七話 鼠と巨龍
ヒトラーがこういうとマウスが用意され、業火が広がるベルリン市街へと進出した。マウスはヒトラー直々の命令により、作られた重戦車である。全長十メートル、重さ百八十七トン、主砲口径十二・八センチ、副砲は七・五センチという大変なものであった。
この鼠という名の化け物は、外観は横長の直方体の物体を大小二つ重ねたようなもので、フォルムとしてはたいへんシンプルなものであった。
しかし、その巨大さからもわかるように、量産は難しく、たった二両しか作られていない。しかも、一両はエンジントラブルを起こして動けない状態にあった。
超重戦車マウスはその巨体をのそのそと動かしながら、一匹の巨龍の前に到着した。
巨龍が火を吐いてくることは、マウスの乗員は重々承知していたから、照準は急いで行った。
巨龍が胸を膨らませて思い切り息を吸い込む。
マウス主砲操縦主は、焦る心を抑えつつ、主砲発射把丙を握った。
マウスはその体をぶるりと振るわせて、轟音とともに十二センチ砲弾を排出した。
その衝撃たるや、すさまじいものだった。マウスの後ろからついてきてい歩兵小隊は、一瞬のうちに生じた爆風の衝撃波によって、地面にたたきつけられ、そのうちの幾人かの鼓膜はたちどころに破れてしまった。
砲弾は空中を飛翔し、巨龍に命中すると巨龍の皮膚を、肉を裂き、そしてその体の内部で爆発した。
破片や爆風が体内で吹き荒れ、巨龍は一瞬のうちにただの巨大な肉塊と化す。
マウス搭乗員はマウスの主砲の破壊力に驚嘆した。
何せ、あそこまでドイツ軍を苦しめた巨龍を一瞬のうちに死に至らしめたのだから。
「よくぞやった。マウス搭乗員には騎士鉄十字章を与えよう!」
巨龍一匹撃破の報告をマウスの無電で受けたヒトラーはそう言った。
しかしまだ巨龍二匹が残っている。