レオルドの元へ
時は過ぎ、深夜。
指定された時刻に間に合うように、そして二階の森谷朱里を起こさないように、俺は家を出る。
「さて、行くか」
手紙と同封されていた同封の地図を広げる。そして。
「……分かるかぁ!!」
地に叩きつけた。
俺はこの街の作りなんて知らないし、まず出発点も分からないんだよ! 分かるのはここから学校に行く道と、コンビニに行く道の二つだけ!
だから目的地のみに矢印を置かれても、それはそれで困るんだよ、この……使用者の意図をまるで考えない開発者の屑が!
「ロボット作れるんだったらナビゲートとか付けりゃいいのに……」
変なところだけジジイ入ってんだからあのマッドサイエンティスト。ほんと厄介。
まぁ、クソジジイの悪口はそこまでにして、とりあえずどうすればいいんだろうか考えましょう。
あのクソジジイ……レオルドは恐らく「何週間かこの世界にいたんだから地理ぐらい頭に入ってんだろ」という前提をもとにこんな行動を起こしたのだろう。全く買いかぶりすぎだ、俺のことを。
休日どっかに行くことなんてそんなに無かったしな。
最近はずっと森谷朱里とゲームしてるか、本や漫画読んでるだけだったからな。
こうして休日を振り返ってみると、やっぱり森谷朱里って優しいな。せっかくの休日なのに友達と遊びにも行かずに友達のいない俺に付き添ってくれるんだもん!
これ大天使まであるわ、今思うと森谷朱里の優しさで禿げそう。
おい誰だ森谷朱里も友達いないだけだろって言ったやつ、その通りだから黙っとけ。
って、違う! 今はそういうこと言ってる場合違う!
今考えるべきなのは、どうやって目的地につくか、だ。
現在地がわかれば何となく行けるんだが……。如何せん北も南も東も西も分からない無能なんで、自分。
ほんと情けないと思った。これは森谷朱里を無能チビなんて呼べないレベルですわ。
まぁ、となると手段としてはもうひとつしかない、誰かに現在地を聞く、それしかない。でも……。
「夜中にゃ友達寝てるし……」
そう、テレビも既に砂嵐……。かつて、番組のチャンネルをいくら入れ替えても砂嵐しか映らなかった時は、テレビ壊しちゃったのかと思って心底焦ったなぁ……。
アナログだったんですけどね。
「そうだな、コンビニ行くか! ん? コンビニ……?」
その時、俺の頭にとんでもない閃きが浮かんだ。
ここまでくれば誰にだって到れる考えだろうけど、とにかく今の俺にとって天才的発想に近かった。
珍しく、物事がうまく運ばれようとしている。しかもこれなら二つの約束を一気にクリアできる。
……片方の件を少し忘れていたのは内緒だ。
そうと決まればもう行くしかない。行きなれたコンビニに向かって俺は駆け出した。
✖✖✖
真っ暗な世界となったコンビニへの道、だがその道の終点は光。今の俺の心を表しているようだった。
コンビニに着くと、既にそこには俺と待ち合わせていた彼女がいた。
「あっ! 師匠おっそ!」
密かにガッツポーズを繰り出した。珍しく思い通りに事が運んでいる。順風満帆とはまさにこの事。
「悪いな、でも時間指定はしてないから遅れるも何も無いはずだけど」
「女の子を待たせた時点でそれはもう遅刻! 分かった?」
「……肝に銘じておく」
大切なことをこのちびっこから教わりました。一生使わないであろう学びだがな。
さて、いつもの様な会話はここで終わりだ。ここから先は真剣モードにチェンジさせていただく。
「なぁ、弟子一号、聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「ん? なぁに?」
手紙と同封されていた地図を弟子一号に見せようとしたが、俺の手が一瞬止まった。躊躇ってるのだ。
ここまで順風満帆とは言ったものの、ここで彼女が知らないと言ってしまえばそこでこの計画は破綻する。
風が止まるとすればここだなと、俺には確信があった。
だからといって、見せないという選択肢は存在しないがな。
「お前にこれを見てもらいたいんだが」
躊躇いを振りほどき、俺には理解できない地図を弟子一号に見せつける。
「なにこれ、この辺の地図?」
よし、一目でこの辺の地図と察せるあたり、この弟子一号は有能。この世界にきてこいつに会えたのがこの世界での二番目の幸福かもしれない。
一番は……ある人物に会えたことだな。
誰がとは言わないけど。
「これってこの辺の地図なのか?」
一応聞いてみよう、ただ適当に言っただけなのかもしれないしな。
「んー?」
俺の手から地図を奪い取ると弟子はじっくりとそれを見つめる。
「うん、そうだよ?」
なんでそんなこと聞くの? と言いたげな表情でその地図を俺に返した。
「今からそこのチェックマークが書かれてる所に行きたいんだ、悪いが途中まで案内してほしい」
あくまで途中までだ。
同行は許可されていない、もしこいつを連れて行ってしまえば間違いなく辛い光景を見せてしまう。
それはまだ、早い。
「えー! 今日は遊ぶんじゃないの!?」
ぷんすか怒られた。約束を破ろうとしているのだから仕方ない。これは間違いなく俺が悪い。
でも、約束を破ってでも、やらなきゃいけないことだってある。今がまさにそれだ。
「悪い、でもここに行くのは今日じゃなきゃダメなんだよ。また今度、ちゃんと遊んでやるからさ」
「むー……」
ほっぺたを膨らませる、とても不機嫌だ。
俺のことは許さなくていい、ただ了承だけしていただければ構わない。
「……絶対、次は遊んでね」
弟子一号は不満げな表情で呟いた。
「あぁ、約束だ」
「ん」
不機嫌そうに俺の弟子は小指をこちらに向けてきた。
少女は何も言わないが、俺が何をすべきかは分かってる。
これは、俺達が約束する時の誓い、のようなものだ。
俺はその小さい小指に自分の小指を絡める。
「ハリセンボンね!」
「上等だよ」
うん、それでいい。許す必要は無い、そして俺自身も許して欲しいとは思わない。
ただ、俺と遊ぶことを楽しみにしていたということは、彼女の表情を見れば一目瞭然であった。
次の約束は何が何でも果たそうと、そう思った。
ハリセンボンも嫌だしな。
「じゃあこの地図貸して、道案内するから」
「おう、ありがとな」
俺は弟子一号にもう一度地図を手渡す。
「そのかわり!」
「分かってるよ、次はちゃんと遊んでやる、あと俺からも一言、途中まででいい。途中まで連れてってくれたら後は俺に道筋だけ教えてお前は帰れ、いいな」
「……? どういうこと?」
「……内緒だ」
本当のことを言おうか一瞬だけ迷ったが、俺は言わない選択をした。俺の存在に興味津々なこの弟子にそんなこと言えば、絶対に最後までついてくることをやめないと思ったからだ。
ダメだと言っても、それなら道は教えない、とか言われそうだしな。
「ふーん、まぁいいや、それじゃあついてきてね!」
少女は地図を片手に小走りで駆け出し始めた。なんやかんやで楽しそうではある。
俺はその小さい背中について行く。
……人目のつかない深夜でよかったと、心から思った。
これ間違いなくストーカーの疑いかけられるやつだから。




