三話 闘争の勝利
「よろしい。それでは、ベルリン守備隊とヴェンクの第九軍、デーニッツの海軍兵十万人に補給を取らせ、ベルリンに再集結するように命じるのだ。おそらく――私の予想ではルーズベルトが死んだことで奴らは戦意を失った、もしくはアメリカ国民が不戦の立場をとり、アメリカが停戦。その不戦の波が各国に広がったのだろう」
ヒトラーは報告を受け、このように判断した。
ヒトラーの考えは、現状から言ってそう考えるしかなかったといえる。並みの事態では、展開していた二百万名からなる部隊を引き上げさせたりはしないはずである。
「ボルマン!君にかかっている。この好機を逃してはならぬ。君の手腕で東方の石油を得られるように交渉し、ただちに兵器の燃料の手配をするように」
ヒトラーはそう言って、次にゲッペルスの肩に手を置いて、青く燃えるような目で彼を見つめて、腕をしきりに振りながら言った。
「ゲッペルス。今この時に我々は闘争に打ち勝ったのだ。すぐに演説の準備を。ドイツ国民に知らせるのだ。ゲルマン民族の勝利と栄光を。思えば、我が半生は常に苦難の日々だった。しかし最後には必ず勝利がやってきた。それはこの戦いも同じだったのだ!」
ゲッペルスは、にやりと口角を上げた。
「総統閣下。それでは演説の準備を致します。我らの功績は未来永劫残るでしょう。では私の原稿も考えますかな。 (諸君らは総力戦をのぞむか⁉)と」
これは彼なりのジョークだった。彼は前年に、諸君らは総力戦を望むかという名文句を演説の中で何度も叫んでいた。それを自身でもじったのだった。