友として
「は、話は終わりましたか?」
「あぁ終わったよ。悪いなまた待たせて」
「ご、ごめんね萌花ちゃん」
「いえいえ!大丈夫ですよ! 」
まったく、未だ春という季節だというのに、やけに俺達汗だくじゃないか? 森谷朱里も俺も結城萌花も、みんな発言の度にだらだら汗を流している。声も心ながら震えている。
こういう時の森谷朱里は本当に頼れない、いや、頼れる場面なんて無きに等しいが……。
だから俺がいるんだ、こういうやばい時は俺が何とかする。
そうやってきた、いつも。……いつも?
「さて結城萌花、話を始める前に一つだけ聞きたいことがあるんだよね」
「なんでしょう……すみませんがわたしR18の知識は持ち合わせていません……」
一度でいいからこいつの頭を見てみたいと思った。
こいつに使うべき能力だろ、心の声が聞こえる力ってよ。
「何を考えてるのか知らないけど、話を戻そう。
お前がさっき森谷朱里の考えてること聞こえてしまったんだろ?」
結城萌花はとても申し訳なさそうに首を縦に振った。
森谷朱里はその姿を見てどうしていいのか分からなくなっている。
本当ならどこまで見たのか、というところまで聞くべきなのだろうが、それは出来ない。彼女が知らないところまで俺が言ってしまえば自滅になってしまう。
だから俺達の秘密を知ったとしても知らなかったとしても。やって欲しいことは一つだけ。
「えっと……同居って言ってもさ、お前が考えそうなやらしいことは一切してねぇし、そもそもこうなったのは俺自身の事情と森谷朱里の事情が複雑に絡み合って出来た不幸な事故みたいなもんで……」
丁寧に慎重に嘘をつかないように、バレてもいい事実だけで言葉を繋ぎ、文を作る。
「つまりだな、深い事情があるんだよ」
そう、不快な事情がな。違う、今はそんなこと言ってる場合じゃない。
「だからその……チクらないで欲しいかなと」
取り敢えず言っておいた。途中萌花を笑えないぐらいに片言になってしまったが、伝えるべきところは伝えられたと思う。
さて、反応は?
「……むぅ」
う、うわぁ、怒ってらっしゃる。ジト目でこっちを見つめてきてる。
でもここで引いてはいけない。隣で目が死んでる森谷朱里のためにも、そして何より俺のためにも。
「深い事情って、なんですか?」
一番やべぇとこ突かれた。まずい、その答えを出すのはとても厳しい。嘘をつかざるを得なくなっちまう。
「あ、えっとだな……そう、いくら友達でも知られたくないことぐらいはあるだろ?」
「そ、そう! だからごめんね萌花ちゃん! 教えられないの」
森谷朱里がなんとか俺に相槌を入れてくれた、この言い訳でなんとか……!
気難しい顔のまま、結城萌花は項垂れてため息をついた。
「……分かりました、わたしも、このことは誰にも言わないようにします」
俺は右手を背中に隠してガッツポーズをとった。多分森谷朱里も同じことをしてる。
「でも、条件があります!」
「じょ、条件?」
森谷朱里が首をかしげた。結城萌花の目はとてもキラキラとしている。
なんか悪い事考えてる顔だ、あれ。
すぅ、と結城萌花が深呼吸をした、次の言葉をはっきりと言えるように。
「明日、わたしも朱里ちゃんのお家にお泊まりします!」
「「……は?」」
久しぶりに、森谷朱里と声が合った。
意見の一致は、実に二十時間ぶりである。
「どうしてそうなった」
「だって、なにかえっちなことしてたら許せませんし! わたしも友達として、知る権利はあります!」
「だそうだけど……家主さんがどう言うかだな」
ちらりと森谷朱里の方を見る。機嫌を良くしたのか、さっきまでの顔が嘘のように、ニコニコと笑っていた。
「私は別に構わないけど?」
こいつは……気前がいいのか馬鹿なのかよくわからない。多分馬鹿なんでしょうね。
「それでは明日の放課後に朱里ちゃんの家に行かせていただきます! ということでよろしいですか?」
「いいよいいよ! やっとまともな人が来てくれるよ!」
悲報、俺まともじゃなかった。
ここにいる三人の中で一番まともだと思っていたんだが……。多分シノビゴキブリの事言ってんだろうな、そうに違いない。そう、だよな?
「……ん? 明日?」
うん、ちょっと気がついてはいけないことに気がついてしまった。
✖✖✖
明日の放課後、森谷朱里の家に泊まるという条件で結城萌花は明日ロリアニメのDVDを貸してくれるという形になった。
キモオタ対決はいろいろあったのでまた今度という形にした。
部活動の時間は終わり、今は帰宅時間。
結城萌花にはバレてしまったものの、他の生徒からの視線もある。彼女とは別々に帰るのは続けた方がいい、という案によって、今日も俺達は別々の時刻に帰ることになった。
夕飯の支度もあるので、森谷朱里が先に帰ることになり、現在俺は部室の掃除中。
結城萌花と二人で。
「ここ最近で掃除しか活動してない部活ってどうよ……」
「ま、まぁそういわずに……」
独り言だったのだが、彼女は拾ってくれた。別に拾ってほしかったわけじゃないんだが、彼女のやさしさを再認識した気がする。
「本当に、ごめんなさい」
「えっ、何いきなり謝罪してんの」
急に、本当にいきなりのごめんなさいだったので素で驚いてしまった。
以前は謝罪の時に上げる頭の動く速度、回数に驚いていたが、何と次はタイミングときた。本当に毎度毎度驚かしてくるんですかね。
「だって、またわたしの力で迷惑をかけてしまって」
「あぁそれ……いや、その点に関しては悪いのどう考えても俺らだろうに」
お前をかばってとかそういうのでもなくてさ、お前は別に家族でもない高校生同士が一つ屋根の下で一緒に暮らしているという事案を暴いた張本人なのであって……決してそれは悪いことではないだろう。
「だからそれが原因で今謝ってるんなら気にする必要はないと……?」
さっきまでは掃除のために下に向けていた視線に先に萌花の足が映った。その足は小鹿のように震えている。
視線を上に上げる、案の定彼女はおびえている。
「でも、もしかしたら触れちゃいけないことだったんじゃないですか!? また、そんなことして、嫌われて」
急に取り乱し始めた、声に力がこもる。眼球は大きく開き、呼吸も荒い。
彼女からしてみれば、また呪われた力のせいで友達をまたなくすようなことをしてしまった。と思っているのだろう。
だが、どうしてだ、今の俺の気持ちの中に、ほんの少しだけ「怒り」が混ざっている。
理由はわかっていた。今日一番でその話を聞いたのならば、同情はしていただろう、でももう遅い。今の俺は「森谷朱里の気持ちを知っている」。
「萌花、その発言は森谷朱里に失礼だ」
「え……?」
目を背ける必要も無い、真っ直ぐに彼女の目を見つめる。
「さっき、俺達がこの部屋から出た時に森谷朱里も苦しんでいたよ。友達でいたいとな」
本当なら慰めるべきなのかもしれない。女の子が泣きそうにしているんだ、男としては優しくしてやるべきなのかもしれない。
でもそれ以上に、俺と彼女は友達というつながりが第一にある。
だから友達らしいことをしたいと思った。
「あの女は弱いさ、一人じゃ何も出来ないくせに、強がってばっかりで。やばい時はすぐ俺に頼るし、ヘタレだし、お前ぐらいすぐ泣く」
ホント使えない、傍から見ればイキってるただのヤンキーだ。しかも小さい、何がとは言わないけど。
「それでもな、あのヘタレチビはお前のことを信じたんだ。信じたからこそ、もう一度この部屋に戻ってきたんだ」
悩んでいた理由は萌花が悲しまない方法を探していたから。震えていたのは萌花に嫌な思いをさせてしまったから。
でも、それでも彼女は萌花を自分で信じたいと言った。
「今のお前は確かに辛いだろうな、それは俺もそう思うけどお前のその言葉はあのヘタレが勇気をもってやった行動を馬鹿にしている」
気持ちが盛り上がってきている、もう止まれない。
口の動きは止められない。
でもそれを制するかの如く、萌花は口を開いた。
「そ、それは……でも、わたし、知らなくて」
もごもごとして、自信のない声。結城萌花のよく発する声。
そして、知らない…あぁなんという素晴らしい言い訳だ。聞くたびに思う。
「……まだ、森谷朱里を信用できてないみたいだな」
信用したい、するためには心理を知りたい。でも心理を知ったら嫌われてしまうかもしれない。
それは結城萌花という人間にとって、友達がいなかった頃の苦しみよりもキツイことなのかもしれない。
「……ごめんなさい、やっぱりまだ怖いんです」
「まぁ、仕方ないよな」
そう簡単に治る苦しみではない。それぐらい辛いトラウマなのだろう。
その点に関しては俺も同情はする。せめて自分の意思で能力を扱えるようになれば……。
「悪いな、とんでもなくひどいこと言ってしまった気がする。お前もつらいんだもんな」
「いえ、ごめんなさい……」
この会話を終えて、俺たちはそれ以降まったくしゃべらなくなった。
これで、友達か。
こういう時、俺に友達がいなかったことを後悔する。
気の利いた言葉が出てこない。
何かしてやりたいというのに、何もできないもどかしさがあり、それが今の俺を包んでいた。
こんな空気の中でお泊り会なんて最高に気分が悪いことこの上ない。
あぁ、辛い。
書き溜めがなくなりました。次回少し遅れるかも知れません。




