急行列車
ぼくは今、列車に乗っている。
地獄へ向かう急行に。
ぼくは殺された。クラスメートの1人に。理由は分からない。
気がついたらとても大きな門の前にいて、井戸から出てくる幽霊が着てそうな着物を着ていた。まわりにはぼくと同じような人たちがいた。みんなも白い着物を着て、なぜか1列に並んでいる。
その人たちを見ていると列の先にある3つの扉のうちどれか1つに必ず入っている。それをぼーっとみていると後ろから早く行けとでも言うかのように、他の人が押してきた。
ぼくが扉の前に行くとそこには1人の女の子がいた。
「あなたは殺されました。あなたは復讐、放浪、安息のいずれを選択しますか?」
ぼくは一瞬この子が何を言っているかわからなかった。
「ねぇ、きみ。何言ってるのかな?ぼくにはさっぱりわからないんだけど」
「わからないならもう一度言います。ひとつ、誰かを呪い殺すこと、ふたつ、現世を彷徨い続けること、みっつ、何一つ不自由のない世界で暮らしていくこと。あなたはこの中から1つを選ばなければなりません。」
そこまで言われて、ぼくはなんとなく理解した。この子が何を言っているかを。
「早く決めてくださいますか。後がつかえております。」
「ちょっとさ、ゆっくり考えたいんだけど。いいかな?」
「仕方ありません、かまいませんよ。その間に他の方を案内していますから。」
「ありがとう。」
お礼を言うとぼくは列から離れ、列の近くにあった少し大きな岩に座った。
ぼくは生きているときのことを思い出そうとしたけれど、霧に包まれているかのように自分が殺されたという事実以外思い出せなかった。
ぼくは、もしかしたら女の子からヒントがもらえるかもしれないと思って、案内が終わったと思われるタイミングで思い切って話しかけてみた。
「ねぇねぇ、ちょっとだけ聞きたいんだけど、いい?」
「はい、なんでしょうか。他の方もいるので、手短にお願いしますね。」
「ありがとう。もし、誰かを呪い殺すことにしたら、ぼくはどうなるの?」
「地獄へ行くことになります。永遠にそこから出られずに、永遠に地獄の業火で焼かれ続けるのです。」
ぼくは自分が炎で焼かれる姿を想像してしまい、背中に寒気が走った。
ありがとうとだけ返事をして、また岩に座って考えた。痛いのは嫌だから残り2つの中から考えよう。現世を彷徨うとはどういうことなのだろう。俗にいう幽霊というやつなのだろうか。不自由なく暮らすとは天国へ行けるということなのだろうか。天国はいいところなのだろうか、現世を彷徨うのは暇じゃないだろうかなど、色々な考えが頭に浮かんだ。
十分に考えた後、ぼくは女の子のところへ行きこう言った。
「ぼくは誰かを呪い殺します。」
自分で言っておきながらぼくは驚いた。ぼくは「不自由なく暮らしたいです。」と答えるつもりだったのに、口から出た言葉は呪い殺します、だ。わけがわからない。
混乱しているぼくをよそに、女の子は再確認するでもなく「承知しました。」と単調にいうと、同じくらい単調に「呪い殺す対象は。」ときいてきた。
ぼくを殺したやつを殺したい。そういうと女の子はなにやら呪文らしきものを唱えて、左の扉を指差した。そして一言、「お逝きなさい」
ぼくはどのようにしてそいつを呪い殺したかわからないけど、気がついたらこの列車の中にいた。この列車はまだ発車していないみたいで、窓の外を見ると普通の駅みたいに電光掲示板があって、そこにはこう書かれていた。“16:49 急行 地獄”