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全ての人類に絶望を。  作者: うまい棒人間
狂ってしまった生き方と偏見と忍者とロリコン
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忍者さんとアニメを見よう

「おい、森谷朱里、そろそろ深夜アニメの時間だぞ」


「あれ? もう一時になったの? やっぱり遊ぶと時間ってすぐなくなるわね」


「……しんや、あにめ?」


 森谷朱里のお叱りを受けて、今部屋の掃除をさせられている忍者さんが不思議そうに呟いた。


 ひょっとして……。


「もしかして忍者さん、アニメとか知らないの?」


「アニメは知ってる、でも深夜アニメとはなんだ?」


 深夜アニメとは、と言われてもなぁ。


「森谷朱里、お前の意見を聞こう」


「うーん、上手くは言えないけど、夕方とかによくやってるホビーなアニメじゃなくてライトノベル派生のアニメ……以外もあるか、何なんだろう」


 俺よりアニメ歴の長い森谷朱里が分からないんじゃ俺に分かるわけがなかった。でも、考えたことなかったな、深夜アニメってどういう事なんだ?


「あぁ、分かったわ」


 森谷朱里がパチンと指を鳴らした。なにか閃いたようだな。どれ、聞かせてもらおうか。


 変な事言った時のためにツッコミ用のハリセン用意しとかなきゃ。


「深夜にしか放送できないような内容のアニメのことよ」


「お前天才かよ」


 確かにそうだ、言われてみれば確かにそうだ。


 深夜アニメはお茶の間を凍りつかせないようにするために内容ではなく時間帯を変えたアニメのことだったんだな。やべぇ、超しっくりくる。


「……つまり、エロいということか?」


 忍者さんがすごく真剣な眼差しでそんなことを聞いてきた。あまりにも真剣な眼差しで見つめてくるのでちょっと引いた。でもエロいかどうかはともかく、深夜アニメという文化に興味を持ってくれたようだ。


「これは、見せた方が早いかもね」


「同感」


 俺達が口で説明するより、どういったものなのかは自分で見るに限ると思う。


「というわけで忍者さん、ここに来て一緒にアニメ見ましょう?」


 森谷朱里が自分の座っている隣に来い、と言うかのごとくおいでおいでと手招きをする。


 彼女は意外とさっぱりしているからもう机のことはたぶん怒っていない、だからあの笑顔も何の含みもない純粋なものだと思うが……。


「ヒエッ……」


 初対面でアッパー食らわされた人間をビビらない人なんていない。忍者さんは逃げるように、隠れるように俺の隣に来た。


「は、林田真希、何なんだあの女は」


「実は俺もよく分かってない」


 俺を盾にガタガタと震える忍者さん。こうしていればただの子供みたいで可愛いと思った。


 しかし怖いのはもう一つ、現段階でこの忍者さんの性別が分からないということだ。




 ✖✖✖




「……」


「神回だな」


「あぁ、神回だわ」


 戦闘シーン、お風呂シーン、全ての作画が神がかっていた。アニメーターは給料が安いとよく聞くが、それでもここまでの仕事をしてくれるあたり、絵を書くことが本当に好きなんだなと思った。


「でもやっぱり正ヒロインの可愛さは異常よね。幼馴染みでなおかつ他を凌駕するあの可愛さ、ツンツンしつつもしっかりとデレるところはデレる。やっぱりツンデレ幼馴染みこそ人類最強のヒロイン属性ね」


「バカを申すなエアプ勢、お前このアニメの一話見てないだろ? 見てきた方がいいぞ、その時お前は真の人類最強属性が血の繋がっていないお兄ちゃん大好きっ子の妹だと分かるから」


「はぁ? 妹とかいう永遠に結ばれない負け属性背負った時点でヒロインとしての魅力はないのよ」


「その発言は全俺を敵に回すが、宜しいか? あと最近幼なじみポジで主人公と結ばれる作品を俺は知らないんだけど、最近のアニメお前見てる?」


 妹は主人公と結ばれないから、不遇?そんなことは無い、決してない。いやむしろその不遇すら蹴飛ばすほどの可愛さを持って生まれるのが妹である。ソースは我が家。


 でもツンデレはいいものだと思う。これは本音。


「ぐぬぬ……」


「ぐぬぅ……」


 森谷朱里と又しても衝突。これだからオタクは怖いんだよなぁ。


「に、忍者さんはどう思う!? やっぱりさいかわ属性といえばツンデレ幼馴染よね!?」


「馬鹿を言え! 血の繋がっていない妹ポジに決まってるだろうが! なぁ忍者さん!」


 俺達は忍者さんに答えを求めることにした。しかし当の忍者さんはエンディング画面をぽかんと見たまま動かない。


「ん? ど、どうしたんですか忍者さん?」


「……か」


 か?


「かわいい……!!」


「「え?」」


 ギンギンに開いた目つきで、ハァハァと荒い息遣いで、プルプルと震えた肉体で。


 忍者さんはオタクへの道を駆け出してしまった。


「何あの子!? かわいい! かわいすぎる! あのちっちゃい妹かわいい!あんな娘初めて見た!」


「……」


 絶句。



「カワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイカワイイ!!」


「「……」」


 両者ともに、絶句。


 今度は森谷朱里が俺を盾にガタガタ震え始めた。確かに怖い、初深夜アニメであそこまで狂うか……俺も相当だったけど、ここまで狂いはしなかった。まぁ、理由は叫んじゃいけないところで見てたからなんだけどな。


「おい! 林田真希! 他に可愛くてちっちゃい娘が出てくる作品は無いのか!?」


「えっ!? あ、あー……えっと……アニメなら、森谷朱里の方が詳しいからそっちに聞いてくれ」


 涙目の森谷朱里が俺の服を掴んでふるふると首を横に振る。もはや恐怖に支配されている、忍者さんとの立場は逆転した。


「も、森谷朱里! 見せてくれっ! もっと見せてくれっ!」


 受け手次第ではセクハラと言えそうな発言をしながらジリジリと森谷朱里ににじり寄る、その森谷朱里は俺の近くにいる訳だから実質俺にも近づいていることになる。


「よく見れば、森谷朱里さん、あんたも小さくて、可愛いなぁ……」


「は、林田君! た、助けて! お願い! お願いしますっ!」


 森谷朱里はもう泣いていた。実際俺もこれ以上の忍者に対するイメージダウンは勘弁だ。この状況、一番いいのはお帰りになってもらうことだけど……。


「忍者さん! 俺に提案がある!」


「お前の話は聞いていないっ! 今から僕はこの森谷朱里ちゃんをアニメキャラのように愛でるんだッ!」


 やけに迫真だな!? 一体何がこいつをそこまで駆り立てる!?


 あぁ、森谷朱里がもう限界だ! 鼻水とかめっちゃ出てるし、顔が色々とぐしゃぐしゃになってしまってる。


 ひとつ分かったことはこの忍者はただのロリコンだ!


「……おい、森谷朱里」


「ぐすっ……な、何?」


 にじり寄る変態ロリコン忍者さんに聞こえないぐらいの小さな声で森谷朱里に語りかける。


「アニメの録画ってまだある?」


 ロリキャラは俺も森谷朱里も対象外だったため、そのキャラが中心となって出てくる作品はスルーしてきた。でもよく考えたら妹キャラってロリが多い。


 じゃあその作品を見せればいいんじゃないだろうか、という俺の案を森谷朱里に説明した。


「あー……ごめん昨日全部削除したわ」


 チェック。


 この状況のことをそう言うと聞いた。


 だがまだチェックメイトではない。そう、俺達には頼れる友達がいる。


「おいロリコン忍者!」


「ろり……?なんだなんだ? 意味は分からないがとても罵倒されてる気がするんだが?」


 罵倒してんだよ、と心の中で叫ぶ、だが声を出してはいけない。こいつに初めてあった時に感じたプレッシャーを思い出せ、こいつにスピードで負けた時を思い出せ、こいつは危険な存在だということを改めて認識しろ。


 その上で、彼に通じる作戦を立てる。


「森谷朱里、確かこの世界には撮った番組やアニメを保存しておける機械があったよな?」


「え、えぇ、DVDの事言ってるの? 一応あるけど……あぁ、なるほど、そういう事ね。多分持ってるわよ」


 よかった、ロリコンのせいでまともな思考回路を組めなくなったかと思ったが、そんなことは無いらしい。


「提案がある、忍者さん」


 狂ってはいたけれど、人の言葉を理解するだけの知性は残っていたようだ。俺の声に従って動きを止めた。


「……手短にね、僕は早くロリと戯れたいんだ」


「君にアニメを見せたいのは山々なんだけど、あいにく今君が気にいるであろうアニメの録画がない」


 森谷朱里とアイコンタクトをとる。彼女はコクリと頷き、話し始める。


「だから、忍者さんにお願いがあるの、二日待ってほしい。二日待てばちっちゃくて可愛い女の子が出てくるアニメのDVDたくさん持ってきてあげる!」


 この言葉を聞いて、忍者さんはわなわなと震え始めた。


「ぼ、僕に、この僕に二日までというのか!? この気持ちを抱えたまま48時間耐えろというのか!? 」


 本来その気持ちを抱えたまま、オタクは一週間耐えるんだよ!アンタはまだいい方だ!


 でも、ここまでは想定内、あいつはロリコン。


「そもそも僕はお前達とアニメを見たり、カードゲームをしたりしに来たわけじゃない! 林田真希! 貴様を───」


 だから、対抗策もまたロリである。



「……だめ、なの? ……じゅり……かなしい」


「はうっ!?」


 うわぁ……。


 俺自身、彼女のこんな声初めて聞いた。


 アニメのロリキャラのような甘々ボイス。加えてうるうるとした瞳で繰り出される上目遣い。いつも強気な声ぐらいしか聞いたことないし、いつも上から目線の彼女だからこそ逆におぞましい。声を出させたのは俺なんだけれども。


 しかし、なんかあざとい。いい、いいねこれ。


 俺もまた、妹キャラ好きというロリコンの亜種であることを実感した。


 まだ会話続くみたいだし、録音しておこう。


「いまからじゅんびしようとしたら、じゅりちっちゃいからけーさつさんにつかまっちゃうの……だから、そんなじゅりに……ぐすっ、そんなこと……いわ、ないでぇ……」


「しょ、しょうがないですねぇ~! 分かりました!二日後またここにきますからねッ!」


「ありがとう……ごじゃいます……たすけて、くれてありがとう……にんじゃさん、だいすきっ!」


 駄目だッ……! まだ笑うな……! 堪えろッ……!堪えるんだッ……!


 今笑ったらマジで殺される。苦しんで苦しんで死ねる工夫をされて殺される。


 まさに死ぬ気で俺は笑いをこらえているが、忍者さんは恐ろしくちょろく「デュフフ」と気持ち悪い笑いをしながら、玄関から外に出ていった。


 あれ、男だよな? 女でもヤベェけど。


 バタンと、ドアが閉まる音がした。


 それと同時に、森谷朱里は泣き崩れた。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


「……災難だったな」


 長い夜は、終わった。


「……なんであの忍者は、俺の名前知ってたんだろうか」


 それにあの口ぶりからして、間違いなく狙いは元々俺だった。そしてあのプレッシャー。


「考えすぎかな」


 アニメ見てる時も、カードゲームしてる時も、嫌々やってはいたが悪い人には見えなかった。


 もしかしたら、俺の協力者かもしれないしな。俺は顔を覚えるのが苦手だからあの忍者さんのことを覚えていなかっただけなのかもしれない。


「でも、そんなことよりまずは……」


「好きでもないのに好きって言っちゃったぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」


「……今日はもう、寝ようか」


 多分この女は夜が耽るまで永遠に泣き続けるであろう。分かりきっているからこそ、割り切った俺はあえて彼女を慰めない。


 そもそも、録音してしまった俺も今罪悪感がやばい。


 ごめん、森谷朱里。


 せめて布団ぐらいは持ってきてやるから。

次回は日曜日です。

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