ささやかな幸せ
「その前に、いいですか森谷さん」
「え?な、なに?」
結城萌花がそういうと、俺の方に体を向ける。
はっきり言ってとてもやめて欲しかった、あんなに恥ずかしい事言った相手の顔を見るなんてとても恥ずかしくてむず痒かった。
そんな俺に向かって、結城萌花は大きくおじぎをした。顔を上げると、ちゃんと笑ってくれていた。
「ありがとうございました、林田くん。わたし、林田くんに会えて良かったです」
「…んー、ありがとうって言うのはこっちだな、色々思い出せてよかったよ萌花。あと、さっきも言ったけど…」
あぁもう!照れくさい!なんか続き言えない!
「林田くん」
「ん?」
名前を呼ばれつい目を向ける。今までより見やすい目元が見えた。つまり目と目が合った。
「分かりました、約束します、だから…わたしからも…お願いしていいですか?」
「…あぁ、約束する。信じるてみるよ君を」
また彼女は礼をした、感謝がひどく伝わってくる。本来俺がやるべきものを先にやられてどうもタイミングが掴めなかったぜ…。
彼女は森谷朱里のほうに体を向け直した。
既に森谷朱里は覚悟が出来ているようだ、真っ直ぐに前を見つめてる。
それは勇ましさを、今にも崩れ落ちそうな状態をギリギリで保っているような危なげを感じさせる。
「…おい森谷朱里」
「なによ、今は話しかけないで」
よく見ると手はまだ震えていた、恐怖は彼女にだってある。一番怖いのは彼女まである。
「私も信じるわよ、自分を萌花ちゃんが逃げない選択をしたんなら私も絶対に逃げない」
「そうか、ならいいんだ」
彼女は言いたいことは分かっていた、自分を信じてるからまっすぐ見つめることが出来る。
「では森谷さん、行きますよ…」
「うん、来て」
森谷朱里と結城萌花がお互い向かい合う状態になる、そして萌花は深呼吸を一つしてゆっくり目を開き彼女を見つめる。
森谷朱里も逸らさない、手の震えは止まっていた。
時間にしてみれば5秒ほどだったが、とてもその間は長く感じられた。
「…森谷さん」
「どう、だった?」
この部屋全体に溢れる緊張する空気、次の一言で全てが終わる、この2週間は彼女達のための2週間だった、せめていい結果に終わってくれと、俺は忌むべき神に祈りを捧げた。
「本心を見抜けることは悪い事じゃない、きっと何かの役にたつ、そう言ってくれた人がいました」
いきなり語り始める結城萌花、あまりに唐突だったので森谷朱里は目を丸くしてしまった。
「え?どうしたの萌花ちゃん?」
何をいきなり言ってるのか分からないという感じだったが、俺には分かった。
「今、生まれて初めてこの力があってよかったと思います。友達を奪って、他人からの避難を浴びせられ、それでも、最後に」
ぐずっと鼻をすする音。次の言葉が出てこない。
「それでも…最後に…」
「心から信頼できる、友達を…くれました…!」
言い切った、それと同時にがくりと膝をついた。そして大声で泣いた。
それは解放の涙、喜びが悲しみを超えた瞬間。
この2週間、俺は彼女の泣く姿を会う度に見てきた。それでも俺は絶対泣き虫だとはバカにしない。
独りぼっちな小さい彼女は辛いことしか経験してこなかった。そして今ようやくささやかな喜びを得ることが出来た。
たった一つの友達と人は馬鹿にするかもしれない、それでも彼女にとっては何よりも欲した一つのもの。
そしてその信頼に値する女性はうずくまって泣き続ける結城萌花を優しく抱きしめる。
ありがとうと呟いた、そして、彼女もまた、泣いた。
✖✖✖
「……」
「い、いやぁごめんね?マジで謝るわ」
アハハと軽く謝る森谷朱里、だがそんなんじゃ俺の怒りは少しも収まらない。
あの後、彼女達は抱き合って泣き続けた。それはもう廊下に聞こえるぐらい大声で。
そしてその鳴き声を聞いた一人の学生が俺達の部室の扉を開けた。
一瞬そんなことどうでもいいやと思ったが、全然どうでもよくなかった。
蹲って泣き叫ぶ女性二人。
そしてそれを冷たい目線で見つめる男一人。
その時普通の人間なら何を思うか…。
それに気がついたのはその学生がダッシュで職員室に向かった後だった。その後俺は教師に呼ばれて有りもしない罪に問われてしまった。
俺はその瞬間に「友達のいない女の子二人を容赦なく泣かせた転校生の屑」というレッテルを貼られてしまった。
「…なんということをしてくれたのでしょう」
「ご、ごめんって!ほんとごめんなさい!」
ペコペコと頭を下げる、森谷朱里のそんな姿は初めて見るから新鮮だ。優越感に浸れる。
…まぁ今回はこいつも逃げずに頑張った結果だし、結局のところあれは事故みたいなもんだし…。
「仕方ない、別に怒ってないしあれは事故ということで…」
「朱里ちゃん、よっしゃ!って言いました」
「サンキュー萌花」
この森谷朱里という人間に慈悲なんて要らなかった。ただ憎しみのままに森谷朱里を叩き潰すことにしよう
「なっ!?萌花ー!」
「えへへ…ごめんなさい」
しかし、なんだこの変わりようは…。さっきまでのぎこちなさはどこに消えた。
呼び方もなんか変わってるし、友達になったからと言ってここまで一瞬で変わるものなのか…?
「…はぁ」
気が抜けた、どうも怒る気になれない。
後は二人で勝手に仲良くしていてほしいと思う。そっちの方が俺もきっとやりやすいしな。
「あっ、林田くんに言いたいことがあったんです」
彼女の願いは簡単に叶えるのに俺の願いは一瞬で叩き割るのか、神様女性に贔屓しすぎ、男女平等をモットーにしろ。
心の中でボヤき、結城萌花の言葉の続きを待つ。
「わたしもこの部活に入っていいですか?」
「いいよ!大歓迎!」
ちなみに今の発言は俺ではない、森谷朱里が勝手に横から入ってきた。
「お前は馬鹿か?俺に聞いてんだろうが。そもそもお前にいえば一発オーケー来るから俺に聞いたんだろうが俺が答えを出すんだボケ」
「な、何よいきなり…まぁ、あんたが決めるなら文句ないけど」
こいつも今日やけに素直だな…?
毎度毎度思うけど、いつもこうあって欲しいです。
さて、俺の回答を待ちわびてる彼女に答えを出してあげたいところなんだが…。
「やめておいた方がいいぞ」
「な、なぜですかっ!?」
「そうよ!なんでダメなのよ!」
違う、入って欲しくないわけじゃない。むしろこいつがいることで森谷朱里の相手をしてくれるから俺もハッピーな気持ちになる。
でも問題はその部活。そして俺達にはもう一つやらなきゃいけない事がある。
最初で最後の、この2週間の始まりから終わりまでずっと付きまとってた問題がある。
「全部終わってから、な」
にやりと笑ってみせる、二人は揃って首をかしげた。
おい待て2人ってなんだコラ、森谷朱里お前だよお前、お前に関係あることだろうがとぼけんな。
コンコン
ノックが鳴った、きっと今日聞くことになる最後のノック、最後の訪問者が現れる。
長すぎる二週間もようやく終わりを迎えられる、実は決意はできていなかった、答えもまだ出せていなかった。
でも今、ようやく答えを見いだせた。
さぁ来い、山本先生。
遅れてすみませんでした。




