忍者さんと遊ぼう
今回のお話にトランプの「スピード」が登場します。
分からない方はルールを調べてから読むといいと思います。別にわからなくてもいいと思うので気にしなくても大丈夫です。
「こ、こっち来てください!忍者さん!」
「目線お願いします!一緒に写真撮らせてください!!」
「……え? え?」
森谷朱里と目くばせで確認した作戦、「ぐいぐい行こうぜ」で考える暇すら与えずに、彼女をリビングに連れ込む。
まるでアイドルだ、森谷朱里なんか目がもうイッちまってる。薬やってるぐらいの目をしてる。
そう言っている俺ですら多分目とか鼻息とかやばいかもしれない。というか自分でもわかるぐらい危険だ。気持ち悪い笑い声があふれてくる。デュ、デュフフ……。
「ま、待ってほしいんですけど……」
「すみません忍者さん、ここ私の家なので私の言うことに逆らえないんですよねー」
「えっ」
ゲスッ!? なんだこの女堂々と嘘つきやがって! 忍者さんただでさえ困惑してたのにさらに困惑してるじゃん!いいぞもっとやれ。
しかしこの忍者、本当に俺が想像していた忍者そっくりだぁ……顔の半分を隠すぐらいのマスク、暗闇に澪隠すためか、黒い服装。まさに忍者。俺が追い求めていたもの。明日結城萌花に自慢しよう。
「さぁ忍者さん!カードゲームしますか! トランプしますか!? ババ抜きしますか!?」
どんどんと枠組みが小さくなっていき、結局やるのはババ抜きになった。でも実際楽しいかもしれない。忍者とトランプゲーム。忍術とかでカードが何なのかわかったりするのだろうか、胸が熱くなるな。
とりあえず、そんなこんなあって俺たち三人は無理やり忍者さんを座らせてババ抜きの準備をする。
「お、おい? 貴様ら、この僕に一体何をするつもりだ? 内容によってはこの家のルールとやらをぶち壊すまであるのだが?」
「ぼ、ぼくっこ……!? もう一回言ってお願い!! ろく、録音するから!」
低身長、しかもなんか微妙にかわいい声が森谷朱里様のお気に召したのか、はぁはぁ言いながら忍者さんににじり寄る。キモイ、明日のキモオタ勝負で負ける気がしない。
「ヒィ……なんなんだこの女は……?」
めっちゃ怯えてる、半泣きレベル。この忍者さん、結城萌花に会ったら心肺停止しそうだな。
「ところで忍者さん、ババ抜きは知ってるのか?」
一応聞いてみるか、もしかしたらタイムスリップとかでこの世界にやってきた可能性がある。その場合はちゃんとルールを教えてあげないといけないしな。
「……知っている」
えぇ? いやそうな目線を突き付けられてる、嫌われてるの俺……?でも、さっきまでのプレッシャーはいつの間にかすでに消えている。さっきまで発していた人物がまるでこの忍者ではないのか?と思うほど。
てか、知ってるのか。これが現代に生きる忍者。有能だなぁ……。
そんなことを思っているうちに、森谷朱里の素早い手つきでカードが配られていく。
何分もしないうちに配り終えた。今からババ抜きが始まる。
「……何故この僕がババ抜きなんか」
不貞腐れながらそう言いつつも、カードを手に取り俺たち三人の中央にポイとダブっているカードを捨てている。
満更でもないのかもしれない。
「むり、何今の、可愛い。好き」
「……」
こいつはもう、放っておこう。自分がオタクというのを忘れるぐらい気色悪い。
そして俺達の長い夜が幕を開けた。
✖✖✖
「……さぁ引けよ、忍者さん」
「これだっ!」
俺の残り二枚の手札から忍者さんが引いたのはジョーカー。
「はい残念」
「ぅぅぅぅぅぅ!!」
悔しそうに机を叩き始める、なんか小さいお子様見てるみたいで可愛い。
しっかし、この忍者弱すぎる。
今のところ五戦中五連続最下位。残りカード三枚の状態で五回連続ジョーカーを引いて負けている。
ただいま行っている六戦目も全く同じ状況だ。
「なかなか雑魚だな忍者さん」
「馬鹿にするなよ林田真希! 次にお前がジョーカーを引けば同じこと! さぁ引け!」
彼はそう言って二枚のカードを俺に差し向ける、既に上がっている森谷朱里は高みの見物だ。
「じゃあこっち……」
特に何も考えず、俺から見て左のカードを選択する。
手を近づけると不気味な笑いが聞こえてきた。
「……ふふふ」
忍者さんが笑ってる、嘘でしょ?顔隠してるのに表情丸わかりなんですけど。忍者の癖に。
「……やっぱやめた」
「ああっ!」
考えを改めて今度は右のカードを選ぶと、忍者はとても悲しそうな表情をする。
子犬みたいな目をするな、左選んでやんねーぞ。
「ほい」
「うあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
右のカードをとる、これで上がりだ。
忍者さんはこれで六連敗、ショックのせいか机に伏した。
「も、もう一回だ! 次は負けない!」
最初はいやいややっていた忍者さんも、何度も負ければ勝ちたくなるというもの。泣きのもう一回を要求した。(絶賛五回目)
「んー……忍者さん、カードゲーム苦手なのかもね」
「そうっぽいな」
森谷朱里の考えはあっている。この忍者表情にすぐ出るからババ抜きなんかやらせちゃいけなかったのかもしれない。
「じゃあ違うゲームやりますか」
「うん、その方がいいわね。何がいいかしら……ポーカーはダメ、ブラックジャックはあんたが知らない……。スピードとかどう?」
「いいな、それなら実力勝負だ。忍者さん、スピードのルールは?」
「ぐっ、ババ抜きで勝ちたかったけど……まぁいいだろう。勿論知っているとも、僕を馬鹿にするんじゃない」
「じゃあ決まりだな」
忍者との第2Rはトランプによるスピード勝負となった。
✖✖✖
「……っ!!」
高速でカードが動く、強く机を叩く音が響く。
このスピードというゲームは心理とかそういうものが無い。単なる実力勝負であり、早く手を動かせた人間が勝つことが出来るゲームだ。
「ふふふ……」
俺の相手の忍者さんは、どうやらこの手のゲームの方がお得意のようだ。まさにカードを手裏剣のように使って自身の枚数を減らしている。
既に俺と忍者さんの手持ちカード一枚。彼の場にある四枚のカードの数字は4、5、6、8。俺の場にある四枚のカードがQ、K、7が二つ。
今置かれている一番上のカードは2と10。
この状態の場合。自分の場に出ていない次のカードをお互いに出し、そこから再スタートしていくのが森谷家ルール。
このゲームはトランプの性質上出せないまま終わるということは無い。だがこの家の特別ルールによって1枚だけ抜かれているカードがあるらしい。なぜそんな複雑そうなルールにした!言え!
俺達の手持ちの残り一枚を場に出した瞬間にゲームが動き始める。あとはどちらが素早く行動できるかの勝負だ。
「林田、分かってるな?お前が勝つ手段が限りなく少ないということを」
「……どういう事だ?」
俺がそう聞くと、忍者さんは流暢に語り出した。
「考えればわかることだ。俺達の残り手持ちカードは三枚。そして今まで登場していないカードは3、9、J、つまり今から起こりうる状況は三つ。一つは3と9が出た場合。こうなったらお前の負け。QとKが処理できない。
二つは3とJが出た場合。これもお前の負け。QKの処理は出来ても7が余る。同じ数字を重ねることが出来ないルールでのプレイなので、俺の7に7を置く事が出来ない。よってお前のもう一枚の7は8の後に出すことになる。必然的にカードの枚数が多いお前は勝てない。
三つは9とJが出た場合。これは僕が6を出した時にお前の7と僕の5をどちらが早く場に出せるかの対決だ。さて、この意味わかるよな?」
「絶対に不利ってことか……」
つまるところ、この勝負は向こうが有利。俺は最高で互角の状態にしかなれない。圧倒的に不利。しかし、この忍者、一枚一枚出していたカードを覚えてたのか? とんでもない集中力だな……。
「この勝負、貰った……! スピード!」
「くそっ、スピード!」
スピードの掛け声とともに、手持ちのカードを盤面にたたき出す。
出たカードは……9とJ! 俺が勝つ可能性のある三分の一を引くことが出来た。
「よしっ!」
「くそ、運のいい奴め」
あとは5と7の一騎打ちなので出せるカードはすべて出しておく。QKを処理し、忍者さんの出した8の上に7を置く、さぁここからが戦争だ。
「……行くぞ、林田真希」
「あぁ、どっちが素早いか勝負だ」
当たりに漂う緊迫感、近くで俺達の戦いを見つめている森谷朱里はそんなの気にせず欠伸をしている。ダメだ、あれを見てはいけない。
俺は7を、向こうは左手に6、右手に5を持つ。
ここまで来たら、何としても勝ちたい。ボロ負けなら納得出来るけどいい勝負をしているからには俺が買って終わりたい!
忍者さんには悪いけど、全力で腕を振らせて貰う。爽やかな風が来ても許して欲しい。
忍者さんの左手が一つの盤面に向かう。決戦の時と決着の時が近づいてくる。呼吸なんてしている場合ではない。見ろ、見ろ、勝負は一瞬だ。集中しろ。
「……全力で来い、林田真希」
ついに6が今、置かれた。
次の投稿は木曜日に行います。




