深夜のお話①
番外編です。ストーリーには少しだけ関わると思います
「…さむ」
あの森谷朱里とかいうクズと同居を初めて1週間が経過した。
朝ごはんはなし、昼ごはんは現地調達、夜ごはんもなし。そしてベッドも自由時間も存在しない。
俺は今リビングの床で眠っています。
まさに牢獄、史上最悪の待遇。俺は囚人かなにかか?
現在夜の1時、あの女は今自分の部屋で睡眠中。今この時間が俺の唯一の癒しの時間。
俺は結城萌花から借りた本を読むことにした。学校に行ってももうなんとなくわかることしか教えてくれない以上受ける意味が無い。
でも国語と世界史という授業は面白いから好きだ。特に国語、人間の考え方がよくわかるから大好きだ。
「それにしても…結城萌花は一体何を思ってこの作品をチョイスしたんだ…?」
俺が今読んでるのは俗に言う「らいとのべる」というものらしい。略称は「らのべ」だそうだ。
おそらく小さい小説だから「らいとのべる」なのだろうが、こいつから送られてくる作品は…。
「まただ…また妹と血が繋がってねぇ…」
俺はぞっとした。同じ腹から生まれた兄妹が出る作品がまるでないのだから。
途中までマジモンの兄妹かと思いきや普通に違うし。スカートはいた男の子、そしてヒロインよりかわいさがにじみ出ている男の子とかもこの「らいとのべる」にはぽんぽん出ている。
結城萌花が言うにはどうやらこういった作品は作者の願望が描かれているらしい。おいおい地球人、お前らみんな揃ってギルティだな。
とりあえずこの作品は「絶対に許さないリスト」と「俺の願望リスト」に追加しよう、あーあ、俺もこいつらみたいに妹とイチャイチャしてーなー。
…だがこの作品、俺が結城萌花に妹のかわいさを伝えた次の日に渡された作品なんだよな…。あいつ、おれをどうしたいんだ?
「あれ?これアニメ化してんのか、今度録画しとこう」
森谷朱里もアニメは好きなためテレビ番組を選択する権利は向こうにあるが見たいアニメが一致するというのはよくあることとなっている。
「そういや、結局あの時計壊されてから家族に顔合わせてないな…」
寂しいな…レストちゃん元気かな…。
親父は死んでると嬉しいな…ねぇさんは成績をあげてくれると嬉しいなぁ…。
「はぁ…」
そんなホームシックみたいな思いを抱きながら、俺はこの作品を読み終えた。
「そうだ、あいつ今寝てるしちょっくら「こんびに」行って食べ物買ってくっかな」
生まれが酷かったからかあまり食欲がないというのはあるが流石に3日続けて飯抜きは辛いものがある、なぜ俺がここまでピンピンなのか自分でも疑うレベル。
「よし、行ってくるか」
玄関からでは音が立つ恐れがあるのでリビングの窓からこっそりと物音たてずに外に出た。
「いい空だぁ…」
深夜特有の真っ暗な空間、そしてその暗闇が街の明かりを、そして星の輝きを際立たせる。まさに自然のハーモニー。どっかの番組でそんなこと言ってた。
そしてどれもこれも俺の住んでいた世界にはなかったものだ。
正直羨ましいし妬ましい。
「ま、取り敢えずちゃちゃっと行ってきますか」
俺は暗闇の中1人で歩き出した。
✖✖✖
森谷朱里の家から歩いて5分のところにあるこの「こんびにえんすすとあ」略称「コンビニ」
ここには色々なものが売ってある上にとりあえずたくさんあるからない街というのは探すのが難しいほどであろう。
俺はコンビニに着くと同時に財布の中を確認する、中には森谷朱里がくれた1ヶ月分のお小遣いである1000円札のみ。
「よし、とりあえず食べ物を買おう」
ってか、お小遣い寄越すんだったら食べ物恵んでくれてもいいじゃねぇかよ。そこまでして俺と一緒に食べるのは嫌か、嫌だろうな。
森谷朱里にとって、「魔術師」という俺の種族は親の敵だ。そんなやつと一緒に飯を食おうなんてそんなこと自体頭おかしい。
俺がやつの家に居候してるのだって、俺を監視するためだからだ。
「じゃあ尚更夜とかほっといてんじゃねぇよって話だよな」
そんな独り言をしながら俺はとりあえずお腹にたまりそうなものを探す。地球の食べ物は本当に美味しいから何を選んでも間違いはないから安心だ。
「ありがとうございましたー」
店員さんに見送られて俺は店を出た。
「残金623円、これを二回繰り返したらほぼねぇじゃねぇか」
チッと舌打ちをしてレジ袋をがさりと開く。
俺が買ったのは「肉まん」と「ぴざまん」そして「三ツ矢サイダー」である。
肉まんは食べたことがあるが非常に美味しかったからもう一度たべたいと思って買い、ぴざまんは肉まんと食べ比べるために買った。
そしてこの「三ツ矢サイダー」という飲み物、これはまさに人類の生み出した最強の飲み物と言ってもいいのではないだろうか?
俺は生まれてこの方こんな美味しい水を飲んだことがないぞ、空いたお腹も膨れるしそして何より炭酸のあのシュワシュワがたまらないのだ。まだこの世界には炭酸飲料がたくさんあるらしい。なんとも興味深い。
こんなところは滅ぼすんじゃなくて、観光目的で来たかったものだ。
「…これも、知らなきゃ楽しめたんだけどな…」
この世界で1週間暮らしてきて分かったことがある。
それは人間が生きるためには地球を汚さないといけないということだ。
そしてその汚れが俺達の世界に送り込まれて俺達の世界もまた汚れていく。
それは地球温暖化であったり、排気ガス汚染であったりだ。
つまりもう俺達は手遅れだったというわけだ、この地球の技術が進化する前に止められなかった以上もう殺すしかない。
幸い、俺にはまだあの森谷朱里とかいう鬼畜にバレていない秘策がある。それさえあればこの状況は軽く突破できる。
今はただ、その時を待つ。それだけだ。
肉まんにかぶりつきながら帰路につく、美味しい。しかもピザまんも余ってるから家に帰ってもまた食べれる。
なんか今日は気分がいいな、なんかいいことあるかもしれない、例えば…。
「「いきなり世界中の人間が死ぬとか」」
…ん?誰だ?
誰かが俺と同じことを近くで言った?
俺は周りを見渡してみると、なんとボロボロの服を着ている小学生ぐらいの女の子が俺の隣にいた。
ボサボサでロングの黒髪に、鋭い目つき、髪の色は違えどただでさえ小さい森谷朱里をさらに小さくしたようななりをしている。
「うおっ」
少し驚いて変な声を出してしまった、恥ずかしい。そんな俺の姿を見てそのロリっ子は見た目に似合わない冷たい目睨みつけながら。
「…なに?」
そう俺に言った。
こいつ…年上に対する礼儀ってもんがなってないでしょ、誰がどう見たって俺の方が年上だろ?
あーだめだ、こいつ苦手だわ、同じ幼女でもレストちゃんの方が比べ物にならないほど可愛いわ。
「…おい、お前みたいなガキンチョがこんな夜遅くまで出歩いてんじゃねーよ」
「あんたも、この世界が嫌いなの?」
質問を質問で返すなァー!!って突っ込んでるだろうな同学年のやつならな。
でも流石にこいつはダメだ。小さすぎるから。
それにしても…このロリっ子痛いこと言うなぁ…。こういうタイプはもしかしなくても友達がいないように出来ている。悲しいヤツだ。
…そうだよ、その考え方だと俺が一番悲しいやつなんだよ。
まぁ、久しぶりの会話だし、少しはこのガキに付き合ってやるかな。
「嫌いだな、まぁ俺の場合嫌いなのはこの世界じゃなくてこの世界に住む人間どもが嫌いなだけだけどな」
「ふーん…その言い方じゃあんた自分が人間じゃないって言ってるように聞こえるけど?」
鋭いなこのガキ。
そしてそのロリっ子はにやにやしながら人を馬鹿にしているような目でこちらを見てくる。なんだよ、人間じゃなきゃダメなのかよ。
そうだな、ここはいっちょビビらせてやるか。
「クックックッ…よくぞ気がついたな小娘が…」
「…えっ?」
お?さっきまでの余裕に満ちた顔がゆがんでいってますねぇ、調子乗った罰だ、この異世界から来た俺に恐れおののき自分ちに帰ってガタガタ震えて寝るがいい。
「というわけで俺に殺されたくなかったら今すぐ…?」
「ほ、本当にいたんだ…!」
…あれ?おかしいね驚いた顔がキラキラし始めてるね?
もしかして、また俺は選択ミスを…?
「ね、ねぇ地球外生命体さん!お話しよ!ね!」
急に打って変わってぐいぐいと俺の服を目を輝かせながら引っ張ってくる。なに?地球人の女の子は皆俺の服を伸ばそうとする傾向にあるの?
さっきまでの生意気な雰囲気どこに消えた。そんな突っ込みを抑えて笑顔が急にかわいくなったガキンチョに家と逆方向に引っ張られていった。
…どうやら暖かいぴざまんを家で食べることはできなくなりそうだった。