最低最悪だった人間
テスト三日目…
キーンコーンカーンコーン
3時間目終了のチャイム、それ即ち全ての解放の鐘。
この鐘をもって全てのテスト日程は終了した…。
「お、おわった…」
この縛られたものから開放されるような感覚。心地よいと思うやつもいればガクガク震えて恐怖を覚える奴もいる。
俺はとても気持ちがいい…。ここでのテストは初めてだが自信ありだ。
そしてガクガク震えている奴。そういう奴はきっと勉強してないやつなのだろうな。例えば俺の隣の席に座っている頭文字Mさん、今日は一日目のドリルを越える振動をしていた。
ありゃもはやチェーンソーだな…木材当てれば切れそう。
「おら、部室行くぞ」
「う、うん」
テストが終わってもまだ問題は残ってる。三つほどな。
今日、それ全てにカタをつける。
✖✖✖
部室にたどり着いた俺達は本日来るべき人の為の準備をする。だが準備といってもそこまでのものではない、いつも通りにカーテンで部屋を二つに分け椅子をセットするだけ。
今日来る予定の人間は3人、でも1人は微妙だ、来るかどうかわからない。
コンコンとノックの音が聞こえた。
さて、誰が最初の人間かな?
「し、失礼します!」
元気な男の声。
一人目は今回の依頼人、クラスメイトの男だ。
俺は意外だと思った、それは俺が来るか微妙だと思っていた1人だったから。
隣に座る森谷朱里は安堵のため息を洩らした。
果たしてそれは来たことへの安心か、それとも別のことでの安心か…。
多分両方だろうな。
ぎしりとカーテンの向こうで椅子に座ることがして、カーテンの向こう側からこいつに与えたテスト対策のプリント集が渡される。
「…へぇ」
それを見ると、案外真面目にやっていて驚いた。
単調な丸ばかりではなく、ミスしたところに印がつけられてあり、答えを見るだけでは付けられない消しゴムの痕跡も残っていた。
こいつもこいつなりに頑張ったんだろうな。
「やるじゃんか、俺はてっきり答え丸写しで提出するかトンズラこくかどっちかだと思ってたのに」
「さ、流石に同じ学校の生徒で同学年の可能性が高い人から逃げるなんてできないっすよ…」
まぁ、言われてみりゃそうだわな…。
「でも、初めはオレやるつもり無かったんですよ」
「ほう?」
「あの日、家に帰ってあのプリントをしてみてすぐ止めたんです。全然わかんないし、1週間で覚えられるわけないだろ!って思っててイライラしてたし…」
「それで?」
「でもそん時お母さんがそのプリント見て言ってくれたんですよ、「友達にこんなの作ってもらってるのにアンタが頑張らないでどうするの」って」
「その言葉で、やっとこのプリントのありがたみが分かって…なんとか恩を返すためにテストもがんばれました」
「だから、その…ありがとうございました!」
「へ!?あ、う、うーん…」
なんかこう、真っ直ぐにお礼言われんの慣れてないからな…そもそも嫌われる前提で俺動いてたからお礼言われるなんて想定すらしてない。
でも悪い気分ではないな。
「で?どうだった?そのテストは」
「は、はい!今までにない手応えでした!」
よし、それならいい。
こいつの手応えがいい時が何点なのかは知らないけど、点数自体は上がってるみたいだし、たとえこれでビリになったとしてもこいつを攻めるやつは誰もいないだろうな。
1度目は許されるが2度目は駄目だ。こいつに対してみんなが嫌な目で見ているというのなら、その理由は点数が悪いというところもあるが一番は点数をあげようとしてないからだと思う。
俺もクラスでこいつの様子は見ていた、休み時間も頑張って勉強していた。
その姿勢を見せれただけで、きっとうちのクラス点数もこいつの評価上がってると思う。
「そりゃ良かったな」
「ダメな自分をここまで助けてくれて、本当にありがとうございました!」
これでこの件は一件落着…だが、最後に気になることが出来た。
「最後に一ついいか?」
「はいなんでしょう」
「お前自分でダメ人間って言ったけどさ、それはやめた方がいいぜ」
「え!?でもそれは本当のことだし」
それは知ってる、でもさ。
「お前頑張ったじゃねぇか、今までよりずっとさ。そういう時ぐらい自分を讃えてもいいんじゃないか?」
「でもそれはこの部活とか親とかのおかげで…」
「その考え方が駄目だ。何をやるにしても誰がその作戦を立てたにしても、やったのはお前なんだ、1週間お前が頑張ったから手応えをつかむことが出来たんだろ?」
「は、はい…」
謙虚になるのは構わない、でもなりすぎると自分の良さが分からなくなってしまう。
そもそも、作戦を立てたやついちばんの功労者であるはずが無い。多少褒められはするけど一番誇られるべきはそれを実行した者だ。
もし実行者が誇られない世界が成り立ってしまうなら、この世界の受験というやつで合格した時に一番讃えられるのは先生になってしまうから。
「だから、まぁ、なんというか…」
く、くそっ!なんかこう褒められたこともないし褒めたこともあんまないから上手く言えねぇ!
「もし、いい点取れたならそれはお前が頑張ったからだ。自分の結果を自分で誇れ。誰がなんと言おうと一番頑張ったのはお前だからな!」
「あ、ありがとうございます」
これで、言いたいことは言った。
「以上だ、じゃあな、村上くん」
「は、はい…ってあれ?なんで名前を…」
「…内緒だ、広めないから安心しろ」
「分かりました…?」
そのまま村上くんはこの部屋をあとにした。
この名前を知って、俺は色々勘違いしていたことに気がついた。
彼が運動部に所属していないこと、クラスでよくアニメの話をしていたこと、結城萌花と時々話をしていたこと。 そして、この学校に転校して初めて俺に声をかけた人。
悪いやつではなかった、だからこそ気が合うと思った。
だが俺は友達作る気、まるで無いけどな。
「…ねぇ」
「おおう、お前いたの忘れてた」
横から死にそうな声が聞こえた、森谷朱里が青ざめた顔で今にも心停止で死んでしまいそうな雰囲気を出していた。
「あの人…村上くん、私になんの感謝もしてなかったんじゃない…?」
「…でしょうね」
だってお前…最初の話に付き合っただけで何もしてないじゃんか…。
2話完結まで残り5話ぐらいです。耐えてください。




