理不尽を味わい、地球人の理不尽っぷりを思い知る
「いや、名前はちょっと…そういう場だと思うんで、無理です」
「じゃ、じゃあせめて、顔! 顔だけでも!」
変わんねぇだろ! そんな突っ込みを心の中でしながら。リンデンは大変なことに気が付く。
(リンデンって名前おかしいよな)
ここは日本である、アメリカとかそこらへんならこれでもなんとかやっていけそうなものだが、ここは漢字またはひらがなの名前にしておくのがベストであろう、名前を考えておかなければ、とリンデンは考える。
(感謝するぜ、名も知らぬ人間)
「お願いします! お礼がしたいんです!」
「デリカシーのない人間だな……実は俺な、顔超汚いんだよ、人にあんまり見られないようにするためにわざわざこういう部活してるんです。だから察してくれ」
「そんなの期にしてどうすんですか! ぼっちは失うものがないといったのはあなたでしょう!?」
「うっ、痛いところをつくなお前は……」
こう、自分が言ったことがブーメランになるのは一番心に来るものである。
それが嫌なので、仕方ないから顔ぐらいは見せてやろうとリンデンは思った。
「ほらっ! 早く見せてくださいよ!」
「うおっ! ちょっおまっ手を引っ張るな人間!」
カーテンからにゅっと手が出てきてリンデンの手をつかみ、向こう側の世界へ引っ張り込む。
「こいつ……なんだこの腕力!お前ほんとに人間かよ!」
女性とは思えない腕の力で思い切りリンデンは引っ張られる。人間の女は力が弱いと学んでいたリンデンにとって、それは信じがたい現象であった。
「せーの!」
「うおっ!!」
「え? きゃぁ!!?」
思い切り引っ張っていったせいか、おそらくカーテン越しの女性が滑ったのか、おもいっきり二人とも体制を崩し、倒れこんだ。
「いっつぅ……ん?」
リンデンが倒れた先には、彼女の顔があった、直接触れあったりはしていなかったが、彼女に覆いかぶさるような形になっていた。
簡単に言ってしまえば、リンデンが女性を押し倒したような形になってしまっていた。
「……え?」
彼女は、何故か驚いていた。何に驚いているかは分からないが、本来こういう状況でこのような反応はおかしいとリンデンは感じた。
この体制だと彼女の顔が良く見えるので、その表情は読み取れた。少しつり上がった目つきに、乱暴に倒れたせいで乱れた、おそらく背中まであるであろう髪、どこか可愛さを感じるような出で立ちであった。そして顔は夕暮れのせいか朱に染まりきっていた。
思考がまとまらなかったのか、彼女は朱色の顔をさらに赤く染め上げて、
「な、なっななななにするんですかっ!?」
「ぶふぅアッ!?」
自分を押し倒した男の顔も朱に染めようとしてきた。
ゴッと、彼女の鉄拳がリンデンの右頬に直撃する、会心の一撃であった。
ただリンデンは自分が何をしたのだ、という悩みの方が痛みよりも大きかった……。
(やっ、やっぱり……人間は嫌いだ)
自分の思いを夕暮れの日差しによって茜色に近い色になった教室の天井を倒れながら再確認し、リンデンは人間の考えはわからないものだと、そう諦めた。
そしてリンデンは、何故だか少し、笑っていた。