別世界にて③ まともな奴はいない、ただ天使は存在する
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、どうしたの? 顔が目が真っ赤だよ?」
小さくて可愛げのある彼女は、栗色のショートヘアー、目はくりくりとしていて、なんかとても可愛らしい、可愛い、てとてと歩く歩く姿も可愛い。もう全部可愛い。
by彼女の家族達
この少女の名前は《レスト》。この家族の末っ子であり、家族のみんなから愛されていたる。
それもそのはず、ここには目の腐った親父と、ぼっちの息子と、馬鹿のその姉しかいないのだ。だからこそ彼女のようなピュアな存在が、この空気を清浄してくれるのは分かりきったことであった。もはや当然。
「顔が真っ赤なのはねーレストちゃん、あなたが可愛いからなのよーよしよし」
「子供扱いしないでよお姉ちゃん!」
ぷくーっと頬をふくらませて、頭を撫でていたフォーレを怒る。
その光景を見て3人はこれまでにない笑顔を見せた。安らぎを感じた。
「くっ……」
その時突然ウッドルが涙した。
「ど、どうしたんだ親父」
リンデンがウッドルの近くにかけよる。なんか始まった。
「どうして、あの子に俺の血が流れているんだ……!」
「親父……」
むせび泣き、その場にウッドルは倒れ込む、その姿をリンデンも悲しそうな顔で見つめている。
するとリンデンは。
「ばっかやろう!!」
そう言ってうずくまっていたウッドルを蹴りあげる。リンデンの蹴りもフォーレに負けず劣らず強烈な一撃であった。
蹴りをくらったウッドルはその勢いのまま壁に叩きつけられた。苦しそうにむせっている。
「なっ……てめぇ何を……!!」
ウッドルがリンデンを睨みつけようとしたが、そのリンデンは先程の自分と同じように目に涙を浮かべていた。
「ふざけるなよ! そもそもお前がいなかったらあの天使は存在すらしていなかったんだ! 確かにお前はクズさ! ゴミだ! だけどお前はそれすら凌駕する天使を生み出した功績者でもある! むしろ血が繋がっているからこそ俺はレストちゃんに恋愛感情を持たずに愛でることが出来てなおかつ合法的にレストちゃんに触ることも出来るしお風呂にも入ることが出来るんだ! お前のおかげで俺はレストちゃんとこんなに仲良くなれたんだ! 誇っていいぞ、お前は嫌いだがレストちゃんの父としての貴方なら俺はあなたをヨーゼフとして認識している!!」
「……無駄にかっこいいこと言おうとしてるけど、内容はやはりクズね」
汚物を見る目でリンデンを見つめるフォーレ、レストはこの状況がよくわかっていないのか人差し指を顎に当てて頭の上にハテナマークを浮かべていた。可愛い。
「息子よ……許してくれるのか!?」
しかし向こうは向こうで盛り上がっていたせいか、考えることはやめていた。そこに立つふたりはまさにただの馬鹿である。
「当たり前だろ……! 父さん!!」
2人は抱き合い共に涙を流した。背景には(存在しない)夕日をバックに、青春を絵に表したような美しい家族愛が、そこに描かれていた。
「おねーちゃん、おとーさんとおにーちゃんどうしたの?いつもあぁやって抱きついてるけれど」
「うん、レストちゃんはこっちで遊ぼうねー、あの2人は無視してOK! さ、遊びましょ!」
どうやらこの展開は1度や2度程度起こっていることではないらしい、三人が喧嘩して、レストが現れ、その争いは終結する。
これがリンデンの家族の日常だった。
「……わかった!あの2人は無視する!」
「おいコラフォーレェ! レストちゃんに何吹き込んでんだァァン!!?」
「いくら姉でもやっていいことと悪いことがあるだろうがこのバカ姉貴が!!」
×××
「やっと出来た……俺の名前……!」
帰宅からどれほど時間が経ったのだろうか、部屋は喧嘩で荒れている、ウッドルはボコボコにされて気絶中。リンデンも顔面が少し腫れているようにも見えた。
ただ何故か、フォーレだけは無傷だった。その無傷の化け物、フォーレはリンデンの発言に反応して、ずっとレストに向けていた視線をリンデンに向けた。
「ほう、おねーさんに見せてみなさい」
「俺のセンスに感動でもするんだな、そして己の馬鹿さ加減を見つめ直すがいい」
フォーレがリンデンをビンタした。反応すらできない速度で、腫れていた部分をピンポイントで叩き込んだ。
その音のせいか、気絶していたウッドルが目を覚ました。
「おいリンデン、俺にも見せてくれよ」
「いつつ……。おういいぜ親父。けど口臭いから俺の目の届かないところで見てくれよな」
ウッドルはリンデンの腹部へ拳を無言でぶち込んだ。
それで気が済んだのかウッドルはケッとつばを吐いてリンデンから離れてそのまま横になり眠る体制に入った。
リンデンはそんな自分の親父の姿を見て、憎しみを込め彼に向けて中指だけを上に向けた。リンデンの顔は大きくゆがんでいた。
「お兄ちゃん、私も見たい!」
「いいよレストちゃん、なんならもっと近くにおいでほら、ここ来いここ」
リンデンがぽんと膝を叩いてここに来いと催促する。そしてそれに笑顔でレストは答え、ちょこんとリンデンの膝に座る。
「…………」
まるで回復魔法でも受けたかのように先ほどまでのゆがんだ顔が打って変わってリンデンの顔が安らかになっていき地球にいた時の腐った目と表情が壊れていった。そしてクールぶっていた彼のキャラももはや崩壊寸前であった。
「リンデン、これなんて読むの?」
リンデンが自分の名前を書いたであろう紙をひらひらさせながらつきつける。
そこには、四文字の漢字が書かれていた。
フォーレの「つきつける」によって正気を取り戻したリンデンはふふん、と腕を組み自信満々の表情で。
「ねぇさん。今日から俺は、林田 真希と地球で名乗ろうと思う」
ドン!! と効果音がなるぐらいの声で、そう言った。
フォーレは吹き出した。
「絶妙で微妙なチョイスね、一応理由を聞かせてもらおうかしら?どうしてそんなに反応に困る名前にしてしまったのかしら?」
「林田のところは簡単だよ、俺の名前はリンデンだからそのまま日本語っぽくしてみただけ、真希の部分は……ごめん恥ずかしくていいにくいんだけど」
リンデンが頬を照れくさそうにポリポリかきながら乾いた笑いとともにそういった。
しかしその行動が姉のフォーレに悪い影響を与えてしまったようだ、彼女はにやにやと笑いながらリンデンに近寄ってくる。
「お?なになに?恥ずかしがらなくてもいいんだよ?おねぇちゃんは弟であるお前のどんなに恥ずかしいところも受け止めてあげるつもりだから♪」
「うぜぇ……」
そんな姉に心底いやそうな顔して手で押し換え弟、そんな光景をレストは面白そうにニコニコしながら眺めている。
「お兄ちゃん!私も知りたい!」
「ちっしょうがないなーしょうがないから教えちゃうよ!」
恐ろしいまでの手のひら返しである。もうそろそろリンデンの手首はボロボロだ。
「やったぁ! 教えて教えてお兄ちゃん!」
今度は妹がニコニコと笑いながらはやくはやく! と答えを求めてくる、リンデンはそれを受け入れコホンと一息つき。
「真希っていうのはまぁ、この漢字の通りだ。真実の真に希望の希、俺はこの世界でそんな存在になりたいんだ。っていう思いを込めて、かな?」
誰も言葉を発さなかった、誰も笑わなかった。レストはよくわからないといった顔をしていたがフォーレは目を丸くしてあっけにとられたような顔をしていた。
そんな空気に耐えられなくなったのか、顔を赤くしてリンデンが叫んだ。
「ほらぁ! こんな空気になるから言いたくなかったんだよ……くそ、俺のキャラがどんどん壊れてしまってるじゃねぇか……」
うー、とリンデンはうなった、するとフォーレはレストがらみでないと見せなかったような優しい笑みを浮かべ、頬づえをつきつぶやいた。
「……いいじゃないこの名前」
「はぁ? そんな慰めいらんわ」
「慰めなんかじゃないわ、あんたらしいじゃない、普段はぐちぐちうるさいし性格は悪いしぼっちだし自分が人より頭がいいことをここぞとばかりに自慢するあそこで寝ている親父並みに糞人間だけど」
「とどめを刺しに来たのか?」
とても悲しそうな顔だった。あと一歩で涙があふれてしまうほどだった。フォーレはその顔を見て違う違うと手をぶんぶんと振って否定する。リンデンはその必死さに嘘はついていないなと確信し「よかった」とため息をつく。
「ただあんたはちゃんとした人間だから、しっかり責任感はある。それがあの親父と違うところね、お母さんにも見放された人だし。そのあんたが自分から希望になるっていうんだから……決意が表れてていいじゃない」
「ねぇさん……」
フォーレは立ち上がりリンデンの頭にポンと手を置いた。リンデンからしてみればそういうことをされるのは男として、とても恥ずかしいわけで、すぐにその手を払いのける。
が、フォーレはそれを許さない、何度も何度も払われても何度も何度も手を置き撫で続けた。
先に観念したのはリンデンで、結局されるがままとなってしまった。
「ねぇ、あんまり無茶しないでね。リンデン」
頭を撫でながら言うそのフォーレの声はとても寂しそうな声だった。
いつもの声とまるで違ったことに違和感を覚えたリンデンは、恥ずかしくて下げていた顔を上げてフォーレを見る。何故か彼女は目に涙を浮かべていた。
「何泣いてんのねぇさん」
「なんで泣いてんのお姉ちゃん!」
「ごめん、何でもないわ。リンデン……いや、真希、頑張ってね。あんたが自分で希望になるって言ったのよ? 約束は守ること。そして……」
一泊おいて、フォーレは言った。
「誰にも恥じぬ生きざまを」
デコピンを一つ、リンデンに食らわせた。
優しいデコピンだった、さっきまでの凶暴な一撃とはまるで違う一撃。
リンデンはにやりと笑う。そして誰にも聞こえないような声で、「任せろ」と呟いた。
1日で2話出すことが出来ました。これでもうストックは切れました。ペースを落とさないよう頑張ります