最低最悪の動機
「なるほど?手っ取り早く頭を良くしてほしいと…」
「はい、そっす。何したらいいっすかね?」
輪廻転生、来世にワンチャンかけろ。
俺ならこう言うな、さぁ森谷朱里お前はこの馬鹿に対してどれぐらいオブラートに包みながら返答する?
「そうだね…授業を真面目に受ける所から始めた方がいいよ」
…こいつ向こうの彼の授業態度を知らないのに真面目に受けてないこと前提で話してやがる…!
こいつもこいつでムカついてんだな、向こうからは見られないから顔にバッチシ出てるもん。
「な、なんでオレが授業中寝てること知ってんの!?」
しかも当たってるし…!煽られてるのにも気が付かないあたりなんかこうすげぇ惨めだなこの男。
「まず家での勉強はきっと部活で難しいと思う、でも授業をちゃんと聞くことが出来れば赤点回避ぐらいなら平気!」
…それにしても、意外とこの女しっかり対応してるな。もっとテンパるものだと思ってたけどこいつはこいつでしっかりしてるやつなんだろうな。
しかも適切な発言だ、まず最初に無理なことを言ってから簡単にできそうなことを提案する。そうすることで人は「これなら出来る!」と思い込む。
そうなりゃやる気だって出てくる。森谷朱里、こいつなかなかやるじゃんか。
「無理っす!」
だがこの男は違った。はっきり無理だと言い張った。
「…どうして?」
「だって、これまでいくら頑張っても授業全部起きれたことなんてないっすもん!」
…はー、なるほどそういうことか。
ここで俺は今はっきりと分かった。こいつはダメだ、何言っても勉強頑張ることが出来ないタイプだ。
言い訳に言い訳を重ね、その言い訳を信じ込む、自分は出来るんだ、本気出せば出来るけど本気出してないだけだし。みたいな感じ。
こういうやつは何やっても上手くいかない、何故なら物事を楽に済ませる方法を知ってしまったからである。
それが「本気出してないから」だ。
あぁなんと素晴らしい言い訳だ、誰も嘘の証明ができず、自分が納得さえしてしまえばそれは本当になってしまう。
そういう言葉を使っていいのは日頃言い訳なしに頑張ってる生き物だ。ちょっとやそっと自分の思いが変わったところで行動自体が変わるわけじゃない。そもそもこいつははさっきの発言からして変わろうとしていない。
だから、俺は二次元の世界だとしても大したことがないのに異世界に行ってから本気を出し始めようとする系統の物語は好きじゃない。
それからというもの、森谷朱里は必死になっていい案を出していくが向こうの男の「でも」によって打ち消される、何度やっても打ち消される。
森谷朱里は、彼の出来ない発言は想定していなかったようで頼りなく慌てている。
「ど、どうすればいいの…?」
必死に考えている、どうしてそこまで見ず知らずの他人のために必死になるのだろうか。
…こいつも、俺にだけ厳しいだけで根は優しい女の子なんだな。
「ちょ、ちょっと、分からない、ですね」
だがいくら頑張ってると言っても、俺がお前の相談に乗ってやったのは俺の目的の危機が迫っていたからと、単なる気まぐれだ。今回も人を助けるなんてそんな甘ったれた考えをなくせ。
「そ、そんな!見捨てないでくださいよ!」
しかしこの男、本当に哀れだ。彼女が与えた助け舟を自ら破壊し、そしてまた舟を作れとお願いしているのだから。
森谷朱里じゃ、もうこの男の相手は出来ないな。
「…ねぇ、林田くん」
そう思った時、耳元で俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。
「なんだよ、あいつはもうダメだってお前もなんとなくわかっただろ?これ以上力になることはできませんでいいんだよ、それ言えばやつも大人しく帰る」
「林田くんなら、助けてあげられるんじゃない?あの人を」
少し驚いた、まさか俺を頼ってくるとは思わなかったからだ、いや、可能性としては少し考えていたが本当にしてくるとは思っていなかった。
「…けっ、ここで俺だよりかよ情けねぇな」
あえて冷たい態度をとる。あまりにメリットがない。
まぁ、方法がない訳では無いぞ?俺の頭の中では色々な方法が残されている。
でも、この人間がどうなったところで俺には関係がない、むしろ勝手にやってくれって感じだ。あいつの成績が下がれば下がるほど俺が上位に行きやすくなるんだからな。
俺は俺が断ることにより森谷朱里が膨れてムキになるまで予想した。これまでの傾向からしてそうなることが想像しやすかったから。
だが。
「…お願いします」
彼女は、プライドを捨て意外にも俺に頭を下げて頼んできた。
「え?」
ちょっと驚いて大きめの声を上げてしまった。向こうから「あれ?」と声がする。まずい聞こえたみたいだ。
今度は聞かれないように、小さく小さく、か細い声で森谷朱里と会話する。
「待て待て森谷朱里、そもそもどうしてお前はこんなにも必死になってこいつの点を上げようとしてるんだ、本人にやる気がないならそれでいいじゃないか!?」
「ち、違うの!ちゃんとした理由があるの…!で、でもここでは言えない…お願い!どうにかしてこの人の点数を上げる方法一緒に探して!」
ここでは言えない理由?何のことだか知らないがお前のお願いを素直に聞くほど俺は人間が出来ていないんだ、そもそも人間じゃないしな。
「そもそも俺にメリットがねぇ。そこが問題だ、カウンセリングだって金もらってやってんだ、だから俺にもウィン・ウィンの関係ってやつが最低でも必要だろ。」
「うううううう…」
頭を抱えて悩み始めた、何を必死になって考えているのかわからないが、何とかしてあの男を助けたいという思いは伝わってきた。
「…そうだな、お前がそのメリットを与えるって言うなら、話は別だが?」
「…え?」
「ふっふっふっ…!」
「あの!話聞いてますか!」
「…話は聞かせてもらった」
「え?だ、誰ですか?」
さっきまで返答していた女性の声が急に俺の声に変わったからか、向こうの男はとても驚いていた。
「まぁ気にするな、人数が多ければ多いほどいい案も出るだろ?」
「そ、そうっすね!あざす!」
ちょろい。
「林田くん…」
「何?」
森谷朱里が頼りないか細い声で俺に話しかける。
「本当に、信じていいのね?」
「あの男を助けたいと思ってんなら、な」
「…ありがとう」
そう言うとぷいっとそっぽを向いた、顔より少し遅れて長い髪がふわり揺れる。心做しかほんのり顔が赤い。
…まさかこいつにありがとうなんて言われるとは驚きだ。嫌われてるとばかり思っていたが実はそうでもないのかもしれない。
「ま、約束はちゃんと守ってもらうがな?」
「分かってるわよ!三食ちゃんと用意します!!」
俺が頼んだのはこいつに助け舟を出して赤点を取らせなければ「毎日の三食の保証」を約束するというもの。
これぞウィン・ウィンの関係。みんな幸せハピネス。俄然やる気が出るってもんだ。
「さて、こっからが…俺のターンだ」
俺は固く誓う、こいつに赤点を取らせないことを。
さぁ、戦いの始まりだ。
次回、遅れるかも知れません




