プレッシャーの先に
俺の名前は林田真希。でも実は違う、本当の名前はリンデンだ。俺はこの地球に毒しか与えることの出来ない人間という生き物を滅ぼすために地球に来た存在。『魔術師』と呼ばれている。
別に人間がこの地球をどうしようか俺には関係ないこと、だと思っていたが、俺たちの住む世界は何故かこの地球が生むマイナスなエネルギーを吸収する役割を持っていた。
だからこそ俺はそのマイナスなエネルギーしか産むことの出来ない人類を滅ぼそうとしているのだ。
そんな重大な任務を持つ俺は今。
「かっこいいーー!」
ある人間の家で、人間の文化であるアニメを見ている。
現在午後9時。外は盛大な大雨だ。
「何アニメごときにかっこいいとか抜かしてんのよあんたは、高校生にもなってみっともない」
アニメを見ている俺の後ろでため息をついている女性は森谷朱里。俺の天敵だ。
彼女はこの世界を守るために訓練された特別な兵士…らしい。詳しい話は聞いていないし、多分聞いても答えないだろう。
「ふん、悪いがクール気取っても無駄だぜ森谷朱里。俺は知っているからな?お前が録画している深夜枠のアニメの本数俺より多いことを」
ちなみに俺が二で彼女が四だ。
「なっ!?」
なんで驚くの? 同じテレビ使ってみてるんだから普通わかるだろ?
基本俺を怒らせるようなことしかしない女だけど、思いっきり抜けてるところもあって可愛らしい人間だ。どうも嫌いにはなれない。
「で、でも私はあんたみたいに『デュフ』なんて笑わないわよ! 気色悪いのよこのキモオタァ!」
「て、テメェ! 俺の至高の萌えアニメタイムに侵入してきやがったな!?」
そんな笑い方はした覚えないけどな!
「しっかし、ほんとあんた二次元好きよね……?」
これ以上争っても不毛と思ったか、自分が優位にたった状態でこの話を切り上げたかったかは分からないが、森谷朱里が話題を変えてきた。
「当たり前だろ?俺達の世界にはこういうの無かったし、何より二次元のキャラってみんな可愛いしかっこいい」
「ま、まぁそれは少しわかるわ。私もアニメはよく見るほうだし」
少し躊躇いながらも森谷朱里は頷いてくれた。珍しく気持ちよく気があった。
「その中でも……この忍者ってカッコイイよなぁ」
俺は今見てるアニメに出てくる忍者を指さしてそう言う。
「へぇ……! なかなか目の付け所がいいわね、私も好きよ忍者」
「おいおいどうした?今日は気持ち悪いぐらい気が合うじゃねぇか」
明日あたりに天井から槍でも降ってくるかもな。
「ところでこの忍者って今も日本にいるのか?」
「んー……忍者はいないんじゃないかしら。あっ、忍者といえば」
何かを思い出したかのようにぽん、と手を合わせる。頭の上に電球が見えた。
「私ね、忍者って呼ばれてたことあるのよ?」
「テメー忍者バカにしてじゃねぇぞ。お前のその水平線ボディで男を落とせるわけないだろいい加減にしろ。多分それ皮肉だから、皮肉じゃないにしても俺がそんなの認めないから」
「ち、ちびで悪かったわねっ!貧乳で悪かったわねっ!そういう事じゃないの!訓練で動きが素早いからそういうあだ名がつけられてたってこと!」
あぁ、そういうこと。てっきり調子乗ってるのかと思ったわ。
顔を真っ赤にしてぷんすかと怒っている。とても感情表現が豊かでいいと思った、ただそれだけ。
「あってみたいなぁ、くのいちとか、カッコいい兄貴ズラの忍者に」
「何言ってるのよ、忍者といえばショタっ子かオッサン忍者でしょ?」
「は?」
「え?」
ここでまさかの意見の食い違い、こうなってしまえばもう戦争しかない。同じアニメが好きでも派閥というものは存在する。キャラの好き嫌いやカップリングで揉めたり、ひとつ噛み合わないだけで大きな亀裂を生む。
今がまさにそれ、さっきまでの俺達はどっちも忍者好きということで分かり合え、いつも見たいなピリピリした雰囲気ではなかった。しっとりとしていた。
今はもうダメだ、ビリビリしてるわ。
「さてと、何で決着つける?」
「そうね、今のところ私たちの戦績は26戦してあんたが11勝で私が13勝、引き分けが2回。そして前回負けたのは私だからルールを選ばせてもらうわ」
こいつ、嘘しか言ってねぇ。俺とお前の勝ち負けが逆だし前回負けたのは俺だ。自分が有利になる状況を無理やり作ろうとしてんのか? しかもこの部屋には俺しかいないのになぜ見栄を張る?
「色々気に食わないところはあるがまぁいいだろう。よし選べ、敗北しかない選択を」
「勝負は明日決行よ、部活中にやるわ」
えぇ……何やるつもりだ? トランプ系統なら今やればいいし何より学校にそういうもの持っていっちゃダメだろ。
「不要物持ち込むな学生の屑」
「逆にルールに乗っ取ることしか出来ないって言うのも私は臆病者だと思うわよ?やけにプライド高いくせに何もできそうにないプライドチキンさん?」
「ちっ……! うまいこと言いやがってからに」
イラっとくるにんまり顔で言われるプラスこいつに言われるというのが嫌で嫌で仕方ない。
でも、実際そうなのだ。俺はこいつを殺そうと思えば殺すことができる、だがこいつは俺の力、「魔力」の半分を持っている、というか奪われた。騙されて奪われてしまった……!
半分じゃきっと人類全員を敵にしたときまず勝てない。力尽きるか数の暴力で圧殺されるかだ。
「で? 結局何するんだ?」
「審査するわ、どっちが真のキモオタか」
とても勝ってもうれしくないし誰も得しないゲームすんのやめようぜ……?
「一応聞いてみるけどさ、審査員はだれにするつもりなんです?」
森谷朱里が待ってましたと言わんばかりに(無い)胸を張ってふんぞり返って。
「当然、萌花ちゃんよ」
ですよねー……というか俺とお前が話すことのできる人間といえば担任の山本先生と、そいつしかいないもんな。
「まぁ、それでいいけどさぁ……」
萌花に審査員なんてやらせたら、それこそ俺たちがにわか呼ばわりされるだけだと思うんだけどな。
でも仕方ない、こいつに逆らってもろくなことないし、逆らう理由もない。ここはこいつの提案でいこう。
「じゃあ決定ね! 連絡するから!」
意気揚々と森谷朱里は二つしかないであろう連絡先の中の一つ、結城萌花に連絡を入れた。指の動きがとてもぎこちない。うわなんか悲しくなってきた。
あのテストの件を終えてから、森谷朱里と結城萌花はとても仲良しになった。教室でもいつも二人で話してる、部活でもいつも二人で話してる、よく飽きないなってぐらい話してる。
その時森谷朱里も結城萌花も本当に楽しそうに話している、見てるこっちが笑ってしまうぐらいに。
いつか俺はその笑顔を奪う、だからこそ目に焼き付けておきたい、それを奪ってまでやり遂げなきゃいけないことがあり、奪うからには俺達魔術師に失敗はない。
いつも通りだ、いつも通りの決意表明。いつも通りの毎日がまた始まる。もう歯を磨いて眠るだけ、明日になって学校行って……。そんな日々が続いていく。
……やはり、甘かったのかもしれない。
憧れが、すぐそこまでやって来ていた。
俺が望んでいたものはこの地球にはあった。
でも、俺のこの生き方は。
普通の生活を許さない。
ガシャァァン!!
「え!? な、何今の音!?」
「二階の窓ガラスが破られた音だ! 以前俺も同じ音出したから分かる!」
「色々言いたいことあるけどそれは後にしてあげる! とりあえず上行くわよ!」
俺と森谷朱里は急いで上の階へと駆け上がる。
なんだ? この感覚……?
今まで感じたことのないプレッシャーを感じる、今窓をぶち破って来た存在が、ただならぬ存在であると俺の本能が告げている。
俺はいつでも戦闘準備に入れるように魔力コントロール用の穴あきグローブをはめる。これで俺は自分の魔力を固めて武器をいつでも作ることが出来る状態になった。
二階の窓を壊して侵入してきた、というのは分かるのだがどの部屋にというのがわからない。でもさっき言ったようにプレッシャーを感じる。それが俺たちを窓を割った部屋に導いてくれた。
「この部屋……私の部屋じゃん!?」
「よし、入るぞ」
「ちょちょ、ちょっとまって! お願いだから待って! 今部屋が片付いてないの! 見せられる状態じゃないの!」
何言ってんだこの非常識な人間、そんなのがこの状況で通用するわけないだろうが!
「知るかボケ! 別にお前の部屋に興味なんてねぇ!」
今あるのはよくわからない恐怖のみ、それの正体を知るためにもその力いっぱい抑えているお前の部屋の扉からどけ!
「退け!」
「いーやー!!」
「退くな!」
「いーや……タイム! 今のなし! いいですよ!」
いやこんな漫才やってる場合じゃねぇ! 早くどけぇ!
「あっ、ちょっ、きゃうっ!」
無理やり引きはがし、俺はドアノブに手をかける、ほんの少し感じる恐怖を落ち着けるために一つ深呼吸して。勢いよくドアを開ける。
「……ん?」
「い、一体何が……え?」
まず目に映ったのは、散らかった部屋、散らばった窓ガラスの破片。そして……。
「「に……」」
「……貴様が、林田真希か?」
「「忍者だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
「……え?」
二日おき投稿したいと思います。