最高のチカラ
遅くなりました。次も遅れます
「話と言っても、そこまで長いエピソードでもないんですけどね…」
「おう」
「このチカラは、『人の目を見る』ことでその人が思っていることが分かってしまうんです。でもこのチカラは心の声と口に出す声を判別できないんです」
なるほどな、だからこいつは俺が口にしてもいないことを口にしていると思って、受け答えしていたというわけか。文字にしてみると何言ってるのかよくわからないがつまりはそういうことでいいんだろう。
「そのせいで、わたしは周りから気持ち悪がられてました。なんにも喋ってないのに急に受け答えしてきたりするわたしがきもきわるかったんでしょうね」
「なるほど、前髪はそのためか」
「はい、しっかり見なければあんまり聞こえないので前髪を長くして目元を隠してます」
長い前髪にそんなわけがあったとは…。
というか俺の周りの人、いじめられっ子多すぎない?
「わたしはそのおかげで一人ぼっちになることも多くて、色々な悪いあだ名をつけられました、あぁそれは言いませんよもし言っちゃったらわたし投身自殺してしまいますよ?」
「自虐好きね…おまえ」
そこまで言わなきゃいいのに。言わなかったら気にならねぇのに。
「でも、一人ぼっちはあんまり辛くありませんでしたよ?時間が増えたように感じて勉強とか読書とか良くするようになって、いい作品とも出会えました」
なるほど、そして今のお前がその成れの果て。
人前でテレビじゃ「ピー」で隠されるような言葉を発したり図書室で変な妄想を繰り広げるような女になったわけだ。
なるほどわからん、どうしてこうなった。
だが共感できるところもある。ぼっちも悪いことだらけじゃないということだ。
彼女は1人になったからこそ、自分の好きなものを見つけることが出来たし、何より頭が良くなった。
そこら辺の群がることしか出来ないバカより、俺はよっぽど立派だと思う。
「…偉いよお前は」
これは本音だ、今まで見てきた人間が少ないせいということもあるが、その中でも彼女は1番人が出来ている。
偉いなんて言われ慣れていなかったからか、髪をいじったりして少し照れくさそうにしていた。
そういう俺も生き物を素直に褒めたことがないのでなんか照れくさい。
「そ、そうですかね、でも、やっぱりわたしは自分でもきもちわるいと思います。分かるんです、それは」
「別に、俺はそうは思わないがな」
「…ありがとうございます、嘘でも嬉しいです」
…うん、なんか結城萌花は謙虚すぎるというか、自分に自信が無さすぎる。それは過去に辛い経験をしてきたからだろうがもはやそれは過ぎ去ったことだ。今のこいつは人間が好きじゃない俺ですら魅力を感じさせる唯一の人間。
もっと自分に自信を持っていいはずなんだ。そのことを気づかせてやりたい。
「ちょっと失礼する」
「え?ひゃあっ!?」
俺は彼女のチカラを隠す前髪を上げる。いきなりだったからか変な声を上げていた。
「な、な、何するんですか?やめてください!」
俺から必死に顔を背け、絶対に目を見ないようにする。
やはり自分のチカラがまだ怖いらしい。
こいつのチカラの厄介なところは常時発動しているというところなのだ。自分でも制御できないから他人に迷惑をかけてしまう。さっきの話のようにそのせいでこいつはトラウマのようなものを背負ってしまったのだ。
「なぁ結城」
「て、手をどけてください!」
…駄目だ、話を聞いてくれないやつだ。
やはり辛いものがあるのだろうか。
そう思ったので俺は前髪をあげていた手をどかす、また前髪が深く沈んでいく。
「うう…やめてください…」
半分涙声だった、確かに急にあんなことされたらこうなるわな、反省する。
だが俺は、こいつを悲しませるためにそんなことをした訳じゃない。
「…今ので分かった、なぁ結城」
「な、なんでしょうか…」
「今から言うのは俺の持論なんだけど、聞いてくれ」
「は、はぁ…?」
きょとんと首をかしげながらそう答えてくれた、いいですよの意味だと判断し、俺は俺の思いをちゃんと告げる、思ったことを真実として伝えてみせる。
今回のポイントは、合理的解決はないということ、だから俺は答えを出すことが出来ない。納得するもしないも彼女次第。さぁ、始めよう。
「マイナスに考えすぎなんじゃねぇかなって思ったんだよ」
「マイナスに…マイナス思考ということでしょうか?」
「あぁ、今まで嫌な体験をずっとして来たから仕方ないと思うけど、これからは認識を改めようぜ、お前は今までこのチカラを怖がっていたみたいだが、そのチカラ、よく考えればとても使えると思わないか?」
「つ、使えるって…わたしはこのチカラが嫌いなんです!なんで使う必要なんかあるんですか」
「だからその考え方をやめろと言っているんだ、人の考えてることがわかってしまう、じゃなくてよ、こう考えればいいんじゃないか?」
一呼吸おいて、続ける。
「このチカラは、神様から貰った世界を正すことの出来る力なんだって、そう思えばいいんじゃないか」
俺の話の規模にやられたのか、少しの間放心しているようだった。
「…か、考えたこともありませんでした、そんな大きなことを…」
「少なくとも、俺はそのチカラはきっと人類のためになるものだと思うぞ」
「例えば、上手く人と話せない人、上手く物事を伝えられない時にお前なら助けてあげられる。言いたいことを理解してあげられる。そんなことが出来る」
「俺が思うにそのチカラは『人を助ける』ことが出来るチカラなんだ、どうだ実に壮大だろ?するとあら不思議、今までの不安が小さく感じられると思わないか?」
「…」
彼女は何も言わなかった、今回は俺も上手く伝えられたのか分からない。なぜなら彼女は「悪いことはしていない」から。
間違いを正すことは簡単だ、だが正解をねじ曲げて別の正解まで持っていくことは果てしなく難しい。それが今なんだ。
「いくらお前が悪く言われようとも、お前は一切悪くないしその能力も悪くない悪かったのは今までお前を囲んできた環境だ!」
「…!」
よし、ちゃんと伝えたいことは伝えられた。俺自身途中で何言ってんだかよくわからないところあったけどやりきった。
「ま、俺からは以上だ、なんかわかりにくい事言って悪かっ…え?なんでお前泣いてんの?」
さっきちらりと見ただけだから分からなかったが、彼女は俯いて何も言わなかったのではなく、涙を流していた。
「あ…いや…ご、ごめんなさい、こ、こんなに真剣に考えてくれた人…初めてで…」
泣きながら、途切れ途切れでもちゃんと言ってのけた。その姿が俺はとてもかっこよく、そして美しく見えた。
でも悪いな、俺も人じゃねぇ。
「…最後だ、お前さっき自分が気持ち悪いとか言ってたな?」
「は、はい、わたし自身可愛くないですし、このチカラもありましたし…」
へっ、やっぱりこいつ、一番大事なところ分かってないみいだな。
「さっき、お前の顔みて分かったことはまだあるんだ」
「え?まだあるんですか?」
「それはお前が…」
うっ。
「わたしが?」
きょとんと首を傾げて、俺の次の言葉を待ってくれてる。
だが、俺は次の言葉を言おうとしても、言えない…!
「や、やっぱなんでもない、忘れてくれ」
「は、はぁ…」
くそっ!言えるかよあんなこと!
なんかイライラしてきた!
自分でも何にイライラしているかわからない!
そのせいか少し早足になってしまい結城萌花を後ろに置いていく形になった。
「ま、待ってくださいよ!」
彼女は俺を追い越して俺の前に立ち、手を大きく広げて「ストップモーション」をする。
その時だった。
ごうっと、風が吹いた。そしてその風が髪をなびかせる。結城萌花と目が合った。
「…ふぇっ!?」
「くっ…!」
結城萌花の顔が、ぼんっと一瞬で赤くなる。
聞かれた、心の声を聞かれてしまった。
「わ、わたわたわたわわわわわたしっ!ここが家なんで、きょきょきょきょうはあ、ありがああありがとうございましたぁっ!!」
「あっ!?ちょっ!?」
あわてふためき、噛みまくり、結城萌花はその場を走って去っていった。
「…」
そして、俺1人が恥ずかしい気持ちのまま、夜の街に残された。
思うことは2つ。
明日、結城萌花になんて言おうか、ということと。
…さっきから鳴ってるこのケータイ、俺に明日があるのか、ということだ。
悩みは1日ごとに増えていく。消えたと思えばまた増える。
…悩みは、消えないものなのかもしれない。
明日に絶望しながら、俺は森谷朱里の待つ家にゆっくりと向かった。顔はまだ熱い。
何を言ったのかはもう想像つくでしょうが答えは後ほど。




