初見の知り合い
「終わった……乗り切った……」
長い、長い戦いが終わった。
なぜ今日に限って全校集会でずっと立ってなきゃいけないイベントがあるの?日程俺達のこと嫌いすぎだろ、俺ら日程の親でも殺したか?
森谷朱里なんか、その全校集会中に頭から倒れたからな。今保健室で診てもらっているらしい。おお、怖い怖い。
しかしもうそんなこと言っても仕方ない。今の俺に出来ることは次にあのシノビゴキブリが現れる前に対抗策を作ることだけだ。
えらく重い足取りで、俺は部室に向かう。
事前にいつも作戦の鍵になる結城萌花には部室に待機させている。待たせるわけにも行くまい。
「あっ! 先輩待ってください! 」
後方からか先輩と呼ぶ声がした。でも俺は後輩に知り合いを持った覚えはない。言っちゃえば上も下も知り合いなんていない。
俺には関係なさそうな揉め事みたいなんで、部室に向かう足は止めない。
「待ってくださいって!」
なんだ? もしかしてなんかトラブルでもあったのか? それならとても困る。何故ならうちの部活の活動になる可能性があるからだ。勘弁してくれ、頼む先輩、待ってやれ。
不味いな、無関心を貫くぞ、こういうのは付き合ったら面倒なことになるんだよ。無視無視。
「なんで待ってくれないんです!?」
ひでぇ先輩だな。もう待ってやれよ、後輩が少しかわいそうに思えてきた。
そろそろ嫌な予感がするけど、絶対に無視。相手のことより今は自分のことの方が大事だ。
「待てっつってんでしょうが!」
「うおっ!? びっくりした」
声の主が俺の前に立ちはだかった。ショートヘアーで黒髪の女の子、後輩と自称はするがその体は俺と同学年の森谷朱里に見せたら卒倒するレベルのボディ。大きい。何がとは言わないけど。
でもだからどうした、俺はこんな女知らない。知りたくない、関わりたくない。
「全く……どうして逃げるんです先輩?」
むー、とあざとくほっぺたを膨らませる。ぷんぷんとか声に出して言っちゃってる。これ頭もイッちゃってる人だ。俺の周り頭おかしいヤツしかいなくない?
駄目だ、関わったらまた面倒なことになる可能性が高い。逃げよう。
「人を引き止める時は名前を使いな、わからないなら名字を使え、それも知らんなら不審者と思うんで関わらないで下さい」
素晴らしい理由だ、色々あって回らない頭で作った理屈にしてはまぁまぁだ。俺は正当性をもって立ちはだかる謎の後輩の横を通る。
「ま、待ってくださいよ林田先輩!」
「ヘアッ……!?」
か、髪を掴んで止められた!? これはまた斬新な動きの止め方するなこいつは、服とかなら何回もあるけど今度は髪かよ!? 痛い!男にしては少し長い髪が仇になった!
「ほら名字知ってますよ! 少しお話しましょうよっ!」
「ええい! 分かったよ! だから髪を引っ張るな! 痛いから!」
「はーい……それっ!」
「痛っ!?」
ブチブチと音を立ててようやく手がどいてくれた。引きちぎるようにするんじゃなくて普通に手を離して欲しかったです。
「こいつ……で?お前はなんて言うの? 今なら俺の髪をちぎったってことで名前ぐらい覚えてやってもいいけど、あと要件を素早く終わらせろ」
「初対面の人になんて口聞くんですか? 言葉遣いわるーい」
「……」
一々揚げ足取る。俺みたいなことしやがって、後輩って自分で言ってんならまずそういうところ直そうぜ、今のままじゃ俺に言葉遣い悪いなんて言えねーぞ。
「まぁ、いいです。あたしの名前は麻枝寧々《まえだねね》。一年二組、この学校の新聞部副部長やってます! 」
バチコーン!と効果音がなりそうなウインクをかましてきた。ここまで狙ってくると流石に気持ち悪い。
てか新聞部か、嫌な噂しか聞いたことのない部活だ。「ぱぱらっち」とか余裕でやるし、校舎裏の告白とかも新聞記事に載せることから、教師、学生ともに嫌われている部活だったはず。
関わりたくない。
「ふーん……それでお前のご要件は?」
「む、無反応ですか……冷たい人はいつか嫌われますよ?」
前にもあったな、こんな会話。
「俺は嫌われる天才だから、むしろ嫌われることで自分の存在を実感できるレベル」
「きも」
二文字の罵倒すら気にならない。さっきまでの笑顔が一瞬で吹き飛び真顔で罵倒されても俺の心は揺るがない。アイアンハートは孤高なり。
「はぁ、話戻しますね、実は先輩って今けっこーな有名人なんですよ!」
「一応聞こうか、何で?」
「そりゃあもう、部活で一人の人を助けて? それでいて学年順位二位の学力! ニュースにならないなんてありえませんよ!」
「チッ」
「な、なぜ舌打ちをするんです!?」
まさか転校してきたことで有名になるんじゃなくて、その後の行動で有名人になってしまうとは……!
逆なら許せた。転校生だから色々なんか有名になるって言うのはよくあることだと思うし、それが普通だ。
でも今回の件は間違いなく俺のミス、『やりすぎた』のだ、俺は。
あとスルーしてたけど、依頼人のやつ俺の名前出したのか。というか俺って知ってたのかよ。
まぁ同じクラスってわかったら、似てる声のヤツ探すだけだしな、これは依頼人の村上君に非はない。
「そもそもなんでそんなショック受けてるんですかー? 人気者ですよ人気者! 彼女とか作りたい放題じゃないですかー?」
そりゃあお前、俺は目立つのが嫌いだから。
「……俺はとある理由から、人との付き合いを控えているんだよ、だからそういった人付き合いなんてしたことないし、するつもりもない」
「へぇ……」
麻枝がふむふむと頷きながら握りしめていたメモ用紙にスラスラと何かを書き連ねている。
「おい待てパパラッチ。それ新聞記事にするつもりか?」
「むっ、パパラッチとは失礼なこと言いますね先輩? これは仕事ですよ仕事。部活動何ですからちょっとぐらいいいじゃないですか! 常に正しい行動を求められる野球部達だって、学校の部活終了のチャイムを堂々と無視するじゃないですか、だからこれぐらいあたし達も許されていいですよね?」
なんというゴリ押し、ここまでの意思表示をしてくるということは、多分自分の意思を曲げるつもりは無いのだろう。
仕方ない、新聞の記事になることはもう避けられそうにない、後はこいつが嘘をでっち上げないようにさせればいいか。
「さてと、それじゃあ人付き合いが出来ないその理由、お聞かせ願いますか?」
「そんなの……」
腕を組んで、少し悩んだ。
「あれ? 結構深刻な悩みだったりするんですか? 」
俺が考えてるのは嘘を作るためだ。
人間のことが嫌いとか、ぼっちが好きだとか、色々言っては来たけれど、元を辿せば全て自分の世界を守るために直結することだ。
つまりそれしか理由はない。だからちょっと考えて嘘をつく必要があった。
疑われにくくて、ゴシップネタになりそうな内容の嘘を。そう、だって
「だって間違っても、自分の世界を救うため、なんて一般人には言えませんからね」
……え?今、こいつなんて言った。
「……なぜその台詞をお前が言うんだ?」
「あれ?先輩どうしたんですぅ? 顔色、悪いですよ?」
にこりと笑って俺の心配をしてくれる。
だがさっきまでの麻枝ではない。さっきと笑顔が同じなのに、どうも何か含んでいるようにしか見えない。
蛇が、餌を見つけて。背筋が寒くなる。なんだ、こいつは。
未知の恐怖、というものを体感した。シノビゴキブリに対して初めて感じた恐怖と似ている。こいつは危険だと本能が言っている。
じりじりと麻枝寧々と名乗っている女が近寄ってくる、俺はそれに反比例して後ろに下がる。
「先輩? 大丈夫ですか?」
……一縷の希望にかけて見るか。
そう、ただのカマかけだったのかもしれない。適当なことを言っただけの可能性だってある。
俺もカマを掛けてみよう。これで全てがわかる。
彼女を指さして、俺は麻枝寧々に再び告げる。
「……人を呼び止める時は、名前を使いな」
「……ふ、ふふふ、アハハハ、ヒャハハハハハ!! ハハハアハッハハハハッ!!」
彼女は暫くキョトンとしていたが、直ぐにその顔は激しく歪む。先程までの悪魔的な笑顔とは別の奇妙な笑いが恐怖を抱かせできた。
そして、別の恐怖を感じていた。この笑い方を、俺は知っている。
「ふふふふふ、そうでしたね、それでは改めて」
笑いを止めた木下と名乗る女は、俺に指さし返してきた。
「久しぶりですね、リンデン。世界を救うなんて無謀な挑戦の進捗をどうかお聞かせ願えますか?」
「……ふん、たとえあんたが人間だったとしても、答える気なんてないからな。『ブランシュ』」
彼女の名前はブランシュ。俺と同じ魔術師であり、俺と同じドクターレオルドの教育を受けた存在。
そしてドクターレオルドの……実の孫。
次の投稿は6月8日木曜日です




