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最終回

円環奇譚 鳥籠姫最終回です。今書き終えたばかりホヤホヤです。本当は少し時間を置いたり読み返しての投稿の方が絶対作品としては良いのでしょう(´・ω・`)後々読み返し書き直しもあるとは思います。自分もまだ客観的には見れないですが、ここまで読んで下さった読者さんに早く読んで頂きたいと思い掲載しますm(_ _)mでは始めます。



【エピローグ】




「本当にこんなところに、やつが?」


犬島は疑わしそうに、ガラスの向こうで業務をこなす事務員を見て言った。怪異の欠片もない。


「わかりません。ですが…生者ではない強い思念を感じます!」


そう彼女に言われては犬島も身構えを解くわけにはいかない。二人がその日の午後に訪れたのは、高校のすぐ近くにある自動車教習所だった。犬島と彼女が通う高校はここから五キロも離れていない。


地元の高校を卒業する生徒の大半は、ここに通い、運転免許を取得する。卒業式前までは、地元の高校生たちで、さぞかし賑わったであろう自動車教習所。新学期が始まった今は閑散としていた。


犬島の妹美景は、現在も病院に入院している。妹は退院後に犬島が引取る予定になってはいた。隣にいるもう一人の美景の屋敷は、犬島が調査するにあたり、そのまま買い取ったままだ。


しかし屋敷の改装や建替えは進んでいなかった。犬島は、彼女が生れ育った家を取り壊してしまっていいのか、決めかねていた。


彼女が生前人間だった頃の思い出が残る唯一の屋敷だ。寝たきりの妹を、犬島と彼女が暮らす現在の棲みかに移すことも、あの趣味の悪いリカちゃんハウス擬で、自分がこれから暮らすことも些か躊躇われた。


「ひとまず病院に行って、妹の退院時期は少し延長してもらおうと思う」


犬島は学校を早退して病院に向かう途中だった。


「妹さんに私も会いたいです」


そう言って美景もついて来た。その途中通りかかった教習所に美景は反応した。


「人ならざる者の気配がします」


「確かに私も感じるが強くはない」


「ですが、なにか強い思念を感じます」


彼女がそう言うので、犬島は確かめるために教習所の門をくぐった。


「妹の名前も美景で、君も犬島美景…ややこしいから呼名を別に考えようか」


「ぜひお願いします!」


「前の名前は?」


「それはもう忘れました」


彼女は躊躇いなくそう言った。


「そうか・・では美景の文字を逆さまにして景美・・ホロミというのはどうだ?」


「そんな…発酵麹みたいな名前はいやです!なんだかドラえもんの妹みたいです!」


「そうか一晩考えたんだが」


「御主人様は」


「別に名前で構わないよ」


「はい..その卒業する時は、やはりここで免許を取るのですか?」


「私も君も移動に車は必要ないと思うのだが」


「そうですか」


美景は少し残念そうに言って。


「なにかあるのか?」


「いえ、その...もし免許とられたらドライブ..ではなく隣に私を乗せて..そしたらうれしいかなって思いました!」


「まあ..免許証は身分証明書になるし、取っておいて損はないだろうな」


「やた!来年が楽しみです!」


「そうか」


犬島は噛み締めるように言った。彼女がいるだけでこんな会話があり、生活があり、未来が広がる。それまでの犬島には考えられないことだった。


「御主人様..近いです!」


美景が犬島に囁いた。


「このまま相手に気取られないように、カップルを装って歩くぞ」


対象は教習所の受付や教室のある一階のフロアの外にいるようだ。


犬島と美景は建物の中を真っ直ぐに抜けて、自動車教習のコース入り口がある、西側の方角へ向かう。


「美景、腕・・」


歩く途中で犬島の右腕に美景の腕がしっかりまわされていた。さっきから腕にあたる、やわらかい感触に犬島は戸惑う。


「カップルですよね!」


きりりとした顔で彼女は犬島を見た。


「そうだな...その調子だ、抜かるなよ」


「御主人様いました!」


殆ど教習車が走っていないにも関わらず、教官に合格をもらうための手帳を持って、ウロウロしてる若い男を彼女は指差した。周りの人間には男の姿はまったく見えていないようだ。




「名前は今井慎太郎といいます。今高三…なかなか免許が取れなくて…」


声をかけると、おどおどした気弱そうな返事が帰ってきた。


「もうニ十年くらいここにいます」


「地縛霊じゃないか!?」





「…というわけで僕は卒業前に免許を取って、卒業前に好きな彼女に告白して…卒業したら彼女とドライブに行きたいなって思ってたんです…」


「ふむふむ」


「ところが、肝心の路上に出ると、いつも隣に教官がいるのに違う道を走ってしまって…それで何度やっても全然受からなくて…」


「このまま彼女に告白もしないまま、免許も取れなくて、そう考えて歩いてたら、知らない道の横断歩道で信号も赤になっていて…」


「ふむふむ」


「意識が戻って、教習所に戻ろうとしたけど、全然違う教習所に着いちゃって、カレンダ―見たらニ十年も経っていて…」


「圏外どころか方向音痴じゃないか!?」


探した方も見つけられた方もすごいポンコツだと犬島は思った。


「でも教習頑張ったんですよね?」


彼女は項垂れる幽霊にそう言って頬笑みかけた。


「なら、私が合格にしてあげます!」


そう言って鞄から印鑑のケ―ス取り出した。そこにはファンシーで可愛いい猫のキャラの描かれている。


彼女は青年から手帳を受け取ると、犬島の印をぺたぺた押しまくった。


彼女が犬島との契約の際に欲しがったのは、魂でも物や金銭ではなく、犬島の印鑑だった。犬島は彼女のために特別に高価で希少なモノケロスの角で印を彫ったのだ。


「合格!合格!今井さんは大合格です!!!」


それでいいのか。犬島は男を見た。


「ありがとう…僕教習所のコ―スだと誉められるんだけど路上に出ると全然ダメで…ずっとここから出られないのかと思ってました…本当にありがとう!」


どうやら大満足らしい。男の頬は紅潮していた。生前は余程印鑑を押してもらえなかったらしい。


「大丈夫、私も生れてからずっと鳥籠の鳥やハムスターみたいに同じ場所ばかりぐるぐる回っていたけど、今は違うの!だから今井さんも…」


「ありがとう」


男は手帳を手に涙ぐんでいる。


「私もいつか今井さんの車に乗せて下さいね!」


「おい!こら!滅多なこと言うもんじゃない!」


「どうしました?」


ぽかんとした顔で彼女は犬島を見た。


「なんでもない!」


「あ~!?御主人様もしかして、やきもちをやいておいでになるとかならないとか?」


犬島はそっぽを向いてばつが悪そうに言った。図星だった。


「もしかして最初から気づいていたな」


「なにがですか?」


ここに圏外の者などいない。彼女は地縛霊しかいないと分かっていて、それでも放っておけなくて、寄道をしただけだ。


「まったく…」


そう…寄道も悪くない。以前の犬島なら考えられないことだった。


しかし今はまだ犬島が圏外の者と呼ぶ存在に抗う術もなければ、手がかりも正体すら掴めていないのだ。


こうして彼女と一つ一つ、たまには寄道をすることがあっても。歩いていれば。

犬島が過去に失ったものを、取り戻す手がかりも見つかるかもしれない。彼女と一緒にいると、なぜだか不思議とそんな気持ちになってくるのだ。


「ありがとうございます」


犬島と彼女の目の前で男の体は霞み、やがてその場から気配も消えた。


男の顔に浮かん表情を見て犬島は自分の気持ちに芽生えた思いを確信した。


「御主人様」


その時世界は暗闇の底に落ちた。まるで劇場の客電が一斉に消えたように。


二人は無意識のうちに、お互いの存在を確かめ合うように手を握った。


「私…まるで感知出来ませんでした」


「私もだよ」


「灯明の魔法を」


「必要ない」


暗闇の中を、それはこちらに向かって、ゆらゆらと近づいて来る。かつて犬島の妹だったものの姿をして。犬島に打ち込まれた恐怖は、反のついた銛のように未だ心に残されていた。


じわじわと滲み出る汗のように、言葉に尽くせぬ恐怖が痺れる毒素となり、体中を巡るのに時間はかからなかった。


それが犬島の思考を奪い、次にするべき一歩一手は完全に封じられてしまった。そうでないとわかっていてもあれが今身に纏っているのは妹の美景の体に他ならない。自分に何が出来る?


何も出来るはずかなかった。


「逃げてくれ」


屈辱?プライド?そんなことは言っていられなかった。犬島が隣にいる妹の人形、鳥籠に閉じ込めたのは混沌。


魔法使いや聖人、悪魔や神でさえも引き寄せ、我が手にしたい、超越者ならばいつか辿り着きたいと願う万物の根源の渦。


引き寄せられて圏外からそれがやって来ることに一塁の望みを託した。ただ…彼女だけでも何処かに逃がさなくては。


『いや、そうではない』


犬島の心が呟いた。彼女は鳥籠でもなければ、人形でも混沌などと言われるものでもなければ、妹の代用品ですらない。


犬島にとってもはや失ってはならない魂に等しい、そんな存在だった。それをまだ彼女に伝えることすら出来ていない。


「ここは大丈夫、何とかする、だからなるべく遠くへ逃げてくれ!後で…」


「私の鳥籠の鍵を外して下さい」


遮るように彼女の声がした。


「いつでもそう出来ると…」


「ああ確かに言った!でも今そんな事をすれば君は……」


「大丈夫!私は契約破棄なんかしませんから!」


暗闇の中で犬島の頬になにかが触れた。


「私を信じて下さい」


「N…」


ニ―ドは束縛からの解放即ち解錠。犬島はその音節を鳴らした。指ではなく鍵盤の刺青でもなく喉から舌を震わせて。腑甲斐無い自分を戒めるように。


「私を信じて」


共鳴したのは、少し遠くで聞こえた彼女の声だった。彼女の魂を閉じ込めていた鳥籠が、犬島の繋いだ手を離れて地面に崩れ落ちる音を聞いた。


「私は君を餌に、やつを誘き寄せようとしていた」


彼女の声のした方角を見上げた。星のないただ闇黒の夜。そこには夥しき数の魔法使いたちの姿があった。


地にはバチカンから派遣された聖者の軍勢に取り囲まれた圏外の者。しかし誰一人それは見えてはいない。彼らの標的、倒すべき敵は犬島美景だった。


彼こそが禁忌に触れた者。私利私欲のために混沌に手を延ばし、それを今独占した挙げ句解放しようとしている。


裏切り者にして、邪悪に囚われた異教徒であり、誰かが智略をめぐらし、秘術を用いて耳打ちするまでもない。


共闘してでも、抹殺すべき人類を破滅に導く破壊者に他ならない。


予見した通りの光景がそこに現出した。程無く地上に聖も魔も降り立つだろう。


そのすべてが混沌に導かれ根源の渦を目指す。彼女を遠ざけなくては。


犬島の世界が消えていく。ようやく手にしたと思っていた。ほんの束の間の短い日溜りのような温もりだった。


今日は学校に行き友人と話をした。


それから午前中授業を受けて。


昼間は伊波たちや美景と昼飯を食べた。


教習所に寄り道して来年卒業する時に取る免許やドライブの話を彼女とした。


ようやく手に入れたと思っていた。あたたかく居心地がよい場所。自分も少しだけそこにいてもいいかと思った。


けれどそれは許されなかった。すべては犬島の手から再び奪われた。今来た道を急いで戻っても、それは既に失われていただろう。先程から何度呼びかけても、伊波や藤島から応えはなかった。


パプステマされ御霊が込められたとされる槍、呪詛が込められた弓や銃弾。そのようなものが魔法使いである犬島に効果があるとは思えなかった。


しかしそれは圧倒的な物量で雨のように犬島目掛けて降り注いだ。それより先に犬島は音を奏でていた。しかし犬島の魔法は発動しなかった。


そこにいる者すべては聴覚を遮断していた。直接的な魔法はおろか犬島の音は周囲と共鳴しない。結界が張られていた。


放たれた幾つかは的を逸れ多くは犬島の体を貫いた。それは瞬時に犬島を絶命させるには充分な量であった。


この場合呪詛より、聖なる奇跡の力より、物理がそれを圧倒した。こと切れる直前に誰かが優しく彼の頬を撫でた気がした。


彼女と初めて出会ったあの屋敷で、彼女は自分のことを「人の世界で生きられない生きてはいけない化物だ」そんな意味のことを言った。そう言って泣いた。


「君は化物なんかじゃない」


犬島は彼女にそう言った。化物でなければ彼女は一体なんだ。あの時自分はなんと彼女に答えたら良かったのだろう。


なんと言ったら。


彼女は…


遠のく意識の中で犬島は呟こうとした。実際にそれを言葉に出来たかどうか犬島にはわからなかった。


君は……僕の……鳥籠で、束の間羽を…休めてくれたんだ。


「君は僕の青い鳥だ」


それきり、なにもわからなくなった。


なにも見えなくなった。


「私もいつか隣に乗せてね、お兄ちゃん」


それは本当に妹の声だったのか。死に行く自分を憐れんだ彼女の最後の慰めの言葉だったのか。


犬島の心臓は既に鼓動を止めていた。


「私を必ず見つけてね」


巨大な円環の渦となった彼女はすべてを呑み込んだ。犬島のいた世界。絡み合う聖も魔も、都市も国も星も、時間も光もすべて渦巻く混沌の中心へと消えた。


やがて彼女が自身を呑み込んで消滅の時を迎えるまでそれは止まることはなかった。


その時には犬島が【圏外の者】と呼んだ存在はとうに何処かへ姿を消していた。


「必ず取り戻す」


肉体も失い、数多の分子のような存在になった一つの意識が明滅して、やがて宵の星のように消えた。





【プロローグ】




最善を尽くします。もっとも、対象は既に死亡しているようですが」


そう犬島は来客に告げた。客はその言葉を聞いて些か安堵したようだ。巨大な鎖に犬のように繋がれた異様な屋敷の主は身動ぎするどころか緻密な人形のように眉一つ動かさない。この男聞いていたより随分年若く見える。


そしてエジンバラの支部から派遣された使者である男の緊張を解そうという素振りも見せない。若造の風体をしているが、醸し出す威圧感で男は犬島とまともに目を合わすことも出来ずにいた。来客が持ち込んだ案件は端末に収録された動画だった。


犬島は応接間のテレビの画面を先程から眺めていた。


「ずっと回っていますね」


「ええずっと回ってます」


「いつから回ってますか」


「生まれてからずっと」


「もう死んでいるのに?」


「ずっと回ってます。ぐるぐる回ってます…とても怖いです」


粗いテレビ画面の画像に映る少女。白い夜着を着て廃屋とおぼしき室内をただ歩き回る。


時計の針のようにゆっくり円を描いて。


顔には蕩けるような微笑みを浮かべ。


歩いていた。


彼女の歩いた痕は絨毯に経年の轍を。円い軌跡を残している。


「床に書いた絵は」


「クレヨンですね」


「いえ…そうではなくて、これは魔方陣では?」


「魔方陣」


「そう見えませんか」


犬島は黙ったまま、重ねた拳に顎をのせたまま画面を見入っている。


「生まれた時から部屋に引きこもり。やがて食事もとらなくなり、衰弱死した女の子が誰にも習わず魔方陣を構成し、死んだ後も何かを異界から呼び続けているとしたら」


「前例がありません」


「ですから協会としては【星なき夜の書】に登録すべきかどうか、第一人者である貴方様に調査を依頼したいのです」


犬島が凝視する画面を何かが過った


「鳥?…ですかな」


麒麟の翼だ。犬島は言葉を呑み込んだ。


「文字や記号を使わず絵を描いて何かを呼び寄せるというのは…」


「書き文字にしろ絵にしろ魔法としては高度とは言えません…大切なのは音ですから」


「なるほど」


「なんでしょうか?」


先ほどから男が遠慮がちに犬島の顔を見ている。


「あの…失礼ですが…お顔になにか」


言われて初めて犬島は応接室に飾られている鏡で自分の顔を見た。


飾りも何もない面白みのない鏡だった。


「お引き受けします」


頬に【犬島】の印をつけたまま犬島は答えた。








【円環奇譚 鳥籠姫 完】

一先ずこの物語はここで幕を一度引きます。ここまで読んで下さって本当にありがとうございましたm(_ _)mけして読みやすい楽しいところばかりを提供出来ていない書き手であることは作品を出す毎に痛切に感じています。それでも最終回まで読んでくれる読者さんがいます。次作品を掲載する時にはもっともっと面白い作品を書ける書き手になりたいです(〃^ー^〃)本当に読んでくれてありがとうございます(〃^ー^〃)(六葉翼)

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