最低最悪の教師
「…私はな林田、森谷朱里とは長い付き合いでな」
「そうだったんすか」
「あぁ、昔は嫌われていたがある日を境にとても仲良くなったな」
「へー…」
なんか恥ずかしい、さっきまで言ってたことが根底から間違っていたようだ。
この先生が一番森谷朱里のことを知っていた。
別にそうだとしても、俺はそんなの関係ないはずなのだが。
ちょっと胸がもやもやする。ちょっと、ちょっとだけな。
ん?でも待てよ。
「ちょいまち先生、その話がどうしてあいつが俺のこと気に入ってる理由になる?」
「あぁそれは…?」
言葉がそこで止まる。冷や汗をかいているのが見える。あれはやらかした顔だ。
うつむき、ボソボソと呟く。
「言っても良いものか…いやいいよな、黙っててなんて言われてないしな」
今の発言からしてやはりこの人は教師失格だと思うんだ。
「私はよく森谷朱里と話すのだが…」
先生が俺の方を向き、ニヤリと笑って。
「いつも、君のことばかり話しているよ」
キリッと効果音が出てきそうなくらいのキメ顔を添えて、生徒の秘密をカミングアウトした。
「えぇ…」
なんて、なんてリアクションすればいいんだろうか…この先生空気読めなさ過ぎだろ。察してやれよ。
「察してあげてくださいよ…先生…」
流石に森谷朱里が可哀想になってきたぞ。
「ん?どういうことだ?君のことを話すということは気に入ってるということなのではないのか?」
部長決めの時といい、どうやらこの人は他人の感情を理解する力がないらしい。とことん先生に向いていないと思う。
「…彼女は俺しか話せる人が居ないんですよ」
「あっ…」
また、静寂。
とんでもない発言をして気まずい中、俺は残った麺を食べきりスープを飲み干す。
既にぬるく、先程までとは違った意味で食べにくかった。
果たして森谷朱里はどういう心境で俺のことを話したのか。それは、彼女にしかわからない。
だが俺は知る必要は無い。知ったところで、だからな。
✖✖✖
「よし、ついたぞ」
「はぁ、ありがとうございました」
帰り道は行きより早いと感じながら。先生の車は新たな目的地の学校までたどり着いた。
「本当にいいのか?家まで送ってもいいんだぞ?」
「いやぁ…家バレ怖いですし…」
バレたら社会的にまずい。
「はっはっは、教師ともあろう人間が人の家に勝手に入るなんて犯罪じみたことする訳がないだろ」
人を気絶させて車に詰め込む教師が何言ってんだか。
全く説得力のないその言葉を俺は鼻で笑い、車から降りる。
「ラーメン、美味かったす、あざした」
「うむ、今度二人きりになることがあったらまたどこかに連れてってやろう」
「え?いいんですか?」
これはいいぞ、タダであんなにうまい飯を食わせてくれるなんて。
「まぁ一つ条件があるがな」
そんなうまい話あるわけなかった。さて、何を要求されるのか…。
「これからも、森谷朱里のそばにいてやって欲しい」
真剣な表情だった。それでいてとても悲しそうでもあった。
「…彼女が、それを許してくれる場合に限りますけどね」
「そうか、ならそれでいいよ」
先生は軽く口を歪ませるが、それまで。真剣でこわばった顔は変わらない。
「あと、最後だ林田」
「何ですかね」
「君は、本当に『林田真希』なのか?」
ドクンと、心臓がはねる。
喉元にナイフを突き立てられているような緊張感が走った。
いきなりの緊張で俺の頭では色々な思考がごちゃ混ぜになっていく。
何故それを聞く?俺が人間じゃないのがバレてる?若しかしたら別の理由が?
だがその思考は今のままでは上手くまとめることが出来ない。
だからこそ、真意を知る。
「どういう意味です?」
「…いや、君と似た知り合いを知っているんだ。そしてその人は今行方知らず。もしかしたらと思ってな」
少し安心した。俺の正体がバレたわけではないようだったから。
それ以外の理由であれば何の問題もない。
「自分は『林田真希』です、あなたの知り合いではないですよ」
「…そう、か、済まないな変なことを言ってしまって」
会話はそこで終わった。会話するために開いていた車窓は閉じられ。車は俺を置いて出発した。
山本先生はその時、何故か涙を流していた。
なんとも言えない心のままに、俺は誰もいない学校に、ひとりぽつんと佇んでいる。
今は朝11時、彼女が帰ってくるまでまだ時間がある。
「でもまぁ…帰るか」
外にいてもいいことはなんにもなさそうだ、何より危険すぎる。
それなら家にどうにかして入っていき、身の安全を確保した方がいいかもしれない。
お外は危険でいっぱいです。
特に女性、俺がこれまでに話してきた女3人、みんながみんな、何かを抱え込んでいる。
…女性とはそういうものなのだろうか。
いや気にしすぎか。悪い癖だ。
考えることをやめて俺は帰路につく。今考えるべきことはどうやって家に侵入するかという方法だけでいい。
ペースを元に戻すようにします




