#2 任命、そして心
よほど楽しみなのかいつもより早く起きてしまった。リビングに行くと母が鼻歌を歌いながらお弁当を作っていた。張り切りすぎて昨日の夜から仕込みが終わっていたらしい。。。弁当の余りのおかずと白米で朝食を済ませた。何もかもがいつもより美味しく感じた。シャワーを浴びて制服に着替える。
(うん。やっぱりまだしっくりこない)
「秋斗ー。やっぱり多く見えるね〜。3年後にはどうなってるのかな?」
思っていたことを母に言われた。
その後、目をこすりながら起きて来た妹とすれ違い、先に起きていた父と共に家の扉を開けた。ゴミ出しをお願いされたが自転車通学を理由に断った。学校までは車を使わなくても1時間半かかる。家から最寄り駅まで自転車30分。電車で学校最寄り駅まで30分。学校最寄り駅から学校まで自転車で30分。なぜここまで遠い学校を選んだのかとよく聞かれるが、単に生徒主体で自主性を重んじる校風に魅力を感じたからである。自転車のペダルに足をかけ、学校に向かって漕ぎ出した。
今日は、雲ひとつない碧羅の天。風も暖かく、桜並木の桜が風が吹くたびに舞っている。自転車通学、そして高校生活2日目だから感じる自然。身の回りで起こること何もかもが明るく見えた。
駅に着いた。自転車に鍵をかけていると、無料の駐輪場で自転車の整理をしていたおじいさんに話しかけられた。
「今日から学校かい?」
「はい!」
「どこの学校かね?」
「ここから1時間ほどの帝教大学附属高等学校です。」
「おおー!また遠いところに。頑張ってな。」
「あいがとうございます」
おじいさんとの一連のやりとりが終わる。
改札を抜け、電車に乗った。いまいちまだ実感がわかない。中学校の時に大きいと思って見ていた高校生に今自分はなっている。
学校の最寄駅に着き、駐輪場から出て、踏切待ちになった。と、ここでおじさん2が登場。前のおじいさんよりも丸顔で柔和な顔のおじいさんが話しかけて来た。
「原池のところの高校かい?」
「はい!」
「あそこなー、おじさんの母校。」
「そうなんですね!」
「3年間はあっという間だからいい思い出をつくるんだよ〜」
「はい!ありがとうございます!」
踏切が開くとともにおじいさんとの会話は終わった。昔からよく祖父の友達と話をしたり、父の会社の社員さん方と話していたので、全然苦にならずむしろ楽しかった。
(こういう人がいたから今の僕たちの生活があるんだな〜)
そんなことを考えながら学校までの道を急いだ。
学校に着き、朝のST(朝の会)が終わると1限目。学級の組織決めをした。中学の時から前に出て何かをやるのは好きだったので、高校でも挑戦してみようと思った。
「男子級長になりたい人〜」
僕は手を挙げた。
「男子はー、桜井くんでいいですか?」
僕は凄く驚いた。席が前の方で手をあげるのが早かったのか僕以外誰も手を挙げなかったのだ。結局、信任投票で級長になった。
昼休みに入り、お昼の放送を聞いていたら突然生徒会長による今期の生徒会役員の発表があった。
「皆さんこんにちは。生徒会長の日下です。只今より今期の生徒会役員の発表をします。」
「副会長………書記………」
と次の瞬間。
「会計 桜井秋斗くん。」
一瞬耳を疑った。クラスのみんなを僕の方を見ている。
「え?桜井くんが?」
「ねえねえ、どうして生徒会役員に選ばれてるの?」
「まじかーー、すっげーー」
とりあえず質問責めにされた。自分の名前が呼ばれてからの放送は全く聞こえなかった。後からわかったのは、会長が中学校の時の先輩で僕のことを知ってたらしい。。
それにしても入学して1日目で生徒会役員に選ばれるとは思っていなかった。
あれから何日たっただろう。日に日にクラスの仲間との考え方のズレを感じるようになった。僕は次のことを見据えて言っているのに、みんなの理解は乏しい。こんな日がもう何日か続いた。
僕を外から見た時、充実していると思う人がいるかもしれない。級長、生徒会役員に選ばれ、勉強もそこそこできている。でも未だに心から友達と言える人がいない。クラスの全員と普通に話しているけど心の友達がいない。
周りのみんなは楽しそう。自分はなぜこうなのか考えてしまう。楽しそうに話しているみんなが眩しく見える。
自分の周りが騒がしく感じる。色んな声が入り混じり、気持ちが悪い。声の渦に巻き込まれていくように感じる。
日々生活を送っていく中で僕は週1で学校を休むようになってしまった。