君は魔法
前話【残響】は比較的短い作品でしたので、そのままお話は連続で掲載致します(〃^ー^〃)どうか引き続き【円環奇譚 鳥籠姫】お楽しみ下さいませ。では始めます《*≧∀≦》(謎テンション)
停止の音素一音だけでは対象を一つしか止める事は出来ない。犬島は左腕の袖をまくり、鍵盤の刺青を右手で払う仕種をする。
宙に浮かんだ鍵盤の輪が犬島の目前に広がる。一音一音正確に素早く指先で音を響かせる。凍りついたように時が止まる。
犬島が音を積むぐの止めても何度もループを繰り返す。自動ビアノのように鳴り止まぬ旋律。残響の中を犬島は少女の元に歩みよる。
途中床に這いつくばって、にやけた顔をしている3人に一瞥をくれるが、そのまま通り過ぎた。
「こんにちは」
少女が言った。
「はじめまして」
犬島は微笑みを返す。
「素敵な曲ね」
「言葉や文字で表現すると冗長なので」
「貴方は誰?」
「僕の名前は犬島美景。魔法使いです」
「魔法使い。ここにいる人たちが皆動かないのは貴方の魔法?」
「そうです」
「私は動けるわ」
「貴女に魔法は効きません。多分どんな魔法も無力だ」
「私が幽霊だから?」
「それは違うと思います。貴女は幽霊というより元々人ではありません。肉体は死を迎えたけれど…元々人ではなかった。間違えて人に生まれて来たというべきか」
少女は困惑した様子で犬島を見つめた。
「人でも幽霊でもないなら私は何?」
「魔法そのものと言ってもいいかも知れません。あるいは一つの現象と」
「貴方の言ってる言葉の意味が、私にはまるで理解出来ないのだけれど」
犬島は優しく頷いて答えた。
「私はそれを貴方に伝えるために来たのです」
とは言え、犬島は言葉で彼女にそれを伝える事の難しさを感じていた。最初にここを訪れる事を決めた時から。
「ある男がここにいる貴女の様子を見て来いと言いました。『彼女は誰にも教わっていないのに魔方陣を形成し異界のものを呼んでいる』と」
「魔方陣は数学の言葉よ」
「よくご存知だ」
「ここに来る子たちが教えてくれるの」
「呼び出すのに呪文を」
「呪文なんて一つも知らないし…呼んでもいない。空想はするけど。そしたら来るの」
「やはり」
犬島は何も書かれていない円環の中を見て思う。
「彼らがここに集まる事と、その円は関係ないのですね」
「ただ歩いてたらあとが出来ただけ」
あれが異界のものを呼ぶための魔法円なら、中に結界の文字や記号が記されていなければならない。
召喚者は円の外に対象となる物を呼び出し、その中で身を守る。呼び出す対象は大概、人外人間以上の存在であるのだから。
召喚と自衛の呪文を同時に唱える事は出来ない。まして呼び出した後コミュニケーションを取る事が出来ない。
彼女は結界を張るどころか元々が格上の存在なのだ。呼んでなどいない。
聖も魔も人も引き付ける磁石のような存在だ。門や入り口と言い換えてもいい。
しかしそれも未だ本来の彼女の姿には.程遠い。
「私は魔法使いです」
「それはさっき聞きました」
「貴女はこの部屋で、魔法使いがするような事をずっとなさっているが。それを魔法使いがやるのは、とても大変な事なのです。研鑽と習得に長い時間が掛かるもので。魔法使いの話を少ししても構いませんか?」
「ええ。どうぞ」
「魔法使いの本質は秘匿と神秘の探求です。ある程度基礎的な魔法の知識や技術を学ぶのは誰も皆同じですが、そこから神秘の探求、つまり専門分野の研究に入ります」
「学者さんみたいね」
「同じですね。ただ魔法使いは、自身の研究を、誰かや何かのために寄与しようとは思わないのです」
徹底した秘密主義。自身の名はおろか、姿を人に見られる事すら、魔法使いは嫌うものだ。自身の探求する魔法が何処からこの世界に辿り着くのか、枝のように細い川の支流を辿り、神秘の源流を目指す。
神秘は人に知られ認識された時点で、その神秘性や効力を失うと、魔法使いは本能でそれを知り恐れる存在である。
「私は貴女に最初に出会った時、自分の名を名乗りました。貴女が見ているのを承知で魔法も使った。本来なら魔法使いとしてあるまじき行為なのです」
「それなのに…どうして」
「貴女に私の事を信用して欲しくて、話を聞いて頂きたくて、手の内を開かしました」
「とても鮮やかで美しい魔法を使う方」
「あれは魔法使いとして私の本分ではありません」
「音の魔法使いさんではないの?」
「私の本来の専門は人形使いです」
「人形使い」
「私と貴女と…貴女の部屋に元からいたもの達意外は全て私の手による人形です」
「ここにいた人達全部お人形なのですか」
「そうです」
といっても大半は彼女によって壊されてしまったが。そしてその中に、若干本物のバチカンが紛れていたことは、彼女には秘密にしておいた。
「なぜそんな事をと、お思いかと思いますが、理由はニつあります」
「教えて」
「これが人形使いとしての私の能力だと貴女に知って貰う事が一つ。もう一つは.これから先に起こるであろう未来を貴女に見せる為です」
「未来ですか」
「聖職者や魔道にある者、そして普通の人間さえも貴女に引き寄せられ、貴女を求めてここに集まるでしょう。貴女の領域を侵そうとする者は皆こうなります。無意識のうちに、貴女は周囲に屍の山を築く事になるでしょう」
いずれ協会からも「書に登録せよ」との通達が来るだろう。登録とは魔法を記号化した後に書に封印する事に他ならない。邪なる魔道者ならば彼女に力を独占するために動くだろう。
魔法の協会とはいえ、主な役目は個の魔法使いの神秘の独占と暴走を牽制するための組織でしかない。
何しろ秘密主義者の集まりなのだから。封印する事も独占も、彼女の本質を知れば不可能なのだが。それでも動いて来るに違いない。
事実先日伊波の意識に侵入して来た者がいた。使い魔に後を追わせたが、易々とは捕まらないだろうと犬島は思う。
「貴方の大切な人形を壊してしまいました」
彼女はすまなそうに詫びた。
「彼らにはそれが使命と言い聞かせてあります。貴方の反応は予想がつきました。呼び出した物との戦闘も考慮していたので彼らには痛覚を与えていません」
彼女に対する予想は確信に変わった。ただ意外だったのは彼女のパーソナリティ-だった。人間性や感受性があまり損なわれておらず、過去の記憶がかなり人格に反映されている。
つまり話していると普通の少女なのだ。
「一つ聞いてもいいかしら」
「何なりと」
「こちらのご学友三人は」
「勿論人形ですが、他の者とは少し違います」
「随分表情豊かだと思う」
「彼らには魂があります」
「人形なのに」
「召喚の儀によって得た魂が。肉体もそれに合わせて作られました」
「作った方の意識も反映される」
「まあ多少は」
「この人たちさっき私のスカートを覗こうと必死で」
「いや…それは」
少女は犬島の顔を覗きこんでじっと黙った。こういうのには慣れていない。
「い伊波と藤島は元々呼び出した時ニつの魂が絡みあっていて、過去の記憶を色濃く反映しています。春海は、あの子はまた別でして」
「四人随分息があって楽しそうでした」
「魔法使いとリカントと神父と人間…ゲームみたいにしたら面白いかと。同級生という刷り込み意外は自由にさせてます。あいつらホント人形。ただの人形です。この、でくのぼうどもが!」
「ゲームのキャラクターはお友だちではない?」
「え」
「あの人たち身を呈して貴方を貴方かばったり。励ましたり」
「十五の時から」
人の世を捨て魔法使いの弟子になった犬島には友達がいなかった。
「友達です」
人間以外の友達を数多くもつ少女は断定した。
「そこ大切ですよ」
そう言って犬島に微笑んだ。
【犬島】
なぜ魔法使いになったのかと問われたら
「魔法使いに呼ばれたから」
そう答える他無いと犬島は思っている。
魔法使いは魔法使いになる者を呼ぶ。秘密主義の魔法使いがそうした行動を取るのは矛盾している。
魔法の探求を他人に引き継がせて自分は次のステージに進む時が来た、あるいは本当の意味での自分の死を予測した時なのか、誰も分からない。
ただ魔法使いに呼ばれる者は最初から決まっており、それまで普通の生活を送っていても、ある日突然その宿命を思い出す。その誘いを拒んだという者の話は聞いた事が無い。
もし仮に拒んだとしても魔法使いは出会った記憶を消して立ち去るだけである。
犬島は15の時に魔法使いと出会った。
それでも魔法使いの修行を始めるにはかなり遅い年齢らしい。
犬島の師である魔法使いは「出会うべき時に出会った。年齢は関係無い」と話していた。
犬島は魔法使いについて家を出て師から魔法を学んだ。師の名前は最後まで知らないままだ。
彼は「緑の袖」と呼ばれていた。緑の袖は人間のような人形を造る魔法使いだった。基礎的な魔法の知識を学んだ後で犬島は人形造りを彼から学んだ。
師の技術を学んだ犬島はすぐに頭角を現した。緑の袖は人形をより人間に近づける事を本旨としていた。
彼が造る人形は文字通り人並みで人間以上でも以下でもなかった。彼はそれを市井に溶け込ませる。
社会や家庭や友人同士の輪の中に 犬島は師についてその姿を観察した。彼らは幸福そうな顔を見せたりそうでなかったり…師が何かそれで恩恵を受けているという風には見えなかった。
犬島にはそれが何が面白いのか、まるで理解が出来なかった。人形造りに没頭する中で犬島は常に人間以上を目指した。
造形の美にしても身体能力にしても…自らの造り出す器に見合う高次の魂を求めた。召喚の儀を用いて高次の魂の補完。
師に提案したが一蹴された。だから召喚は独学で学んだ。最初の召喚を実践した日それはやって来た。
呼び出した円環の外側にでは無く結界が張られた円の内側に。犬島の背後にそれは立っていた。
恐怖で振り向く事も出来ず。永遠に等しい時間が流れた。結界は過去の魔道の叡知の結集されたものである。
そこに易々と侵入出来るという事は暗に全ての魔法が無効であると犬島に教えた。背中越しに。
既に犬島には死が与えられていた。犬島に縁の者…師や両親彼を記憶に留めている者全て地上から蒸発させ消え失せた。
彼を記憶している道や壁や石ころからも記憶は消された。魂の在処は誰にも分から無い。しかしこの時犬島にはそれが分かった。
背後に立つ者が犬島の魂に手を伸ばし触れたからである。
犬島の魂の奥底の暗部を掻き回す。そして掴み取るとその場から消え失せた。
犬島の魂では無い。彼の妹美景の魂を浚って消えた。不死の彼に永遠の後悔と苦しみだけが残された。誰も犬島美景という存在を知る者はいない。そんな世界で一人、犬島は日本に帰国した。
生き残った遺族の中で唯一人、妹は病院のベッドで今も眠り続けている。
犬島が呼び出した者のは過去のどんな書物にも記載が無かった。誰の記憶にもその痕跡を遺してはいなかったのだ。
物語はここから終盤に入ります(〃^ー^〃)どのような結末を迎えるか読者の方と共有出来る時間はお話を作りライブ掲載する物書きの至福でもあると六曜は思っています(〃^ー^〃)ここまでお読み下さってありがとうございます(〃^ー^〃)(六曜翼)




