ストレス+ストレス=右ストレート
土曜日
明日投稿します(大嘘)
本当にすみません。
「……」
「ししょー、さっきっからケータイポチポチして何してんの?」
「スタ爆」
「誰に?」
「俺のことが大嫌いなポンコツチビに」
「???」
弟子一号が不思議そうに首をかしげた。まぁ、分からないのが当然です。むしろ関わって欲しくなかったまである。
既読がつくまで延々と俺はポチポチ繰り返す予定だ。電話よりこっちの方が多分試行回数が多くて、あいつも起きやすいだろ。
はい、そんなのただの言い訳です。六割ぐらい嫌がらせのためにやってます。
あとで怒られるのは確定的に明らかだけど、そんなのはどうでもいい、今は安全確保が第一だ。
「やっべ、なんか楽しくなってきた」
日頃の恨みとか色々な鬱憤を、一つ一つのスタンプに込めて送信を続ける。いいストレス解消方法だ。
「ししょー……最低」
いつもならあと十回言ってくれる? とか言ってるけど、今はちょっとスタ爆お取り込み中。数えてないけど二百はいったな。
「おっ、既読ついた」
そして返信がひとつ。
『ころす』
明確な殺意を感じた。たった三文字でここまで怯えさせるなんてこと出来るのか。
漢字変換せずそのまま送り付けてるところとかとても怖い。
まぁ、今回は既読がついたってことが重要なんだ。こいつの殺意は今はどうでもいい、今はな。
「返信……と」
俺は『少し用があって家を出ていた。帰ったら話すから家を開けててくれ』と送る。
我ながら指使いが上手くなってきた気がする。クラスメイトの速さには到底及ばないが、俺もかなり進化している。
数秒で向こうから返信が来る。
『何もしてないでしょうね?』
ちらりと弟子一号を見た。
「? どうしたの?」
「いやなんでも……」
なにも、うん何もしてない。話せばきっと分かってくれるはず……はたから見ればただの誘拐だけど、きっと分かってくれるはず……。
だから、敢えて俺は無視をした。
ちなみに既読無視だ。
『ねぇ!? 大丈夫なんでしょうね!?』
大丈夫大丈夫。だからちゃんと起きててな。
ちょうど今、着いたから。
「ここが安置だ」
辿りついたのは、俺の出発点。森谷朱里のお家である。
そう、こいつをここに匿えば、助けることぐらいはできるはず。
森谷朱里が協力してくれれば、の話だがな。
「でっかい家だね、これ師匠の家?」
うん、そうでもあり、違うとも言える。
ちなみに安置とは言ったが、その安置に入れるかどうかはまた別。
玄関に明かりがついている。どうやら玄関で俺の帰りを待っていてくれたらしい。
「一応、また目を瞑っておけ」
「ま、また? いいけどさ……」
弟子一号はぎゅっと力を込めて目を瞑った。
おかしいな、ただこれだけの行為なのに、小さい娘というだけでここまで可愛いのか。
俺はシーガほど頭のおかしいロリコンじゃない。
でも、彼の気持ちはなんとなくわかる。
そう思いながら、玄関の扉に手をつける。さて、何が襲いかかってくるか……。
「ただい……」
言い切る前に、扉を開けた先には森谷朱里が目の前にいることに気がついた。
ニコニコ笑っててまるで初めて会った時みたいだぁ。
違う、問題なのは顔じゃない。森谷朱里はもう既に拳を放っている。一番の問題がこれ。
……あぁこれは躱せない。
「渾身の右ストレート!!」
ゴッと激しい音を出して俺の顔面にクリーンヒット……。
「……あくまで、躱せないってだけだ」
やりかねない、と思えたのが幸いだった。森谷朱里なら、初っ端ズドンはありえる。そう思えたからこそ体は動いた。
彼女の右の拳が当たる寸前に、手首を左手で掴めた。
マジでギリギリ、あとパンチが容赦無さすぎる。風圧が来たぞ。
「……おかえり」
「よう、いい目覚めだったか」
「野宿したいの?」
いえいえ、冗談ですよ。
「ていうか、あんたボロボロじゃない!? 何あったの!?」
「それも合わせて説明する、上がらせてくれ」
「ふーん、結構真剣な話みたいね」
やっぱりこいつ最近空気が読めるようになってきたな。俺の真剣さを察知してくれるカンの良さ、有難い。
感謝しながら、俺は安心して話を続ける。
「まず、紹介したい人物がいる」
ちょいちょい、と手招きをする、あ、そういえば目をつむらせたまんまだった。見えるわけないか。
「目を開けてもいいぞ、こっちに来い」
「え……何言ってんのこの男は」
森谷朱里にドン引きされた。言葉の使い方を間違えた気がしてならない。これ間違いなく変質者のセリフだ。
「え、えっと……ししょーの弟子です! こんばんわ!」
礼儀の良い挨拶と共に、俺の弟子が森谷朱里の家に入った。
森谷朱里はドン引きしていた。
「……あんた、小さい子にこんなことさせるのが趣味だったの?」
「おい、お前今凄い勘違いしてるから」
誠に遺憾である。まぁそういうことに興味が無いとはいえないが。
×××
家に入った俺達は、さっき起こったことを話した。
俺が深夜にレオルドという男から話を聞きに行ったこと。そこでこの弟子一号に出会い、道案内をしてもらったこと。事情が変わって、二人の敵と戦って来たこと。
そして、その片方は以前俺たちが会った『シノビゴキブリ』の可能性が高いということ。
隠し事はしない。すると俺の要求が通りにくくなるから。
全て話し終えたあと、森谷朱里は顎に手を当てて何かを考えていた。
「以上だ、本当に申し訳ないと思ってる」
「ん……なるほどね、あんたじゃ勝てない敵が来た、……それさ、私に言ってもいいわけ?」
確かにそうだ、こいつの目的は俺という存在を誰にも気付かれずに消滅させること。
森谷朱里からすれば願ってもない好機だ。
「あんたの敵ってことは私の味方みたいなものでしょ? 私があんたと組む理由なんてほぼ無いわよ」
それも多分合っている。俺達の世界を裏切るというのはこの世界の味方につく、という考え方で間違いない。
「だが、俺と組んでほしい……頼む」
そんなことはもう分かってる。でも、俺はこいつの協力なしにはあのシーガを突破することが絶対に出来ない。
そして、それ以上に……!
俺が口を開こうとしたその時に。
「いいわよ、別に」
森谷朱里が先に声を出した。了承の一言だった。
「……え? マジでいいの?」
「いいも悪いも、この話を断ったところで私があのロリコンシノビゴキブリに捕まる事は決まってるようなもんじゃない」
分かってたのか……。
「それに、あんたが言うように、そのブランシュって奴が学校に来れば、萌花ちゃんが一番危ない。最も自衛力のない人が狙われるのは当然のことだし」
そこも分かってくれていたのか。どうしたこいつ、なんか今までとは比べ物にならないぐらい頭キレてるぞ。
「ありがとな」
「感謝なんていらないわ。私は友達を守るために戦うだけで、それがブランシュっていう女とシーガを突破することなら、力を貸すわよ」
「……あぁ、それでいいよ」
本心なんて知ってどうする。どうにしろ何にしろ、協力してくれるだけで嬉しい。
これで何とかなるかもしれない、いや、何とかして見せる。
「あと、一つだけいい?」
安心しきってた俺に、森谷朱里が人差し指をこちらに向けて来た。
「何ですかね」
「……なんで既読無視したのよ」
まさかそこを聞かれるとは思いませんでした。
「別に……もう話す内容ないからいいかなと思っただけだよ。深い意味は無い」
俺がそう返すと、森谷朱里が急にムッとした表情になった。
「何それ、ちゃんと返信しなさいよ」
「別にいいだろ、あと少しで家に着きそうだったんだからあの時は」
「制裁っ!」
不意にペちんと、頭をひっぱたかれた。こいつの一撃なので普通に痛い。
「……心配させないでよ、全く」
え?
俯いて、本当に小声だったが、俺にはそうハッキリと聞こえた。
森谷朱里とは思えないような発言を聞いてしまい、頭が疑問で埋め尽くされる。
「おいお前今なんて」
「べ、別にいいでしょ!? 取り敢えずあのシノビゴキブリに対抗する作戦考えるんでしょ! 早くやるわよ! 早く!」
な、何今日のこいつ、逃げ出したいんだけど。
まさか、こいつが殴りかかってきたのって俺が返信しなかったから?
スタ爆に対する怒りじゃないのか?
それじゃあ、玄関にいたのは、俺を待ち伏せするためじゃなくて、迎えにいくため?
ダメだ、これ以上行くと自意識過剰なただのナルシストになっちまう。
今はこいつの本心なんて関係ないと言ったばかりだろ。
今重要なのは、『明日を乗り越えること』だけだ。
明後日投稿します。これはマジです。




