史上最低の同盟
「作戦を作る前に聞きたいことが俺にもあるんだ」
「何? 私の恥ずかしい秘密とか聞こうものなら」
森谷朱里が少し恥ずかしそうに言った。聞きたくねーよ、後が怖いよ。
「違う、俺が聞きたいのはお前がどういう立場にいて、どういう存在で、どんな力を持っているかだ」
作戦に組み込むためにも、これは聞いておかなければならない。それこそ嘘偽りなく。
俺が今まで全ての事柄をこいつに伝えたのも、こいつに素直に話させる伏線。
「……フェアじゃないわね、それじゃああんたを倒す時私だけが不利になるじゃない」
「倒される気はしないが……確かにそうだな。いいぜ、俺の能力を教えよう。これでどうだ?」
「おーけーよ、乗ったわ」
にやりと悪い笑みを彼女は浮かべた。
あぁそういうことか、こいつは『戦闘に関する時』だけ、やけに頭が働くタイプだ……。
「まず、俺の力は魔力を固めるだけだ」
「私も一回しか見てないけど、ほんとにそれだけであんたが別の世界で一番強かったの?」
そうだよな、誰だってそう思うはず。
俺が優秀になれたのは一対一の戦いでの評価が一番高かったからだと思われる。
俺はワンオンワンに関しては最強だったが、能力故に俺は多人数の相手が苦手。
おい、こんなんで地球人を全員殺すことなんて出来るのか。
でも大丈夫だ、俺にはまだ切り札がある。
それは、能力の事じゃないから森谷朱里に必要は無い。嘘にはならない。
「応用が利くんだよ、俺の力は。形あるものは俺の理解があれば作れる」
そう言って俺は右手に剣をイメージして作り上げる。最早慣れたこの作業。秒すらかからず完成する。
「おお……」
森谷朱里が興味深々で剣をキラキラした目で見つめてくる。
こいつ、やっぱり戦闘狂か?
「まぁ、俺が語るべき能力なんてそんなにない。後は反射神経と身体能力が常人よりあるぐらいだな」
あと危機察知。俺の場合感覚が研ぎ澄まされてると言った方がカッコイイな。
「ナルシストね……」
「何が悪い。自分のいいところをはっきり言えないと就職や進学で困るぞお前」
「やめて! 異界人からそんなリアルな話聞きたくない!」
頭を抱えて椅子から転がり落ちる。床の上で魘されながら悶え苦しんでいた。
……自分のいい点を言うのはいいけど程々にね。
「さぁ次はお前だ。俺はちゃんと言ったからな、もう一度言う、嘘偽りなく言ったからな」
「別に騙そうなんて思ってないわよ……」
呆れた表情でため息をつかれた。流石にくどすぎただろうか。
「……私は、普通の人とは違うの」
イキリオタクかな?
「イキリオタクとか思ったでしょ」
「あぁ思った。謝るから俺の左手を握りしめるのやめろ、握力で砕ける」
話が進まない。こいつちっちゃいこと気にしすぎだろ、まるで俺だ。
「私には普通の人間が出せる最大筋力をはるかに超えることができる」
「それであの筋力ですか」
いまだに震える俺の左手をちらりと見て、その力に嘘はないのだと思えた。
そしてかつてこの女に叩き込まれた攻撃を思い出し。それを確信した。
結局、こいつただの化け物じゃないか。
「……それだけじゃない、あんたにも私のもう一つの力の一端は見せてるはず」
「もう一つの、力の一端?」
森谷朱里が俺に見せた力の一端。
少し記憶を探れば軽く思い出せた。
その身に受けたことはないが、明らかに常人とは違うものはすでに見た。
「それはお前の性格……」
だ、を言い切る前に机に置かれていたフォークを握りしめた森谷朱里を見て、思いとどまる。
「冗談だよ冗談、悪ふざけだからこの近距離でそのフォークを『投げる』なよ?」
本当に理解している、というのを彼女に伝えるために、重要な部分を強調して言ってみる。
「そ……わかってるならいいんだけどね」
器用にフォークをくるくると回し、答えた。
「そうよ、私に付属した能力の一つが『投擲』なの。複雑な回転をかけることも曲げることも簡単にできるわ、いわゆる投げるサイコガンね」
ヒュ、ヒュー!!
つまり、こいつは最初から俺に当てようと思えば余裕で当てることができたというわけなのだろうか。恐ろしい。俺はただビビらされていただけだった……?
「あ、サイコガンってわかる?」
「ある程度抑えてある」
「つまりはそういうことよ、これで私の持ってる能力は以上、本当にこれ以上ないから安心しなさい」
嘘をついているかついていないかなんて、そんなことは分からないけれど、俺たちはこれから協力して戦う身となった。
だから、まずは相手を信じよう。そこから始まるものだ。それがたった一日程度の共闘だとしてもだ。
「オーケーだ、信じよう。朱里」
「あんたさぁ……いったいどういうタイミングで私のこと名前呼びするの?」
え? 名前呼び? ……あっ、そういうことね。
「気づかなかったわ、別に意味はない」
「……じゃあこれを機に私の事は名前で呼ぶようにして」
いちいち意味を求めるほど野暮ではない。名前で呼んでほしいと言っているのであればそれに応えよう。
「んじゃあ、そうするか、短い協力になりそうだがよろしくな、朱里」
手を出し、握手を求める。
「ん、よろしく」
特に何も言わず、朱里はその手を握り返した。
「さてと……それじゃあ作戦会議と行くか」
「私に協力までさせるんだから、下手な失敗は許されないからね」
俺達はにやりと悪い笑みを浮かべる。
今ここに、史上最低の同盟が結成された。
次回? いつでしょうね。