決戦、昼。
「て、敵のひとりを仲間にするの!?」
「その通りだ、そしてその手段としてブランシュの心理を利用する」
「心理って……何あんた、もしかして萌花ちゃんを使うつもりじゃ」
「……テストとか、そういった問題なら萌花の力は使いたいもんだが……彼女はあくまで一般人、こういう戦いには巻き込みたくない」
「待って、同じ理由で私も巻き込みたくないってならないの?」
「投擲物を自在にコントロールできる一般人ってなんだよ。話戻すぞ、ここからが重要なんだから」
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「さて、来るかな?」
昼休み、未だに雨は降り続けている。
その音を聞きながら、俺はお悩み相談部の部室で一人、ある人物を待っている。
麻枝寧々、ブランシュだ。
朝のことを伝えようが伝えまいが、ここに来る可能性は十分高い。
でも最終的には相手依存のこの状況。いくらここに来ることが最良の手であっても、何かの勘違いで来ないということもある。
まぁそうなったら……負けるわな。
「……来たわよ、居る?」
敗北を見据えたこのタイミングで、ドアのノック音が聞こえた。そしてこの声。
「来たかブランシュ、いいぞ、入ってこい。」
「あんたに命令されるなんて……屈辱」
そう言いながらも勢いよく扉を開き入ってきた。まだしかめっ面だよこの女、授業中もそんな顔してんのか?
あらかじめ俺が出していた椅子に座って、俺と彼女が向かい合う形になった。
カーテンは付けない、お互いの姿が見える状態。
「一応、言ってきたわよ。一つ目だけね」
「一つ目だけ……ってことは、こちらの仲間になるってことでいいのか?」
「……そうとは言ってない、あたしはおじいちゃんを裏切りたくないから」
「じゃあ何故」
「二つ目だろうとなんであろうと、一つ目で放課後から戦いが始まるって言ってるんだから昼休みに報告したっていい、そこまでの影響はない」
「なるほど? つまり裏切る気は無いけど、俺の話だけは聞きたい。そういう事か?」
「えぇ、聞かせてくれるんでしょ? あたしがここにいるんだから。」
なんて自分勝手なのでしょう。そんなこと言って正直に話すわけがないだろうが。
「いいだろう、その自信に満ちた顔の裏にある不安な表情、見させてもらう」
俺がそう言うと、ブランシュの顔が少し歪んだ。
さぁて、お前の心を揺さぶってやるよ。
「さて、まずお前はどうしてレオルドに味方するんだ?」
「何分かりきったこと言ってるのよ、家族だからに決まってるじゃない」
「おいおいおいおい……違うだろ?」
「な、何が違うって言うのよ」
確かに家族だから協力するというのはある、普通の人ならそれが理由でちゃんと通る。
だがお前は、それには当てはまらない。なぜならお前は人じゃないから。
「認めてもらいたいから、だろ?」
「……」
その沈黙は、答え合わせってことでいいかな?
「だからお前は逃げた俺を追ってきた。家族のためだというのならそんな行動しないよな、そんなの自分でも分かってんだろ?」
「それがどうしたって言うのよ。確かにあたしはおじいちゃんに認められたいという一心で頑張ってきた。でもそれがどうしたって言ってるのよ」
やけに強く押してきた。あと少しで噛みつかれるぐらいに。
今のこいつの発言、これは俗に言う「マジマジ理論」に該当する。ちなみにこれは俺が勝手に命名した。
マジマジ理論とは、『マジだからマジマジ』みたいなこと言う時に限って大体はマジじゃないという理論である。
疑われるのが怖いから、そこを追求されたくないから、何故か何度も本当とかマジとか言ってしまう。繰り返してしまう。
結局の所何が言いたいかと言うと、今のあいつは俺に自分の行動理由を当てられて、次に正解を言われることを恐れている。
この自分の行動理由から『裏切ってしまう』まで繋がってしまうことを恐れている、だから無理やりここで遮ろうとしている。
あの言い方では続きを求めているように聞こえるが、そうではない。『俺の問に答えたんだから、文句はないだろ?』と釘をさしているに過ぎない。
だが俺の用意は例えるならば鉄板。釘程度じゃさすことも出来ないぜ、ドリルのような準備もないようだしな。
「一件関係はない、お前がレオルドに認められたいっていう行動理由とお前がレオルドを裏切ることはな」
「それじゃあ、やっぱりただの時間の無駄……」
「慌てるなよ、今からそれをゆっくり繋げるからよ」
朝と違って今は説明する時間がある。時間をかけて丁寧にこいつの心を揺さぶる。
それが俺が勝利するための過程なのだから。そしてその勝利は既に俺だけのものじゃない、俺達のものになっているから失敗は許されないのだ。
「お前も知っているだろうけど、レオルドから認められる手っ取り早い方法がある」
「……予想以上の成果を、あげること」
その通り、でもまだ足りない。
「まぁ極論、『俺を捕まえてレオルドの前に放り出すこと』だよな?」
この発言に対しては特に反応はなかった。分かっていて当然だろといった感じだろうか。
「そうね、あたしもそう考えてた。そこまで分かってる癖にあんたと組むと本気で思ってるわけ?」
呆れた、と言わんばかりのため息。明らかに俺を馬鹿にしているその態度、とてもとても気に食わない。
折角お前にもいい話を持ってきたって言うのに、その態度はダメだと思うぜ。
「思っている、お前をそうさせるために今俺はここにいるんだ」
「……馬鹿なの?」
「馬鹿じゃないさ、馬鹿って言うのは全く同じ失敗を三度繰り返す奴のことだ」
「何いってんの、普通二つでしょ?」
やめろ、そこを指摘しないでくれ。俺が馬鹿だってのがバレる。
「話を戻すぞ、お前はレオルドに認められたい、そのためには俺を倒すことが必要だ」
無言でこくりと頷く。正しいという確証の元まずは現状の把握から、これ基本。
目を閉じて、自分だけの世界へと移ろう。
……さて、ここから発想を枝分かれさせ様々な考えを頭に巡らせて、やつを仲間にさせるぞ。
大事なのは、『~~したい』という願望があるということはそれが叶っていないもしくは叶わない状態にあるということ。
文字に直すと、「レオルドに認められていない、でもリンデンを倒すことは出来ない」となる。
確認として向こうの目的は俺の記憶を消して元の世界へ戻すこと。
つまり向こうの目的は『リンデンを倒すこと』となる。
俺を倒すことが目的ならば……俺を倒すことの出来ない存在であるブランシュは……。
「ブランシュ、一つ聞きたいことがある。正直に話せよ」
「……何をよ」
この考えは昨日の夜の時点であった。でもこの考えが正解と確定づけるまでは『今日のブランシュの行動と言葉が必要不可欠』だった。
さぁ、このロジックが真実までたどり着いたのか。この一言で見極めよう。
「お前……レオルドに戦うなと言われたな?」
実はこの時点で殆ど林田くん達の勝利は確定しました。




