似たもの3人組のお話
「入るぞ林田」
そう言って問答無用に部室に現れたのはこの「お悩み相談部」の顧問である山本先生。
ここに来た理由はひとつ、この部活動の部長を決定するため。
「答えは出たかね?朱里、林田」
「…なんの答えでしたっけ?」
「「…は?」」
山本先生と俺の声が見事にハモる。
まさかこの女…本気で忘れてたのか…!?
「おい待て森谷朱里、確かに今日はいいこと沢山あっただろうけど忘れちゃいけないことだってあるだろうが」
「えっ…あっ!部長の件!」
やっと思い出したか…思い出すってことは…。
「やっぱり忘れてんじゃねぇかコラ!!」
俺は遂に怒りを抑えられずペちんと彼女の頭をはたいた。
「ひゃうっ!いったい…」
あんまり強く叩いたつもりは無いが森谷朱里は頭を抑えてうううと呻いた。
「林田くん!何やってるんですか!朱里ちゃんに謝ってください!」
そのせいか結城萌花にお説教された。まて、俺が、俺が悪いのかこれ?
「おい萌花、何かおかしくないか、そもそも悪いのは俺じゃなくてあの馬鹿…」
「それでも!王子様はお姫様にビンタなんてしませんよ!」
悪いのは認めるのね…。怒ってるのはビンタしたことだけだと、なかなかに鬼畜だなこの人も。
「…漫才は終わったか?」
少し怒りのこもった山本先生の声で、俺達のごちゃごちゃした雰囲気は吹き飛んだ。
すごく小さくて聞き取れなかったが確実に舌打ちしてたよあの教師。元ヤクザだろ絶対に、日本終わりすぎ。
…この先生がヤベェやつだってことをこれ以上言っても仕方ない。さっさと答えて帰ってもらおう。
「はい、部長の件ですが…」
答えは決まってる、まぁ、最後の優しさってやつだ。なんやかんやで二人にはとても世話になったしな。恩は返す、仇で返すなんて人間を見下してきた存在がしていいことじゃない。
部長には俺がなって彼女ら二人仲良くしてればいいと思う。
決意を表すように、そしてそれを自分も認めることができるように声高らかに宣言する。
「「自分がやります」」
…一体これで何度目だろうか、もう一人の声が聞こえたことよりも、また彼女と声がピッタリあったことに驚きを覚えた。
信じられないといった表情で俺を見る、きっと俺も鏡写のように同じ顔をしてるのだろう。俺と森谷朱里は。
✖✖✖
「じゃあ、二人でやるということでいいんだな?」
「まぁ私は別に構わないけど?」
「望んだ結果とは違うけど…別に彼女が嫌じゃないならいいです」
人の好意を無駄に…とは思ったがその好意を理解してもらってない以上そんなこと言っても仕方ない。
「し、仕方なくだからね!あんたがやりたいって言うからやるの!」
おーおー、どこかで聞いたことのあるようなセリフ…。後ろのお前の友達がハァハァ言ってるぞ。
これが俺の妹とか二次元のキャラとかなら可愛いと言えるんだけど…如何せん天敵となると…。
「…ただ気持ち悪いだけだな」
「ん?なんか言った?」
「別に…」
無駄なことを言うと怒られるからな、今日ぐらいいい気分のままでいさせてやりたいし怒らせるようにはすまい…。
パン、と先生が手を叩く。全員の視線が先生に集まる。
「さて、部長は二人でやるとして、えっと…結城、だっけ?入部希望?」
先生…その子あんたの担当クラスの生徒ですよ…?
ないわー、やっぱりこの先生マジでないわー。教師向いてなさすぎる、乾いた笑いが自然と出てきた。
萌花の方を見ると、案の定負のオーラを発しがっくり項垂れていた。
「いや…全然傷ついてなんていませんよ?だってわたし自身クラスで目立つようなことはしないようにしていたわけですし何より目立つの嫌いでしたしむしろ知らないということが普通の人間である証みたいな存在ですしわたし。だから傷ついてなんていませんよ流石に知ってて欲しいななんて思ってませんよ安心してください私こういうの慣れてますから大丈夫ですから。どうしたんですか先生そんなおばけを見るような目でわたしを見つめて。そうですよねわたし前髪長くておばけみたいですよねふふふごめんなさい」
結城萌花、お前のことをおばけみたいな目で見てるのはお前がおばけみたいだからじゃない。おばけより怖く見えるからだ。
おばけが嫌いな俺ですらまだおばけの方が可愛げがあると感じるほど今のお前は怖い。悪意がないのがさらに怖い。
「す、すまない!すまない結城萌花!謝るからその呪いのような早口をやめてくれ!夢に出る!」
先生も怯えていた、あの呪いのような言葉、本当に人間が発せるものなのか…?
「…ふぅ、それじゃあ入部してもいいですか?」
「あ、あぁ構わない!入部手続きは先生がしてやろう!それでは諸君、さらば!」
急いでドアを開けて、先生はダッシュで逃げるように消えていった。あの先生は乱暴だが意外と臆病なところもあるみたいだ。
ざまぁ。
今回も結城萌花に感謝。
俺に腹パンした先生を懲らしめてくれるなんて、こいつホントいいやつだな、人間なのが惜しいぐらいだ。
「ふふ、これでわたしも部員ですね、林田くん」
「へっ、この確信犯め」
死んだ魚のような目は瞬きの一瞬でいつもの可愛げのある眼に変わった、気持ちの切り替えが早いというか、ポジティブなのかネガティブなのかよくわからないやつだ。
「か、可愛くないです!」
そしてその照れた顔がまた可愛い。
「だから違いますってばぁー!」
腕をぶんぶん振り回しながら可愛いを否定してくる。なにこれ妹に匹敵するレベルで可愛いんだけど。小動物を見てるみたい。
「あんたね…そこまで行くとセクハラよ」
森谷朱里のその一言が俺を犯罪者への道から外してくれた。「ゴキッ」でも俺の右肩もついでに外すのやめて欲しいです。冷静に話してるけど相当な激痛が走ってるよ今。
「うぐぅっ…!?て、テメェ…!」
痛みに震えながらも森谷朱里を強く睨みつける…!でもおかしい、こいつが俺に暴力を振るうのは俺がこいつを怒らせた時だけなはず。俺は彼女を怒らせるような行為をしたか?
「…ふん」
いつもは見ないような不満げな顔で、そのまま森谷朱里は荷物をまとめて部屋を出ていってしまった。
彼女の真意は分からないまま、消えていった。
「何だったんだあいつは…?」
難しい…一番話してる人間のことが一番わからない…。
「林田くん、鈍感ですねぇ」
隣にいてじっと目を見つめながら結城萌花はそう言った。どうやら彼女も先生と同じ勘違いをしているようだ。
知らないくせにとは言わない、知って欲しくないから。だから俺ももはやイラつかない、悪いのは知らせない俺だから。
「ありえねぇよ、今お前が考えていることだけはな」
俺はそっぽを向いて吐き捨てるように言い放つ。結城萌花の顔は見えない。
時は夕暮れ、初めて見た感動するほど綺麗な夕焼けはもはや見慣れたが、どうも今日の景色はいつもと違う。
それは景色が変わったか俺の見方が変わったか。
決して誰にも分からない。分からなくてもいいことだ。
「…帰るか?」
「はい!」
荷物をまとめて部屋を出る。
これで幕引き、分かったことは一つだけ。
「俺たち、似てると思わないか?」
「わたしも、そう思います」
お互い視線を合わせて、口の端がお互い歪む。
また少しだけ、ヒトを好きになれた気がした。
あと1話で終わる…かな?
絶賛執筆中!