失望の先にある怒り
「……ふぅ」
女性の頭をこれだけ思いっきり叩いたのは初めてだ。まったく、さっきまで「ハリセンボン飲ませたくない」みたいな発言していた男のやっていることとは到底思えないな。
まぁ、正当防衛というやつだ、許してくれ。ブランシュ。
今回の武器は野球でよく見る「バット」というものをイメージして作った。俺の強烈なダウンスイングから生まれた打球は顔を勢いよく地面に突き刺し、ノックアウトさせた。
いや、最早これは野球じゃねぇ、ギロチンだ。
でもまぁ、こんなんじゃ死なないのが魔術師というもの。ぶっ倒れたまま動かないけど、気絶してるだけだ。
……実の所、逃亡戦をやるにしても、追いかけてくるのであればどこかでこの女を倒さなければならなかった。
俺が逃げ帰れる場所なんて、この世界には森谷朱里の家しかない。
ただそんなことをしてしまったら、森谷朱里までもこの戦いに巻き込んでしまう。
魔術師を憎む彼女が、ブランシュに会ったらどうなる? そりゃもう戦争しかない。
同じ魔術師であるブランシュが死ぬさまを俺は見たくないし、森谷朱里が死んだとしてもそれこそ不味い。魔力は森谷朱里持ちのまま消え去り、ゴキブリの卵のように彼女の仲間が俺達を襲う。
だから、彼女らの接触を避けるために、もし追いかけてくるようであれば俺はブランシュをできるだけ家から遠いところでノックアウトさせなければならなかった。
本来なら今のこの状況、ウェーイと声を上げて叫びたいほどの、俺が望んでいた状況なんだが……。俺は今最高に気分が悪い。
「お前のせいだよ、クソジジィが」
「リンデン……貴様、儂の孫に……!」
おお、レオルドが表情にそこまで出すなんて珍しいな、それほどまでにこのブランシュは大切な存在だったようだ。
「おい、レオルド……!」
だが、俺のイラつきはそこにある。かつて最下位争いを繰り広げた俺のライバルを悲しませたことは、許せない。
「少しは自分を慕ってくれた存在のことも考えろ! ふざけんじゃねぇよ、よりによってお前は自分を一番信頼してくれている存在を裏切ったんだ」
俺も裏切られた、でも今回裏切ったのはよりにもよってこのジジイの肉親。ダメージなんて、俺とは桁違いに深く、重いものになる。
「ブランシュは、こいつはな! ずっとアンタに認められたいがために、アンタの役に立つためにずっと頑張ってきたんだ! 結果が出なくても、馬鹿にされてても、ただその一心だけは、あいつはずっと変わらなかった!」
久しぶりに声を荒げる、そこまで俺はブランシュと仲が良かったわけじゃないけれど、互いの信念は一致していた。
レオルドは俯いたまま黙っている。
俺は、魔力を持ったまま何も出来ないタンク時代の俺を救ってくれたこのレオルドに強くなったところを見せたかった。
ブランシュだって同じだ、弱かった自分の成長を認めて欲しくて頑張ったんだ。
「……せめて、俺の時のように、強くなったなぐらい、言ってやれよ……!」
なぜ俺に言えて、彼女には言えないんだ。肉親だろ、家族だろ、お前らは。
レオルドが顔を上げた、その表情は、いつもと変わらない。
「儂は、別に頼んでおらん、逆に儂が怒りたいぐらいじゃよ」
まず耳を疑った、そして次はあいつが本当にレオルドなのかと目を疑った。
疑いが晴れると、失望した。平然とそう言ってのける家族があったのか。
失望したら、どんどんと怒りが込み上げてきた。
あぁ、だめだ、やっぱりこの男は殺すしかない。
「一応聞くけど、正気だよな?」
「正気じゃなければお前をここに呼んだりせんよ」
ごもっとも、納得した。そしてこいつに向けてる怒りも間違っていないこともわかった。
これで容赦する気すら無くなった。いや、元からする気なんてさらさらないが。
「……弟子一号、また怖い思いさせちまいそうだから、目、閉じてな。俺がいいって言うまで、開けるなよ」
「う、うん」
人間とは言っても……こんな小さい子に、死体を晒す訳にはいかない。たとえそれが。
「人を型どった、ただのゴミだとしてもな! レオルド!」
右手のバットを、パイプのような形に変化させる。そして同じものを左手に複製する。
剣のような切断能力は無く、槍のような長いリーチも無く、ただ純粋に相手を叩きのめすステゴロの武器。
撥に近いものだと俺は思った。
二つの意味で、これはあの男にふさわしい武器だ。
「ホントはここから逃げる事だけ考えてたんだけど……やる事が増えたよ」
俺はゆっくりとレオルドの元に近寄る。
奴の周りに、人の気配は無い。ロボットがいたとしても俺の敵じゃない。
命運は既に尽きてる。
「お前をボッコボコにして、泣いて謝らせて、全部の話を聞いてからお前を殺し、ここから帰る!」
「……無理じゃ、お前にはな」
「強がってろ! もはやお前を守ることの出来る存在なんてここには────」
バキン
「───え?」
レオルドに走って殴りこもうとした一歩目、その瞬間に俺の手元から何かが砕ける音がした。
手元に目をやると、明らかに先程までとは長さの違う撥があった。
折られた……? 嘘だろ?
「……動揺しすぎだ、林田真希」
「なっ……!?」
謎の声が聞こえた、と同時に、俺の腹部に衝撃が走った。
「こふっ!?」
まさに不意打ち、恐らく腹パンを一発もらった。久しぶりに鋭い痛みが体に染み渡る。
「逃がすかっ!」
痛みに耐えながらも、俺は目の前にいるハズの何者かに向かって蹴りを放った。
だがその攻撃も無意味に終わる、既に腹部を攻撃した存在はそこにいなかった。
腹部へのダメージは足に来る、俺は片膝をついてしまった。
「くっ……何者だ? 誰だ? 何処だ?」
「後ろだよ」
「えっ!? 」
すぐさま後ろを振り向く、やつの姿を見ることは出来たが、その視界を打ち消すかのように、顔面に謎の存在から、シャッターとは逆方向、レオルドの方に蹴り飛ばされる。俺は手と足で体制を立て直した。
「誰だお前は!」
俺が元いた場所を見ると、そこに立っていたのは俺より身長が少し小さいぐらいの少年が立っていた。
まるで生きていないかのような虚ろな目をしたその男は、真っ直ぐな殺意を俺に向けている。理解不能な恐怖を、俺はその男から感じた。
次回は多分次の土曜日です。
ちゃんとバトルを書けるようにしていきたいですね……。分かりにくくて申し訳ないです。




