ブランシュとリンデン
「あらあらあら? 久しぶりに会うのに、その態度はないんじゃないかしら?」
「何の用件だよ……というかあんたも来てたのか」
「来てたわよ、リンデンくんよりも一ヶ月ほど前に」
つまり、四月ごろからこいつは高校生として生活してたということだ。
「実はあなたがこの学校に転校という形で入学した際から、林田真希がリンデンということには気がついていたの」
「……尚更分からないな、そんな俺をなぜ一ヶ月も放置していた? そして放置してたなら何故今になって話しかけてくる?」
「勿論理由はある、それを今から説明するわ」
そう言うと麻枝寧々こと、ブランシュは制服のポケットから紙のようなものを俺に手渡した。
「手紙、か?」
「えぇ、それはおじいちゃんからあなたに向けてのメッセージよ」
「レオルドから?」
こいつはレオルドの孫娘だ、今一緒に暮らしていてもおかしいとは普通思わないんだけど……。
そいつにはその固定概念は通用しないはずなんだ。
「おい、お前今レオルドと生活してるのか?」
「……えぇ、そうよ」
「お前……何があったんだ?」
ドクターレオルドと言うのは、俺達の世界の裏切り者。実の孫であるブランシュですら、彼に憎しみを覚えていたはず。
その憎しみはおそらく俺なんかより深い。
肉親であることの恥ずかしさと怒りは、俺なんかじゃ計り知れないだろう。
そのブランシュが、レオルドとの生活をしているだと?
「何やってんだよお前は!? 一緒に暮らしてるのはまだ分かる!殺す機会を伺うためにやつのところに転がり込んだと予想はできる! でもお前はなぜレオルドを処刑しない!? チャンスだろう!」
「殺す……ね」
「……おい、何悲しそうな顔してんだよ、肉親だから殺せなくなったとか、そういうこと言ってんのか?」
先程までの、人を馬鹿にしたような視線と表情ではなくなっていた。
憐れむような、呆れたような。そんな顔。
「なんか、言えよ……?」
でも、もし肉親だからという理由をつけるのなら、俺は仕方ないと思える。
俺も多分殺せないからだ。
短い沈黙だったはず。何分も経っていないはずの時間。ブランシュはようやく口を開いた。
「貴方は、何をするにも理由がなければ行動しない、分からないやつは口出ししちゃいけない。そんな人だったわね」
「……それは、変わっていないと思うがな」
「はぁ……」
ブランシュがため息をついた。失望、呆れたように長い長いため息。
かつて俺が、森谷朱里に対してやったようなため息と似ている。
理解していない存在に対して、馬鹿にするような行動。
少しだけむかっ腹がたった。
「少し、いえかなり失望したわ。ちゃんと理解しているとばかり思っていたのだけれども、本当に貴方は何も知らないのね……」
「おい、それはどういう」
「知らなくていいわ、何も知らないままでいい」
俺の言葉を遮る。意図がわからない。
「以上よ、それじゃあね」
「お、おい待て!」
俺の声も虚しく、彼女は無視を決めつつ俺の横を素通りし、廊下の向こうへ消えていった。
「何なんだよ……くそっ」
今の俺に残ったのは、何も分からないし、理解するための鍵も何も無いようなモヤモヤ感。何をしても何も進まないであろう無力感。
しかし一つだけ、彼女は俺に残していった物がある。
「この手紙か……」
封を解こうとするが、思いとどまる。
ここで開けるのは危険だ、家に帰って一人で開けよう。
内容を誰かに見られたら不味い。
レオルドの件も大事だが、もうひとつ俺には大事な要件がある。
忍者撃退作戦だ。その作戦を立てるために必要な人間である結城萌香をさっきから俺は待たせてしまっている。
まずはそっちだ。物事は一つづつ解決していくべきだ。
ブランシュに長い間止められていた足を部室に向けて踏み出す。心做しか、少し重い。
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