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全ての人類に絶望を。  作者: うまい棒人間
狂ってしまった生き方と偏見と忍者とロリコン
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決戦、登校。

「じゃあ先に行くから」


 そう言って朱里は傘を片手に走って学校へと向かった。


 敵を欺くためには、騙していることを悟られてはいけない。だから朱里には全力でいつも通りを過ごしてもらう。


 一方俺は、まさに命の危機が迫っているような、そんなオーラを出し続ける。


 こうすることでまず雰囲気から俺たちに協力関係がないことを示す。


 雰囲気ってのはとても大事だ、印象付けることが出来るから。


 身嗜みが整っていない人間を、「きぎょう」が採用するはずがないのと一緒だ。いくら綺麗な言葉を並べても、印象が悪ければ容赦なく落とされる。


 所詮、この世は見た目だ。これはこの世界に来て学んだことでもある。


「さて、俺もそろそろ行くか」


 俺も朱里の後を追って、いざ最初の闘いの場へ……。


「ししょー……」


「ん?」


 後ろから呼び止められた。


 俺をししょーと呼ぶ人間は一人だけ。振り向いた先には髪もボサボサの寝起き弟子一号だった。


「おいおい、家から出るなよ」


「ごめん、でも言いたいことがあって」


「なんだ?」


 聞き返すと、彼女は下を向いて、服をぎゅっと握りしめた。それはなにかに怯えているような行動に見えた。


 そしてそのまま、何も言わない。長い間この時間続けるわけにも行かない、言わないならそのまま部屋にこもっていてほしいものだ。


「……帰ってきてからじゃダメか?」


「だ、だめっ!」


「そうですか、じゃあ出来れば早く言って欲しいかな、こっちにも都合がある」


 少々冷たく当たりすぎただろうか、でもこっちだって真剣なんだ。一つのミスが全てを崩壊させる。そんな綱渡りを俺達はしているんだ。


 初っ端、失敗する訳にはいかない。


「や、約束……」


 覚悟を決めたのか、ようやく口を開く。


「約束?」


「ししょー、約束破った、だから次はちゃんと守るって言った」


「あぁ、言ったな」




「それ、明日! 明日の夜! 明日の夜遊んで!」




 下を向いたまま、彼女は吐き捨てるようにそう言った。


 俺は言葉を失った。この状況で何を言っているのか、と思った。


 でも、少し考えれば弟子一号の真意なんて簡単にわかる。


 そして分かると、張り詰めていた俺の表情が、すこしだけ緩んだ気がした。


「だから、だから……」


「……だから?」


「……!!」


 俯いたまま、裸足で俺の方に駆け寄ってきた。こんなこと、はっきり言って迷惑だ。部屋から出ると作戦に支障が出る。


 でも、そんなことは言えない。言えるわけがない。


 弟子一号が俺に抱きついてきた。俺の腹部に顔をうずめ、密着してくる。


 強く強く、抱きしめられる。


「……死なないでね」


「……死ぬわけないだろ、深く考えすぎだ」


 照れくさい、俺のことを本気で思ってくれた他人というのは、初めてだったかもしれないから。


 嬉しかった、ここから消えたくないという俺に対して、死なないでと言ってくれたことが。


 ありがとうな、弟子一号。


「約束は守る。それまでちゃんと家にいろ、いいな?」


「……うん!」


 顔を上げる、雨ではない何かで弟子一号の顔は濡れていた。それでも、最後は綺麗な笑顔で彼女は朱里の家に帰っていった。


 良かった。あの顔が見れただけでも充分だ。


 俺は改めて学校に向けて歩き出す。


 決意はより一層固くなった、必ず弟子一号との約束を守る。


 弟子は俺の言うことは守ってくれた、なら師匠である俺が弟子の願い一つ聞けないなんて。


「そんなの、師匠だなんて言えないよな」


 あぁダメだな、今の俺は希望に満ち溢れすぎている。


 にやりと、笑いが止められない。


 全く、これで作戦失敗したら恨むからな? 最高の弟子よ。




 ×××




 一応想定通りに、登校までは済んだ。相手側からしたら俺が一人でいる絶好の機会の先ほどの登校時間。それを狙わなかったとなるとやはり向こうも人目のつかない夜に決戦を挑むようだ。


 教室までたどり着く、この校舎内には、シーガとは別の敵、麻枝寧々と名乗っているブランシュがいる。


 油断も隙も出してはいけない。今日ぐらい、侵略者らしくピリピリしろ、俺。


 教室の扉を開く。


 教室の中は至っていつも通り、うるさい奴はうるさく喋るし、静かな奴は普通に静かだ。


 この教室内で、いつもと変わっている奴なんて今入ってきた俺ぐらいしかいない。そうでなくてはならない。


 普段とは違うオーラの出し方、そんなものは分からないけど目にシワを寄せて、イライラしてますよと表情に出していく。


 どかっと、俺の席に座る。


「よう、林田!」


「早坂か……」


 何やかんやでこいつも毎回話しかけてくるな、シノビゴキブリとかインパクト強すぎて顔と名前が一致しない、いや、まず俺こいつの名前知らねぇや。


「……悪い、今調子悪いんだ、ほっといてくれないか」


 俺は机に寝そべり、突っ伏した。


「お、おう……そうか……?」


 ほっといてくれ、と言ってるのになんかジロジロ見られるんだけど。日本語が通じないのかこの日本人。


「……あんまり無理するなよ、同じクラスメイトとして、心配ぐらいはするんだからな」


「……」


 そう言って、彼は違うグループに向かった。


 無理するなよ、か。


「……それは出来そうにないなぁ」


 無理をしないと勝てないし守れない。そういう状況なんだ、お前の願いを叶えることは出来そうにない。


 俺の周りから人の気配が無くなった。さて、俺は俺のやるべき事をやる。


 そっちは任せるぞ、相棒じゅり

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