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全ての人類に絶望を。  作者: うまい棒人間
狂ってしまった生き方と偏見と忍者とロリコン
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VSブランシュ

 

「し、ししょー……」


 後方より聞こえる震え声、何かが壁にガンガンと当たる音に掻き消されるような、そんな小さな声が聞こえる。


「どうした、弟子一号」


「大丈夫、なの?」


 それは、何に対してかを言ってくれないと俺自身わからないんだけど。


 自分の記憶が飛んでしまうのか。という意味で発した言葉なのか。


 俺が本当に勝てるのか。という意味で発した言葉なのか。


 それとも俺達が逃げ切れるのか。という意味で発した言葉なのか。


 まぁどれにせよ、「向こうが勝つことに不安を覚えての」発言以外であれば、全くもって問題は無い。回答方法は一つのみ。


「大丈夫。お前が俺の味方ならな」


「う、うんっ! ししょーの弟子だもん! 味方だよ!」


 にやりと笑ってみせる。余裕を出し見せつける。


 少しだけ、俺の服をつかむ指の震えが収まった気がした。


「余裕ね、リンデン」


 姿は見えないのに、どこからともなくブランシュの声がした。


「ひっ!? この声って、さっきのお姉さん……」


 まったく、なんてことしてくれるんだ。俺がせっかくかっこいい事言ってこの少女の震えを止めてやったというのに。ビビらせるようなことしやがって。


 泣く幼女は可愛いが泣かせる奴は許さんぞ。


「その余裕、どこまで持つかしら?」


「お前が生まれ変わるまでじゃねーの?」




 魔術師の使う魔法には、ジャンルが存在し、適性がある。その適性とは大きくわけて二つ。


 一つは放出魔法。炎を打ち出したり、風の刃を発生させたりと、言わば体外に影響を及ぼす能力。強い魔術師というのは殆どがこちらの力を使う。


 もう一つは強化魔法。身体能力の底上げ、肉体変化などを主とする魔法。こちらは体内に影響を及ぼす能力だ。魔術師として大体の出来損ないというのはこちらに位置することが多い。


 そこから色々な派生能力へと広がっていく。


 魔術師としてのブランシュの能力は、強化魔法の中の「気配遮断」という派生能力。自分の存在を認識させない能力だ。


 だが残念なことに、この能力は穴しかない。遮断できるのは自分の姿だけであり、足音、声が共に遮断できない。


 自分の体に触れているものが透明になるため、地面に足がついていたらそこだけが透明になり、逆に居場所がバレてしまう。


「気配遮断」とは名ばかりに、ただ透明になる力と言うだけ。


 さらにその力を持続するのにも魔力を使う。よりによってこのブランシュは魔力量がアホみたいに少ない。


 全てが向かい風のように感じたと、当時の彼女は言っていた。


 当然至極、俺と同じく彼女は最弱のレッテルを貼られた。


 だが持て余している者と、使えない者という違いが、俺たちを引き合わせなかった。




「この状況で考え事?」


 また、どこからともなく声が聞こえた。


「……こんな状況? どんな状況のこと言ってんの?」


 悪いがお前の能力は知っている。最底辺の魔力量じゃ数分が限度の透明化。その数分を耐えれば余裕です。


「負ける要素なんてねぇからな、安心して自滅してこいよ」


 俺はどんなに強い魔法を使うやつが現れてもそれが強化魔法の類を使うやつならまず負けない。身体能力は自分で言うのもなんだがトップレベルに強いからな。


「……やっぱり、知らなすぎるのよ、あなたは」


 その声の聞こえた次の瞬間、俺の腕に何かが刺さった。


「ッ!?」


 刺さっていたのは手裏剣のようなもの。激痛、というレベルの痛みではないが、いきなりくる衝撃というのは些か辛いものがあった。


 刺さっている角度からして、この手裏剣のようなものは俺の真上から放たれたものだ。


 俺は周りを見渡す、透明になっている床を探すが、見つからない。


 恐らく、高速で動き回っているのだろう。


 なるほどね、そういうことか。


「……閉鎖空間での音は響く。音源を探そうにも閉鎖空間の中で動き回り、逆に音を出していけば、お前の居場所を見つけるための手がかりがどこから発生したものなのかは分かりにくい。弱点を一つ消すことが出来るってわけか」


「ええそうよ! いつまでも最底辺だと思ったら大間違い!」


 姿が見えないのにわざわざ口を開く、このマヌケっぷりどこかで……?


 森谷じゅ……うっ、頭が!


「!? くそっ!」


 俺も馬鹿だ! こんな時まで森谷朱里の名前出して比べるなよ!


「ひっ! し、ししょー!」


 音もなく、第二撃が放たれた。今回はギリギリ反応でき、頬をかすめる程度にして躱すことが出来た。


 だが攻撃は止まない。連続してナイフが放たれた。


「ホラホラァ! さっきまでのイキってたリンデンはどこに行ったのかしらァ!?」


「くっ……」


 どんどんと何も無い空間からいきなり刃が襲いかかってくる。


 俺はそれを弟子一号を庇いながら魔力の宿った手で払い落としたり、躱し続けた。


 俺の反応速度がなければ、多分すでに二回は死んでる。確実に狙える位置の急所を狙ってきてやがる……!


 不味い、相当意気込んだは良いけど、この閉鎖空間じゃはっきり言って不利ってレベルじゃない。


 武器が飛んでくる方向も毎回違う。高速で動き回っているからだな、しかも閉鎖空間の音の響きのせいでどこにいるかの予想もしにくい。


 更に今気がついたことだが奴の投げた物体が落ちる音も、俺の防御を邪魔している。面倒だ、とても面倒だ。


 ……負ける可能性の方が高い。少なくともこのままじゃジリ貧で負ける。


 でも、やつは近づいてこないみたいだ、遠距離だけの攻撃なら数分間耐えることは……。




「ふふ、攻撃が遠距離だけだと思わない事ね」


「なっ、しまっ……!」




 俺の目の前に何かが横通った。風を切る音がした。


 俺がしまった、と思う前に、やられていた。遠距離だけだと勝手に思い込んだ俺はいきなり近づいてくるブランシュの気配を察知できず、腹部に一閃を入れられた。


「……ふう」


「……ちぇっ、ギリギリ躱せたみたいね」


「遅いんだよ……お前はな」


 やつの言う通り、本当にギリギリ、バックステップで避けることが出来た。


 だが危なかった、あと一瞬反応が遅れてたら本当に真っ二つにされていたかもしれない。


 俺は歯ぎしりをした。少し自分の言ったことが恥ずかしくなってきてる。


 こいつ、この空間じゃ強いな。


 遠距離を想定して戦えば即死級の近距離攻撃が飛んできて、それを避けてもまた遠距離の攻撃が襲いかかる。そしてまたその攻撃に注意が向き、近距離対策が疎かになる。


 素晴らしい戦い方だとは思った。遠距離攻撃をしようとしない俺からすればの話だが。でも今はそれを賞賛している場合でもない。超ヤバイ。


 俺の体は既にボロボロ、致命傷は避けているが、結構消耗している。


 しかし、こいつも馬鹿だな、毒でも塗ってりゃお前とっくに勝てたのに。そういう所が甘いと言っているんだよ。



「……さて、どうするかな」



 俺をここまで傷つけさせた以上、俺はこいつに敗北を味合わせなければならなくなった。理由は当然、ムカつくからだ。


 ブランシュを倒す方法。いや、こういった追い詰められた状況で求められるのは、冷静な判断か適応能力。敵の性格、攻撃法をもう一度見直して、弱点を発見する。弱点というのは大抵その人の性格から生まれるのもなのだから。


 まず、奴が狙っているのはチマチマ攻撃して俺を消耗させることじゃない。俺の血を減らして、焦らせるために行っている行動だ。


 焦った相手は攻撃の来る方向に向かって駆け出す。その瞬間を狙ってブランシュは致命傷になる一撃を叩き込むといった口だろう。そしてそうしなくても、遠距離攻撃に集中しているタイミングを見計らい、即死の一撃を与えに来る。


 両方に気を回し、その攻撃を受けてるこっちは確実に消耗しているが、向こうも確実に消耗しているはず。魔力量と体力の無いあいつが一番すぐさま決着をつけたいと思っている。


 なら、俺がやるべき事は一つだ、やつがこの状況で、最も嫌がることをすればいい。




「『逃げる』ぞ! 弟子一号!」


「 う、うん! 分かった!」


「何じゃと!?」


「えっ!?」



 弟子一号を左手で抱き上げ、俺はやつに背を向けて、全速力でシャッターに駆け出した。


 奥のふたりは俺がそんなことするとは思っていなかったようで唖然とした声を上げていた。


 外に出れば奴は魔力が切れて追ってこれない、そしてそもそも俺の目的はこいつらを倒すことじゃなくてまず逃げること!


 目的達成のためだけに行動すれば、勝つ理由なんて必要ない!


 さぁ残り十メートル!


「くっ! 行かせない!」


 ブランシュは俺より動くスピードが遅い、だから「行かせない」と言うのであれば、彼女は追ってこず、何か武器を投げて足止めにかかるだろう。


 当然その投擲物は走っている俺より早いため、俺の背中に今も迫っているはず、正確な位置までは分からないが、真っ直ぐ来てるはず。




 俺はそれを────撃ち落とさず背中で受ける。




「ぐぅっ……!」


 数えるのが嫌になるほど量のナイフのような物が、俺の背中に突き刺さった。痛い、だが走りは決して止めない!


「いってぇ……!」


「な、何で躱さないの!?」


「ししょー、大丈夫!?」


「目ぇ瞑ってろ! 弟子一号!」


「は、はいっ!」



 目を瞑ったのを確認し、俺は顔を歪めながら、ブランシュの問に答える。


「……毒がないって分かれば、もはや躱す必要すらないってことだ、そんなナイフぐらい」


 とは言ったが、実はとても痛い……! でも、本当にたかがナイフが刺さっただけ、これ以上の痛みなんざ、いくらでも経験してきた。



「そんなんで怯むと思ってんなら、お前だって俺のことを知らなすぎだ! ブランシュ!」


「!? リンデン……!」



 顔は見えない、見えるのは向かう先のシャッター。だが俺には見える、イラついて歪むブランシュの表情が。


 俺の声に少し怯んだか、攻撃の波がやんでいる、チャンスだ。


 シャッターにようやくたどり着こうとしている。だがたどり着くだけではダメだ、俺がやるのは脱走、シャッターに穴を開けなければならない。


 さて、俺の「魔法」をお見せしよう。




 走りながら空いてる右手にイメージを集中させる。


 作り出すんだ、この状況に適した最良の武器。


 シャッターに、俺と弟子が通るだけの穴を一瞬で開ける能力を持つ武器を。


 重ねろ、イメージと力を。


 想像力が俺の力だ。イメージと寸分違わない個体を生み出せ、脳と右手を直結させろ。そして産まれろ、俺だけの武器。


 俺の右手が発する光が蠢いて、形を作る。出来上がったのはなんとも歪な形をした物体。いや俺が考えたやつだからなんとも言えないんだけど……。


 構造は槍に似ていた、ただ先端が明らかに槍とは思えない、ドリルのような形状をしている。


 これが穴を開けるために俺が作った武器、先端が俺の意思で回転できるように設計してある。その回転でシャッターにでかい穴を作る。俺と抱き抱えてる少女が入れる程の。


「これでオサラバだ!」


 くらえ! とそう言って先端のドリル部分を回転させ、シャッターに叩き込んだ。


 そのドリルは激しい音を立て、シャッターに一瞬で穴を作った。


 空いたと確認した瞬間に俺はドリルを消去する、手から離れると俺の魔力は自分の体に戻っていく。


「よし、逃走だ!」


「逃がすか!」


 またなんか投げたな? だがもう遅い。


 俺は作った穴に飛び込み、暗い外に出た。


 次の瞬間に、俺の頭の上で何かが通った。


 外に出れたらこっちのものだ、やつの魔力はそう続かない、追ってきたら実力的に俺の勝ち、追ってこなくても逃走するから俺の勝ち。


 俺はすぐさまそこから離れる。


「……これで、俺の勝ちは決まった……が」



次回は明後日の火曜日に投稿予定です。

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