ビビリは耐える
顎関節症の診断から約1年。特に問題が起きることもなく過ごしていましたが、初夏が近付き始めた頃から少しずつ異変が起こり出しました。
ふとした瞬間に顎の関節(耳の下?)付近がキュッとなる感覚があったのです。酸っぱいものを食べた時の感じ! と訴えるも周囲からは「よくわからん」としか言ってもらえず。でも酸っぱい感じだったんです……。
薄々親知らずが関係あるんだろうという気はしていました。けれど、その少し前に親知らずの治療を受けた人からぽつぽつと話を聞いてビビっていたのです。
思いきり力を入れてスポーンと抜かれたので痛みはそこまでなかった。色んな器具を入れた状態で抜かれたので、口の端が切れてピリピリする。という人もいれば、押したり引いたりすること約1時間。お医者さんも頑張ってくれたけれど、完全には抜ききれなくて根っこの部分が残ってしまったとか。
体質によっては麻酔の効きにも個人差があるらしいとも聞きました。
下の親知らずは横向きに埋まっているらしく、悪さをし始めたら大きい病院で手術しなければいけないらしい、という話をしてくれた同じ職場のお姉さんもいました。
実は私の下の親知らずも同じく横向きに埋まっている状態だったのですが、そのことを当時の私は全く知りませんでした。
これまで抜歯をしたことがなかった私は、そういった体験談をぞわぞわしながら聞いていました。
抜歯の翌日、朝目が覚めたら枕が真っ赤に染まっていた。なんてエピソードをテレビでも耳にしたことがあります。怖い話は平気な私ですが、痛い話はとっても苦手なのです。
できることなら自分は抜かずに済ませたい。
いつからかそう思うようになっていました。
ところが、じわじわと異変が起こり始めます。
左上の奥歯(永久歯)が少し飛び出してきたのです。たしか、奥歯は他の歯より低いから磨き残しが多いと聞いたような……。そんな疑問を抱えつつ、日常生活には支障がないからと放置していたのです。
ある時から、頭の左側が重たいような感覚に襲われるようになりました。常にその状態というわけではありませんが、仕事に集中できなくなり、効率が少しずつ落ち始めます。
多少歯が飛び出しても影響がないなら大丈夫。たかを括っていた私も、そうは言っていられない状況へ変わりつつありました。
その年は春先から毎月のように体調を崩し、色々な病院のお世話になっていたので「またか」という感じでした。
4月には左足のふくらはぎが腫れ上がり、皮膚科へ。処方された薬を使うも腫れが引くことはなく、熱さまシートよりも広い範囲が腫れていました。
毛嚢炎(毛穴の奥で炎症が起きている状態らしいです)との診断でしたが、ネットで調べたところここまで腫れ上がっている症例は見つかりませんでした。
5月には謎の動悸。仕事中に動けなくなり、病院へ行きましたが原因は不明でした。症状をネットで調べると自律神経が乱れている時に似たような症状が出るらしいとわかり、温度差が激しい春先だからと自分の中で結論付けた覚えがあります。
そして、6月の奥歯の変化。
正直もういい加減にしてくれという思いと抜歯に対する恐怖感から、私は目を背けて暮らそうとしていました。
そうこうするうちに月は変わり、7月になっていました。前から行ってみたいと話していたけれど不定休のためか開いているところを見たことがなかったお店が、その日たまたま通りかかると営業していたと彼氏さんが教えてくれました。頭が重い感じがあり、食欲はそこまでありませんでしたが、この機会を逃す手はない。
そして、仕事終わりに連れて行ってもらうことになったのです。
そこはテイクアウト専門のお店のため、別の場所へ移動して車内で食べることに。
美味しい! ……と思ったのも束の間。絶望的な感覚に襲われました。
――飲み込むことができない。
原因はわかりませんが、噛むことはできてもいざ飲み込もうとすると体が受け付けないのです。
私は泣く泣く食べることを諦め、いよいよ病院に行かなければいけないと思うようになりました。