『会社員編』(1:0:1)
男性1人、不問1人、計2人用声劇台本です。
使用はフリーですが、事前、事後問わず報告頂ければ喜んで聞きに参ります!
アドリブ改変等お好きにどうぞ(*´ω`*)
(所要時間10分)
キャスト
店主(不問)
客(男)
店主
「いらっしゃいませ。お客様は、どんな夢をお持ちですか?
…あぁ、知らずにいらしたんですね、えぇそうでしょう。
この店は、望む者しか見えず存在しない、そんな店なんです。心の奥底にある、その夢を叶える事が出来る場所なのです。
分からない…ですか?
それでは…店主のこの私が、お客様のココロを、覗いてみましょうか…」
間
客
「はぁ…今日もサービス残業で遅くなっちゃったよ…
やっべ、チンタラ歩いてたら終電間に合わねぇ!!
タクシーなんて無駄金使ってる余裕ねぇし、くっそ!」
店主
「いらっしゃいませ」
客
「…え?
あれ、何だここ…!」
店主
「おや、お客様、そのお姿から察するに、お仕事帰りでらっしゃいますか?
大変お疲れ様でした。
さぁ、こちらへどうぞ」
客
「え?
いや、ちょっと…待って貰っていいっすか?」
店主
「折角おいでになったんですから、お茶でもお淹れしましょう。
喉が乾いていらっしゃるでしょう?」
客
「それはまぁ…いや、そうじゃなくてですね…」
店主
「何か?」
客
「…おかしい……
さっきまで、確かに会社からの帰宅中で…え?」
店主
「あぁ…申し訳ありません、久し振りの来客で舞い上がってしまっていた様です。
前置きを省いてしまっていたとは、私とした事が…いやはや失礼致しました」
客
「あ、いえ、ご丁寧にどうも…じゃなくて!」
店主
「貴方が生活している次元の裏側にある当店は、時間という概念が存在しておりません。
お客様の望むモノが手に入り次第、きちんと元の次元にお帰し致しますからご安心下さい」
客
「…はい?」
店主
「……お客様、もしかして…阿呆、ですか?」
客
「なっ!?」
店主
「冗談ですよ。
コロコロ表情が変わるお方なので、つい…」
客
「か、帰る!!
……あれっ、ここ、出入り口は…!?」
店主
「ふふふ…
さぁ、美味しい紅茶が入りました。
こちらを飲んで頂きながら、説明させて頂きましょう」
客
「せ、説明?」
店主
「当店は、時空の狭間に存在し、求める方しか来る事が出来ない…そんな店なのです。
貴方の夢は…何ですか?」
客
「は?
いやいや、俺は何も求めてないし…何が何だか分かってねぇんだけど!」
店主
「やれやれ…貴方はまだ理解していない様ですね。
叶えたい夢が…あるのでしょう?」
客
「知らねぇよそんなもの!
こっちはサービス残業終わりでクタクタなんだ、早く帰してくれ!!」
店主
「自覚が無いんですね…
いいんですよ、よくある事ですから。
では、店主である私が、貴方のココロを暴いて差し上げましょう」
客
「な、なん…だ…っ!?」
間
店主
「おや、ここは…どうやら貴方がお勤めしていらっしゃる会社ですかねぇ」
男
「ど、どうなってるんだ!?」
店主
「お客様、鳩が豆鉄砲喰らった様なお顔ですね、イケメンが台無しですよ」
男
「はっ、瞬間移動か!?」
店主
「いいえ、これは貴方の記憶です」
男
「記憶!?」
店主
「ここが貴方のデスクなんですね…ははぁ、どうやら貴方は整理整頓が苦手なご様子で」
男
「な、何なんだアンタ、さっきから失礼じゃないか!」
店主
「これはこれは、失敬致しました。
いやしかし、日頃の仕事ぶりが伺えますねぇ…
大方、残業をせざるを得ないのもこういった癖が原因なのではありませんか?」
男
「う、う、うるさい!!」
店主
「自宅と会社の往復…休日はどこにも出掛けずぐうたら過ごす日々…なるほど、そんな毎日に嫌気がさしている、と」
男
「何だよ!
そんなもの、俺だけじゃないだろう!?
独り身の男なんて皆そんなもんだ!」
店主
「えぇ、そうですね。
でも貴方はそんな自分がお嫌いなのですね…」
男
「嫌い?」
店主
「おや、また場面が変わる様です。
ここは、見るからに社長室、ですねぇ…」
男
「な、何だよ…何が起きてんだ!」
店主
「先程のオフィスの一室とは随分雰囲気が違います。
似つかわしくないと言える程に」
男
「…そうだろうさ、ここは俺が勤める会社じゃねぇ」
店主
「高層ビルの最上階でしょうか、全面窓ガラス、煌びやかな夜景が眼下に広がっています。
調度品も豪勢ですねぇ……おや?
何とも座り心地の良さそうなあそこの椅子に座っているのはどなたでしょう…」
男
「あ、あれは……俺!?」
店主
「なるほど…貴方の夢は男なら誰しもが憧がれる、一国の主ですか…
今の自分では満足しないと、そういう事なんですね」
男
「……あぁそうさ、何が悪い!!
氷河期なんてもんじゃねぇ、呼吸すらもままならない就職活動を乗り越えて何とか引っ掛かった中堅企業!
就労規則なんかただのお飾りだ、連日続くサービス残業という名の牢獄!
指示1つまともに通じねぇ新入社員の尻拭いをさせられ、中間管理職には八つ当たりされ!
見合う給料も支払われず、学生時代の友人の誘いに付き合う余裕なんてねぇっ!!」
店主
「叶えて差し上げましょう、その夢を」
男
「はぁっ、はぁっ……な、何だって…!?」
店主
「貴方の夢は社長になる事、そうですね?
叶えてみたいと思いませんか?」
男
「…はっ、何を馬鹿な事を…そんな事が出来る訳が…」
店主
「その代わり…」
男
「…なっ…また瞬間移動か!?」
店主
「貴方の大切な思い出を対価に頂きます」
男
「大切な…思い出…?」
店主
「何と美しい夕陽でしょう…
ここは、貴方が生まれ育った街…素敵な高台ですねぇ…
佇んでいらっしゃる女性はどなたですか?」
男
「っ!!
やめろ、それだけはっ!!!」
店主
「ご馳走様でした」
間
男
「本日のスケジュールは?
朝イチから運営会議、で、決済と株主総会?
終わったらこの山になっている書類の束全てに目を通して捺印、夜は提携企業の接待…
そんなもの中間管理職にでも任せてゴルフに…え、ダメ?」
店主
「彼は無事に大企業の社長として奮闘している様ですね、良かった良かった」
男
「昨日も睡眠時間2時間だよ…このままじゃ倒れるよ、俺。
社長命令!
今日の予定全部キャンセル!
無理、出来ねぇ!!
普通の生活に戻りたい!!!」
店主
「ふむ…分不相応の夢は、彼にはやはり重荷だったのですかねぇ…
まぁ頑張って貰いましょう、後戻りは出来ないのですからね…ふふふ…
それにしても…このお客様の思い出は、何とも甘酸っぱく……大変美味でございました。
さて、次のお客様は一体どんな夢をお持ちなんでしょう。
美味しい思い出と共に…お待ちしておりますよ…?」
-end-
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