転生者狩りVS転生者〜チートの集まり〜
「あ〜……くっそ。 転生者増え過ぎだぞ。俺らの身にもなってくれよ」
一人の男がボヤく。 黒髪の天然パーマに翡翠の眼が特徴の長身の男。 男の名前はゼリス・ブラウス。 職業は転生者狩り。 その名の通り異世界から転生されてくる転生者を狩る仕事をしている。 ゼリスの周りには物言わぬ屍と化した転生者達が地に伏していた。
ゼリスは前髪を乱暴に掻き上げ、物言わぬ屍達を一瞥すると嘆息を吐く。
(最近は雑魚ばかりだな。その癖数が多いから疲れる事には変わりねーが)
ゼリスは屍の頭を何の躊躇も無く踏み潰すとその足のまま何処かへ行こうとするが、視線の先に人の足が見えた為顔を上げる。
「なんだお前か、ミリア」
顔見知りと知ってまたもや嘆息を吐くゼリス。それにミリアと呼ばれた赤髪のポニーテールの少女は頬を膨らませると不満そうに腕を組んだ。
「うるさいわねー。ゼリス、そっちは終わったの?」
「ああ。 酷く退屈なバトルだったがな。最近の転生者は骨がねーが数が多い。こんなんじゃ身体がもたねーぜ」
肩を竦めるゼリスに小柄な体躯のミリアは背伸びをすると頭頂部にチョップを叩き込む。 不意の一撃にゼリスの肩がビクつくが即座に反応して飛び退くとミリアを睨んだ。
「ミリア……! チョップするなって言ってるだろうが! いい加減ハゲるぞ!」
語気を強めて叱るゼリスにミリアは堪えてない様子でケラケラと笑っていた。 その態度にゼリスは怒る気も失せてしまい踵を返すとその場を離れようとする。
「あ、待ってよゼリス〜! 私を置いてかないでー!」
ゼリスの後を走って追いかけるミリア。その様子は兄の後を追いかける妹のようでもあった。
「ミリア、お前が戦った転生者の能力はどうだった?」
道中でゼリスはミリアが戦ったであろう転生者の情報を得ようとしていた。 情報の共有や最近の転生者の傾向を知っておいた方が対策もしやすいからだ。 ミリアは腕を頭で組みながら空を仰ぐ。
「んー、そうねぇ……どれも微妙な能力ばかり。 でも最近は能力ってよりも魔法が多いかな。でも弱いやつばかり。 ゼリスじゃないけど多少骨がある奴と戦いたいよ」
ミリアが半目を作って文句を垂れる。 ゼリスはそれに適当な相槌を打つと地面に視線を向けた。
ゼリスもミリアも対転生者用の能力者である。 二人はかなりの実力者であり能力の行使も熟知している。 ゼリスの能力は『万物固定』、ミリアの能力は『左右されない能力』と言った強力な能力を所有している。 この二つの能力は並みの転生者じゃ太刀打ちが出来ない強力な能力となっている。
増え過ぎた転生者を狩る二人はその能力で転生者を狩っていた。秩序を守る為に。いたずらに世界を壊されない為に。
「ん?」
ゼリスがふと視線をやると男が立っている事に気がついた。 見慣れない服装、青髪の短髪。ゼリス達を一瞥するその男が醸し出す雰囲気はまさしく異質の一言に尽きる。 雰囲気で大体察しはついた。 この男は転生者だ。
「ミリア」
「分かってる。既に能力は発動させてるわ」
ミリアも臨戦態勢に入っていた。 ゼリスも能力を発動させる。 『万物固定』で相手の思考と行動をある一定の範囲内に固定させた。
「ほう……『万物固定』と『左右されない能力』か。 中々楽しませてくれそうだな」
「っ!?」
(能力が効いてないのか!? 今度の転生者はレベルが違え)
ゼリスは男の言動や動向に一層注意を払うとミリアを見やる。 が既に彼女は走り出していた。ミリアの『左右されない能力』は如何なる現象や事象にも左右されない特性を持つ。
故に彼女は相手がどれだけ強い能力を持っていようが『相手の能力に左右されない』のだ。
「はああああああああ!!!」
さらにミリアの攻撃は相手がどれ程硬かろうが『相手の防御力に左右されない攻撃』を放つ為、相手は必ずダメージを負う事になっている。 ミリアの攻撃は見事男の顔面に直撃するが男は何事もなかったかのようにミリアを一瞥すると口角を吊り上げると口を開いた。
「効かないな……。私は私に対するあらゆるダメージを取り除いたから君の攻撃は痛くも痒くもない。 それと君達の能力の情報を取り入れたから嬉しくてね。 精々私を楽しませてくれたまえ」
男はミリアを軽く殴り飛ばすとゼリスに視線を動かしたがそれまでだった。 男の動きが止まる。
「ほぉ……これは」
感嘆するように男が呟く。身体が動かないというのにこの余裕がゼリスには分からなかった。 ゼリスはこの男を危険と判断し男の行動を停止に固定し、一気に駆けると何処から出したのか剣がゼリスの手に握られていた。
「あんたが自分の能力を喋るよう未来を固定させてもらった。 そして俺達が必ず勝利に転ずるように事象の固定もな!」
ゼリスの攻撃は男の身体を穿つ。が、それすらも効いていないのか男は薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「悪いが私が負けるあらゆる要因を取り除き、私が勝利に必要なあらゆる要素を取り入れさせてもらった。 君達が私を認識する前からな。 故に私はどう転んでも勝利しか舞い込んで来ない。 あきらめろ」
「なっ……」
唖然とするゼリスを尻目に男はミリアを一瞥する。
「少女を殺すのは胸が痛むが仕方ない事だ。 ゼリス・ブラウス、良く見ていろ。これがお前の相方の最後だ」
「させるか!」
ゼリスは自身の速力を最大に固定してミリアの下まで駆ける。 そしてギリギリのところでミリアを男から引き剥がすとミリアを庇うように手でミリアを制す。
「ゼリス……ごめんね。 足手まといになっちゃって」
普段は気の強いミリアが弱気になっていた。弱々しく謝るその姿はどこからどう見ても女の子らしさが溢れていた。 ゼリスはミリアに見向きもしなかったがミリアの頭に手を優しく乗せる。
「大丈夫だ。 こいつは確かに強敵だが俺はお前だけは死なせねー。 お前は俺が守る」
「ゼリス……」
微かにゼリスの身体が震えていた。 それに気付いていたミリアだったが掛かる言葉が見つからずゼリスの背中をただ見つめる事しか出来なかった。
(どうする……? あいつの能力は分かった。おそらく『取り入れる能力』と『取り除く能力』。 まさか自分に不利な事象を取り除いたり俺らの情報を取り入れたり出来る事までは予想出来なかった。 くそ……強えな)
ミリアの手前口走ってしまったが内心ゼリスは焦っていた。 仮にゼリスの『万物固定』を以ってしてもこの男を倒せる確率は限りなく低いだろう。 が、倒せる可能性がゼロでないのなら倒せる可能性を絶対に固定すれば良い。
ゼリスは早速能力を行使し、男を睨みつけるが男に何の変化も見当たらなかった。
「これでどうだ!!」
ゼリスは男が何らかの天災に遭う確率を一〇〇%に固定した。すると突如男の真下の地面が地割れを起こし、地面に空いた大穴が男を呑み込まんとしている。 しかし男は気付いた時には別の場所に移動していた。
「遊びは終わりだゼリス・ブラウス、ミリア・レーダント」
「ぐっ……」
二人を射抜く男の目は本気だった。 ゼリスは能力を行使しようとしたが身体の自由が不意に効かなくなり、思考が止まる。
(〜〜っ!?)
冷や汗が止まらなくなり心臓が高鳴る。何かがゼリスの頬に掛かる。 それを震える手で拭うとその正体が判明した。
「血……?」
「ゼ……リ……」
ミリアの胸から腕が生えていた。 正確には男の腕がミリアの胸を貫いていた。
「実に良い能力だ。『左右されない能力』。取り入れさせてもらったぞ。 これで私は固定や変動に左右されなくなった為君の能力で私を倒すのは不可能になった」
いつ居たのか、何故動けるのか、そんな事は今のゼリスにはどうでも良かった。 ミリアを殺された。 この事実だけでこの男を殺すに値する。
「てめぇはぜってぇ殺す!!」
激情するゼリスと正反対に男は冷笑を浮かべた。
「どうやって殺すと言うのかね? 敗北要因を取り除き、勝利要素を取り入れ、さらに固定に左右されない私を。 転生者狩り……最初の相手が君達で良かったよ。 私はさらに強くなる事が出来る。 君の能力もついでに取り入れておこう」
時間軸を固定し、行動を固定し、座標を固定し、概念すら固定し、数を固定し、物質すら固定したがそれでも男は止まる事を知らずにゼリスの目の前まで移動するとゼリスの胸を軽々と貫いた。鮮血が噴き出し、徐々に薄れ行く意識の中でゼリスは一人の少女、ミリアを思い浮かべる。
(ちくしょう……ミリア、今行くからな……)
ゼリスはミリアの亡骸に手を伸ばしそのままミリアと寄り添うように絶命した。
*
艶のある銀髪に双眸から覗く金色の瞳を持つ少女がいた。 白のワンピースを身に纏い、何処か楽しげな表情の少女は人ならざる力の持ち主。
(ゼリスとミリアが死んだか。 まぁあれに勝つには能力的に厳しかっただろう。さて、次の転生者狩りはあの男か。 暇つぶしにはなるかな)
神すら軽々と凌駕する彼女は自身の能力を持て余している。 その強過ぎる力の彼女は世界の運命すらも手中に収めている。 人も世界も彼女の気分次第でその姿を変えていく。
全ては彼女の思うがまま。 今日も彼女は世界を見下ろす。