは誰も思わないほど狂気染みている。

 ゲヘゲヘと笑い、左右に体を揺らしながら杖を支えに歩く。ようやく老人は階段を登り終えると息を整える。

 懐からジャラジャラと錆びた鍵を取り出し、震える手でドアノブに差し込んだ。その間にも老人の額からはまるで滝のような発汗が続いている。ガチャガチャと鍵を回し、全体重をかけて鉄製の扉を押し開ける。

 老人は塔の最上階、屋根のないこの場所でとある儀式を実行していた。中央にある祭壇には凄惨な死を遂げた奴隷が横たえられており、生贄の血によって描かれた魔法陣の随所には事切れたヒトの胎児、へその緒といった赤色やピンク色のおぞましいものが設置されている。


 老人は腰にぶら下げていた皮袋から赤い肉の袋を取り出す。肉の袋はぐにぃと伸びると人の手を形作る。その人の手は老人の手のひらよりもかなり小さく、肉の袋から垂れる赤い紐はぶらぶらと老人の歩みに合わせて揺れていた。


 老人は肉の袋を丁寧に魔法陣の上に設置し、中央の祭壇に近づく。老人は天を仰ぎ見る。3つの月、丁度老人の位置から真上にそれらは在った。

 ニタリと笑い、杖を魔法陣で小突く。


 魔法陣の線に沿うように炎が巻き起こり、設置されていたおぞましいものが黒い煙を上げながら炎に包まれた。肉の袋が破れ、その中身はもがきながら生を受けてはじめて声をあげた。その絶叫は聞くものの本能的な恐怖を刺激するには充分なものであったが、老人は笑みを絶やすことはない。

 目の前の死体が燃え盛る炎の中でその死体が苦痛で暴れ出そうとも老人は狼狽えず、杖を構えて呪文を唱え始める。


「《下弦の半月、満ち欠けし三日月、輪転する満月。神よ、今ここに犯す愚行をお許しください。我は生の価値を知る者、死の甘美を享受する者なり。我が求むは彼方の存在、理を超え、今ここに奇跡をなすもの!生と死の狭間に在るものよ、我の呼びかけに応え、今ここに姿を現せ!》」


 一層炎は猛々しく燃え上がり、灰が吹きすさぶ風により天高く舞い上がる。魔力が吸い出されるような感覚とともに魔法陣の中心では眩い光が周囲を照らす。


「おお…おお……。ちと想定外の良い召喚じゃわい」


 一際光が強まり、老人が眩しさに堪らず目を覆う。光が弱まる頃には1人の女性が祭壇の上に呆然とした表情で座り込んでいた。

年上のおじさまに召喚されるとか攻略不可避。経験豊かで物腰柔らかな態度に隠れ見える茶目っ気に女心はゆれ動いちゃうの…

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