最低最悪の一日の終わり
「起きろ林田くんっ!」
殺気っ!?
ソファーから跳ね起き、後方にステップする。
するとさっきまで俺の頭があった場所にナイフとフォークが突き刺さる。
飛んできた方向を見るとそこには舌打ちをする森谷朱里が立っていた。
「こ、殺す気かお前!?」
「殺す?何を言ってるのよ、起きないあんたが悪いの」
全く悪びれた様子はない。
起きなかったら殺すってどういう神経してんだコイツ…?
「でも死ななくてよかったじゃない、私もまだ悪さしてない人を殺さなくてよかったわ」
「…けっ」
「ほら、ご飯できてるよ」
にっこり邪悪な笑みを浮かべてくいッと親指をテーブルに向ける。
そこにはトランプタワーが建てられてあった。
「…」
えっとこれは…どう返せばいいのだろうか…?
まず食べ物じゃない。原点にして究極の問題点である。
「…おい、あれ紙だろ?」
「あれは正直者には味のわかるトランプよ」
「このウソツキ!」
俺は地球のことを勉強してここに来ているが分からないことは色々あった。
それでもさぁ。
「そこまで残念なやつじゃねぇぞ俺は!?」
「ちぇっ、騙されると思ったのに…」
森谷朱里の発言に怒りのボルテージが高まっていく。
ずっと優しいままでいたら俺だって態度を軟化させてやろうと思っていたのに…!
「…まぁ、冗談よ」
「え?」
そう言って彼女はトランプタワーを片付け、棚の中から茶碗を1つ出した。
「…なんだ?今度は皿を食えと?」
もはや何も信じられない。
「違うわよ!」
キレ気味にそう言い、その茶碗に『すいはんじゃー』から米を取り出し乗っけた。
「…はい!」
トンっと俺のよく座る席の前にその茶碗を置いた。
え?何これ?まさか…くれんの?
「おい、どういう風の吹き回しか?」
「…まぁ、今日の件は私も悪かったと思ったから」
あぁ、五時まで帰らないっていう嘘か。
「いや、気にしてねぇよ、むしろ嘘ついてくれてありがたかった。そうでもしてくれなきゃ今日はマジで帰れなかったからな」
ありがとう、と正直に思いを告げる。
予想外の出来事だったのか、森谷朱里は慌てた様子で。
「べ、別にぃ!?友達がドタキャンしただけだしぃ!?あんたがいないと寂しいとか思ったわけじゃないもん!」
カミングアウトした。
さぁどれが嘘で本当か、だがそんなことはどうでもいい。
知らなくてもいいことだからな。
「…はぁ」
「な、なんだそのため息はっ!?」
「別にぃー?お前のこと優しいなとか思ったわけじゃないしぃー?」
「口調真似すんなー!」
ムキー!と森谷朱里が騒ぎ出す。
「…ん?あれ?」
「どうした?」
急に森谷朱里が我を取り戻す。
「じゃあ、私を私の部屋まで運んだのって、林田くん?」
「それ以外に誰がいるんだよ…」
そうだよ、と俺が頷く。
するととたんに森谷朱里の顔が赤くなっていく。ゆでダコみたいだった。
「な、な、な、じゃあ、あ、あんたわ、わた、わたわた私をお姫様抱っこで運んだわけ!?」
運ぶ=お姫様抱っことかいう結城萌花並の思考回路について言いたかったがそんな余裕はない、めっちゃ怒ってる。
これは…嘘ついた方がいいな。
どうせお姫様抱っこで足触っただの胸触っただの匂い嗅いだだのそんなこと言われるんだろうな、否定するのもあほらしくなるしきっとその否定をあの女は受けつけまい。
「いや、お前寝つきよかったから腕引っ張って引きずってきた」
「も、もっと丁寧に運びなさいよ!ばか!」
「危なっ」
怒りのままに投げられるフォークを今度は余裕を持って躱す。
間違えたか…本当のこといえばよかったんだな。
だが今から訂正しても遅くはないはず。
「悪いな、さっきのは実は嘘で本当は丁寧にお姫様抱っこを」
「したの?」
わぁよかった、森谷朱里が笑顔になったぞ。でもおかしいね、笑顔なのに殺意が溢れてるね。なんか背中からドス黒いオーラが溢れてるね。
「どっち!?どっちにしてもムカつくわ!」
「どの選択しても結局怒るのかよ人間の屑め」
「うるさいうるさい!私に触れること自体が罪なの!犯罪よ犯罪!」
…なんかイラッとくるな。
俺が善意でこいつを部屋まで運んでやったというのにこの言い草。俺はお前のためにと思って運んだんだぞ?
「人の好意で行った行為を真摯に受け止めないなんて…した奴のことを考えろ悲しくなるじゃねぇか」
溢れる怒りを押さえ込み、静かな口調で彼女の罪を説く。
すると森谷朱里は鼻で笑いながらこう言い返してきた。
「…なかなかやるわね、この状況で好意と行為を使ったシャレなんて」
──あぁもう無理、理性の限界。
「表へ出な…いい加減決着つけようぜ…」
「…冗談よ」
「お前最近冗談って言っておけばいいみたいに思ってんのか!?」
甘く見られたものである。どうやらこの女はちょっと俺が反撃しないから調子に乗っているらしい。
「クソッ…一応言っておくが、俺はいつだってお前を殺せるんだからな?口には気をつけた方がいいぞ」
「私にも同じことが言えるわよ、私が死んだら私の仲間達があなたを暗殺しにかかるわ」
「ぐぬぅ…」
多勢に無勢、確かにこいつひとりなら大したことは無い、簡単に倒すことは出来る。
だがその後が問題だ、こいつの死によって群がってくる雑兵共が俺を始末しにかかる。
その雑兵を蹴散らすためには俺本来の力がなくてはいけない。
だから俺は今こいつを殺せないのだ。
どうにかして魔力を取り戻さなければならない…。
モグモグとご飯を食べながらそんなことを考える。
うん、おいしいけどラーメンほどではない。
「ご馳走様」
米粒一つ残さず平らげる。これ食事の基本なり。
「じゃあ皿洗いよろしくね居候」
「間違って叩き割るけど宜しいか?」
「…流石に困るわね、私がやるわ」
森谷朱里が呆れた顔で洗面台へ向かう。その時一つ疑問が浮かんだ。
「でもお前一人暮らしなんだろ?何でここまで皿沢山あんだよ」
軽い疑問だった。でも森谷朱里の顔が軽い疑問に答えるような顔じゃなく、それはもう真剣な表情へと変わっていく。
「…お兄ちゃんが、生きてるはずだから…」
悲しそうなか細い声でそう呟いた。
お兄ちゃん、か。
話は前に聞いた、こいつの兄は今行方不明らしい。
そしてその兄が行方不明になった日というのは以前俺達が地球に降りた日と一致している。
誰が考えても生存は絶望的だ。
それでも、彼女は待ち続けている。
自分に生き方を教えてくれた兄を、十年経っても待ち続けている。
健気なやつだ。彼女も諦めてはいるのだろうが、死んでいるという報告がない以上諦めきれていないのだろう。
諦めが悪いやつは嫌いじゃない。
「…ん?」
俺の頭の中で何かが繋がった。
今日聞いた話で。ひとつはさっきの森谷朱里の兄の話。
そしてもうひとつは山本先生から聞いた行方不明の知り合い。更に山本先生には森谷朱里と昔からの繋がりがあった…。
これは、偶然なのだろうか?
同一人物なのではないか?
「いや、それがどうしたってんだ」
俺は考えるのをやめた。
どう考えても今そのことに脳を使うべきじゃない、もっとやるべき事があるだろうが。
「勉強するか…」
バックから教材を取り出し広げる。それを見た皿洗い中の森谷朱里がそれを見てまた喚く。
「あっ!ちょっと待って!教えて欲しいとこできたの!明日のご飯にふりかけ追加して上げるから教えて!」
「マジで!?さっさと皿洗い終わらせろ!今日は勉強会だ!」
「うぇーい!」
そんなこんなで俺の、長い長い1日は終わろうとしている。
だがテストはまだまだ始まらない。そして俺の作戦もまだ何も始まっていない。
そろそろ面白くしないと…読者が消えていく…!




