こいつはそこまで嫌いじゃない
「もうすでに嫌われてんなら、気にすんなよ、好感度って奴は上にしか上がらないぜ」
「そうなんですかね……」
リンデンはそう言うが、どうも彼女は納得はしていないようだった。
納得させる方法をリンデンは考える。
「……そうだな、失うものが何もないっていうのは最強の強みだ。俺ですら知ってる人間を例に出すがお前は豊臣秀吉を知っているよな?」
「そりゃあもちろん」
よかった、知らないとか言ってたら人間にただでさえ呆れていたのにもはや感動すらするところだった。
そんなことを思いながらリンデンは続ける。
「あの男は農民の出だったと聞く、他の武将と違って高い地位も位もない、だからこそ、何も失うものがなかったからこそ捨て身で戦えたんだ。それでいて、欲しいものはほとんど手に入れて来た」
諭す口調で、リンデンは続ける。
「お前は今一人ぼっちだ、けど一人ぼっちより少なくなることはない、だから思い切って話しかけてみろよ。俺と話してる今のお前ならきっとうまくいく」
「本当、でしょうか」
自信がないのか、それともまだ怖いのか、煮え切らない態度は変わらない。
「あとな、お前が悪いってさっきまで言ってたけどな、そこまでお前悪くないから気にしないほうがいいぞ」
「じゃあさっきまでのお話に何の意味が……」
「意味はあるさ、誰だっていじめらるかもしれない可能性を持ってるということだけ、知ってもらいたかったんだ」
カーテン越しから、「ん?」と考えているような声が聞こえる。もう少し簡単に言ってやるか、そう思ってリンデンは続ける。
「いじめられる原因が両方にあるのは分かっただろうけど、結局のところそれを探し当ててくるのは向こうなんだ、いじめっ子は大体いじめるための口実ってやつを気に入らない奴から必死に探してるんだよ」
「は、はぁ」
「だから、お前はそんなに表だって悪いところ出してるわけじゃねぇと思うし、そこまで気にすんな」
リンデンはこいつがいじめられている理由をこいつが言い返せない、気が弱いからだと思って話を進めていた。けれどそれは思い違いだった。
彼女は言い訳であれ何であれ、相手のことを考えて迷惑にならないようにと自分の悪いところを隠そうとしてきた。
極端に言ってしまえば、いじめられないために、いじめられる行動をしてしまっている。
リンデンはこの人間に少し同情を覚えていた。そして、他人のためにどうでもいいことを必死にやるこの人間に少し興味を抱いていた。こんな人間もいるんだな、と。
「じゃあその人とちゃんと話すとして、ちゃんと話せるでしょうか…。不安です」
(…初対面の俺とここまでちゃんと話せている奴が今更コミュニケーションの問題かよ…)
しかしここまで来た以上、しっかりとした回答を出さないとどうも調子が悪い、人間を悪く言うのなら、その人間から呆れられない行為をしよう。
そう思って彼女に自信をつけることができるような言葉を、嘘偽りなく、リンデンが感じたことを伝えようと一つ深呼吸をしてカーテンの向こうの女性に向けてる。
そして口を開く。
「あー、えーと、お前さ」
「何ですか」
「俺もあんまり人と喋ったことないんだが……」
「はい」
こほんと一息ついて、深呼吸して、第一声に力を込めるイメージで。
「お前と話してて、中々楽しかった、だから、きっと大丈夫、だ」
リンデンは片言ながらも顔を少し赤くしてそう言い切った。
「……」
懐かしい沈黙、2度目である。
「ぷっ、あっ、はははははっ!!」
そして同じく沈黙を壊したのは彼女であった。
「おい、何がそこまでおかしいんだ……!」
リンデンが少し怒り気味にそう言うと彼女の笑いが少しずつ治って行く。
「ヒィッ、ヒィッ……ご、ごめんなさい、さっきまですっごく厳しくてひっどい人だったから、急に優しくされて、面白くなっただけです」
「ちっ……」
ムカつく、やっぱりこいつはムカつくが。そこまで、 人間にしては悪い奴じゃあないな。
リンデンはそう思うと、ふぅ、と1つ息を吐く。
「でも、本当にありがとうございました。ただの慰めよりもあなたの説教じみたものの方が、とても自分のためになったと思います」
「そ、そうか良かったな」
本当にわからない、何故自分はこの女にここまで入れ込むのか。
しかも人間を滅ぼすどころか助けちゃったし,
もはやあべこべだぁ、とリンデンは思い、項垂れる。
「あの、こういう場では、こんなこと言っちゃいけないとは思うんですけど、ひとついいですか?」
「なんすか」
「今度お礼がしたいんです!だから顔と、お名前を見せてくれませんか?」
「な、にぃ!?」
(や、やばい、全然考えてなかった。俺の名前!リンデンなんて名乗れるわけねーだろうが!)
一難去ってまた一難、リンデンにまたピンチが訪れた。
× × ×
なんだこのペースは…自分でも驚いています。文字数が少ないからかな?