二話 ベルリンは霧と共に去りぬ
その時、急にベルリン及びドイツ軍の各陣地は霧状の何かぼんやりとしたものに包み込まれた。ソ連軍はこれに狼狽した。何しろ照準が効かなくなって、有効砲撃ができなくなったのである。しかし、さすがはソ連軍。一時の間をおいて、すぐに砲撃を開始し始めた。
数時間にわたってたっぷりと砲弾を撃ち込んだ後、突撃に移った。
しかし、ベルリンに踏み込んだソ連軍が見たものは、何もない荒野であった。ドイツ兵もベルリンの町も消失していた。てっきり、自軍の砲撃ですべて吹き飛んでしまったのかと錯覚するほどであった。
ジューコフは事態の把握に務めるとともに、全軍団の進撃を停止させた。そして本国のスターリン総書記に状況を説明し、次の指示を待った。幾多の戦いを勝ち抜いてきた名称ジューコフと言えども、このような古今未曽有の事態には唖然とするしかなかった。
総統地下壕大本営では、懸命に事態の収束が図られていた。
数週間もの間ソビエト軍の砲撃にさらされていたベルリンであったが、急に砲撃がやんで、水を打ったようにしんとした。ヒトラーは、敵の弾薬の補給が切れたに違いない。直ちにヴェンクの第九軍とベルリン守備隊と共同でソビエト軍を攻撃すべし、と口角泡を飛ばした。ドイツ参謀たちは、怒れる主導者をなだめた後、冷静に、事態の把握に努めることを決定した。
すぐさまベルリンの一角の地下壕に収納されていたオートジャイロが引き出され、偵察に駆り出された。
オートジャイロは、ベルリン周辺をくまなく偵察した。
なぜか敵軍は跡形もなく消え去っていて、戦闘で憔悴しきったドイツ兵がちらほら点在するのが見て取れた。
さらに、大地には霧が幕のように覆っていて、遠方を見渡すことができなかった。
オートジャイロは一通り偵察し終えるとベルリンに帰還。ドイツ本土の情報は直ちにヒトラー総統に伝えられた。