最低最悪の失敗
帰路につきながら、俺は今の状況をまとめている。
ここ最近で俺が問題視してるものをまとめる。
1.部長の件…俺か森谷朱里、どちらかが部活動の部長をしなければならないということ。
2.同じクラスの少年のテストの件…これは結城萌花のおかげで少しずつ解決に向かっている。だがまだ危うい、なにかひとつ壊れるだけで失敗となる。
3.結城萌花への謝罪…なんて謝ればいいのだろうか…?彼女とこれから付き合っていかないと問題2が破綻してしまう。
4.森谷朱里を取り巻く関係…何故か、人事ではない気がしてならないのだ。初めてあったときもそうだったのだが俺は森谷朱里の事になると、どうも人事に思えない。同じような種族だからだろうか?
最後に5.どうやって家に侵入するか。
…振り返ってみると、地球を滅ぼしに来たようなやつが悩むような事じゃないわこれ。
しかし俺は悩んでしまう。人がいい、というのだろうか?人じゃないけども。
けど悩みがあると他のことに集中出来なくなってしまう、テスト期間だというのにそんなんじゃいけない。
だからこそせめてテスト当日までには悩みを全て無くしていきたいところだ。
さっき挙げなかったけども、それ以外にも悩みはある。自分自身のテストだってなんとかしなくちゃいけないし、何よりどうにかして森谷朱里から魔力を奪い返し作戦を開始しなければならない。
さて、そろそろ家に着く、この曲がり角をまが──?
「うおっ!?」
「きゃうっ!?」
ドシンと音を立てて向こうから走ってきた人にぶつかってしまった。
「おい大丈──」
「は、はいすみませ──」
俺に衝突して倒れたその人は、俺のよく知る人物だった。
「結城…」
「こ、こんにち…は…」
結城萌花がそこに居た、彼女の普段着は初めて見る。
今日もいつもに増して俯きがちである。
「…」
「…」
二人して、沈黙。
これほどまでに俺が辛い沈黙も珍しい。
原因は俺にある、だから俺から切り出さなければいけないだろう。
「…おい、結城…!?」
え?消えた?
少し考えてるうちに結城萌花の姿が忽然と消えた。
「え?え?え?」
さすがの俺でも良く分からない。一瞬だぞ一瞬。その隙に逃げ出したとでも言うのか?
スゲェ、そこまで避けられてるのか?
「ん?」
いや、よく周りを見たら普通にいたわ。
なんか「でんしんばしら」の後ろで小さくなって小刻みに震えてる。
「どどどどどどどどどど…」
「…」
俺が引くレベルに焦っていた。どっかのマンガの効果音みたいにドドドしてた。ドドドするってなんや。
しかし見るに堪えない、震えぐらいは抑えてやらなきゃならんわ。
…俺のせいでもあるしな。
「…なぁ、結城」
「ひゃひゃひゃひゃひゃい!?」
「まぁ、えっと…昨日は、悪かった」
「え?は、はい?」
なぜそこで疑問符が出て来るんだ?
「なんか不快な思いにさせたんだったら、謝る」
「い、いえ!わ、私も、少し驚いてしまいましたが!う、嬉しかったというか…その…」
森谷朱里が、こちらに振り向く。
「『前髪あげた方が可愛い』なんて、思われた事なかったので…はじめて、でしたので…」
ニコリと笑って、それでいて照れくさそうに彼女は言った。
…あの時、俺は彼女の前髪を強引に上げて彼女の顔全体を初めて見た。
「かわいい」と、はっきり思った。
だがそんなこと心の中で思っていると分かれば、そんなの気持ち悪がられるに決まってる。
そう思って、俺は彼女に謝ろうと思ったのだ。
しかし彼女は、「嬉しい」と言ってくれた。
地球人に嫌われることなんてどうでもいい事だ、俺は嫌われることに慣れているから。
だからといって真っ直ぐな好意が嫌いなわけじゃないむしろ俺だって嬉しい。
それが俺をかばおうとしてくれている嘘であってもだ。彼女の優しさに俺は心を打たれた。
そう思っているからか、不思議なことにいつもより彼女の笑顔がはっきりと見える気がする。
「そうか、嫌な気持ちにならなかったんなら、それでいいや」
じゃあな、と手を振り、俺は家へまた歩き始める。
「は、林田くん!」
声をかけられたので振り返る。結城萌花が立ち上がり、深く深呼吸。
「す、すーはー!すーはー!」
…すごい緊張している。顔が真っ赤だ。何を言おうとしているかなんて俺には分からないが、彼女の深呼吸に付き合ってるほど暇じゃ…暇だわ。
呆れる、そこまでなら言わなけりゃいい。
でも相当困ってるのも事実。ここは俺から声をかけて助けてやろう。
「結城」
「えっ、は、はい」
「また、明日な」
お互いを悪く思っていないなら、言葉はこれだけで十分だ。
「…はい」
結城萌花はそう返事をして、走って去っていった。
…あれ?
なんか間違えた気がする。大きなミスをしてしまった気がする。
大きな違和感が俺を襲った。なにか、違う。その何かが分からない。
謎はまた増えていく。
今更だけど序盤つまらなかったらまず作品すら見てもらえないよね