最低最悪は誰?
森谷朱里は語り続ける。
「萌花ちゃん、すっごくいじめられてたのよ。あの変な力のせいで薄気味悪く思われてた」
その話も既に聞いていた。改めて聞くとこの話は事件ではなく事故のように思える。誰も悪くない、いじめの原因はされている方にもあると昔言ったことがある。
結城萌花が意図的に相手の心を見たというのなら分かる。だがあの力は無意識に発動するもの。
俺が普通の人間だとしたら…距離を置くのもわかるし気持ち悪いというのもなんとなくだがわかる。
「そして、ある日を迎えて萌花ちゃんは一人になってしまったの」
つまりは森谷朱里が友達をやめたということだろうか。自分のことを話すからか更に彼女の顔が強ばる。
「ある日、萌花ちゃんはついに心に限界が来たの、そして迷惑をかけないようにと少し距離をとっていた友達についに頼ることにした」
少しだけだが、話の流れが見えてきた。結末も少しだけ想像がつく。
「…その友達、知らなかったんだな」
俺の発言に森谷朱里は大きく頷く。
「そう、その友達は、彼女がいじめられていることも、何故いじめられているのかも知らなかったのよ」
「なるほどな」
「そしてその時話されたのはいじめられてるということだけだった…話を聞いたその友達は次の日彼女をいじめた人たちを懲らしめた。その時知ったのよ、何故、いじめられていたかを」
何だこの話は。心がとても痛い。
「…そしてその友達はどうしたんだ」
「その友達は、以前と同じようにその友達と接することが出来なくなった。そしてその心ですら萌花ちゃんは覗いてしまった…そしてその日から、萌花ちゃんは本当の一人ぼっちになってしまった」
「家族は?家族はいないのか?」
「…あんたらに殺されたわ」
「クソッ…」
「これが、萌花ちゃんの生きざま。貴方はこれを聞いて、誰が悪いと思う?」
頭を回転させる。全ての事柄には原因は確実に存在する。いじめが起きる時発生原因は確実に存在する。
加害者だろうが被害者だろうが、原因はどこかに絶対にある。
だがこの話の原因は…?
みんな「当たり前の行動」をしている。
虐めた側、加害者だって自分の心を見られたくないと思うのならば距離をとるのも忌み嫌うのも当然だ。
何も間違っちゃいない。それが本来普通の人間がとる行動だ。
では、悪いのは心を見る事の出来る結城萌花?
これも筋違いだ。彼女の力は意図せずに発動してしまうもの、心を見るのは彼女の意思ではない。
悪意はない、悪いとは言いきれない。
では、彼女の親友が何とかするべきだったのか?
これも違う。これが友達というものの恐ろしさだ。
いくら友達だろうとなんだろうと、隠しているものはあるはずだ、隠し事のない人間なんていない、そして不思議なことにその隠し事というのは仲のいい存在に知られたくないものなのだ。
知ってしまえば、そのままの関係ではいられないもの、森谷朱里にはそれがあった、だから逃げるしかなかった。
友達でいたかったから、今の関係を壊したくなかったから。
その事を知る前に、結城萌花は心を閉ざしてしまったのだろう。前髪を伸ばして、誰とも目を合わせなくなってしまった。
それじゃあ結局、誰が悪いのだろうか。
いじめをする方なのか?される原因を持つ方なのか?それをただ見ていた方なのか?
「誰も悪くねぇじゃねぇかよ…!」
俺のその答えに納得しなかったのか森谷朱里が思いっきり椅子から立ち上がる。
「違う!悪いのは親友よ!大事な時に助けることが出来なくて何が親友よ!何が…!何が友達よ!」
いつも聞いてる森谷朱里の大声、聞き慣れているはずなのに今回の声は何かが違う。
思いが違う。これはいつもの怒号ではない、彼女の本来の叫びだ。
自分が悪いと背負い込んでいる。私のせいだと心が叫ぶ。
結局、2人は勘違いをしているんだ。そのことに気がついていないだけ…。
「ご、ごめん、大声出して…」
いつもの彼女ならこんな程度じゃ謝らない。相当心が乱れている証拠だ。
「で、結局お前は何が言いたいんだ?」
彼女の話を聞いて、その上で?という流れだったはずだ。お前が悪いとか誰が悪いとかそういう話じゃ本来ないはず。
森谷朱里が深呼吸して落ち着きを取り戻した。
椅子に座り直し、ゆっくりと口を開く。
「長い話だったけど、結局私が言いたいのはあんたが今友達にならないと萌花ちゃんは永遠に救われないのよ!」
まぁ一理あると思った。ただそれだけだった。
そしてそれ以上に怒りを、そして失望を覚えた。
「…いい加減にしろよ、お前」
今が大切?今が一番大事?
すぐ今、今と人は叫ぶ。
そうやって未来を見ないから地球が汚くなっていくんだ。お前らが地球をいじめてるから俺達の世界が崩壊しかけてるんだ。
知能だけなら最強の生き物がなぜそれに気づいてくれないんだ。
今だけが大切で未来を見ないって言うんなら、テスト勉強なんて必要ねぇだろ。今をずっと楽しんでろよ。
結局こいつらはただめんどくさいから未来を見てない。見ようとすれば見えてくることのはずなのに楽をして今を守ろうとしている。
そんなのただのキリギリスだ。蟻にすら劣るキリギリスだ。
未来を見据えず今を楽しみ抜いて結局辛い冬を代償に受ける。
だが人間はその上を行く。地球の命を破壊して、その代償すらその身に受け持たない。背負わされるのは俺達の世界なんだ。
だがまだ救いようはあった、人間は自分が星を破壊しているという自覚があった。そして少なくとも責任感はあった。
だが…この女は…!
「さっきから聞いてりゃお前…俺に頼りすぎなんだよ責任感があるのかねぇのか分かんねぇな!」
こいつは自分が悪いと言っておきながら責任を負おうとしていない。それが心底ムカつく!
「だって、だって萌花ちゃんが一番信頼してるのはあんた…」
「違うね友達になるべきなのは俺じゃねぇ、他にもいんだろ?最適なやつがな」
さぁて、無き罪に贖罪する時だ。負う必要の無い責任を負え。
「お前が、また友達になればいいだけだろ」
明後日投稿します




