今までは消えて、そして始まる本来の関係と生活
「私達がマイナスエネルギーを生み出してるって、もしかして…」
「そうだ、お前らの世界でいう『地球温暖化』が大きな原因なんだ、俺達の世界がこの地球に与える大きなダメージを大量に吸い取っているからこそ今のこの世界があるんだ」
「そ、そんなこと、言わなきゃわかんない!」
「言ったさ!!」
俺の声にビクッと森谷朱里がはねた、もうさっきまでの殺してやるといった雰囲気は身を潜めている。
「俺達はなけなしの技術とこの魔法の力でお前らの世界に行くことが出来るようになって、まず最初にこの危機を伝えたんだ…!」
俺の中で怒りが溜まっていくのが分かる、吐き出さなければ収まらないのが伝わってくる。
「なのに!お前らは何もしなかった!日に日に俺達の世界は蝕まれていき毎日のように俺の世界の住民は死んでいく…!」
「口で言っても分かんねぇなら、もう取れるべき行動は1つしかねぇんだよ…分かるよな?森谷」
こんなこと言っても、まだ人間に分からせたいのだろうか。無駄だ無駄だといわれ続けてもやはり信じたいものは信じたいのだ。
「…そうね、私の意見を言わせてもらうわ」
森谷朱里は落ち着いていた、それでも目つきは鋭いままだった。
この時点でもう納得なんてしてないことぐらい分かってしまった。そう理解したとき少しだけ心がちくりと痛んだ。
「確かに、林田くんの言いたいことは分かったわ、あなたの住む世界は私たちのせいで危機に陥っている」
「そうだ、だからお前ら地球人を殺せば害を与えることはないと読んだ」
というか、こいつの落ち着いた口調全然落ち着かねぇ。やはり最初の印象って大事だなぁ。
…ってかこんな大事な時に何考えてんだ俺。
「納得しました、ちゃんと分かりました。それでもそれはあなたの世界の住人の思いです」
「私はこの世界で生きている、そしてあなた達はどんな理由であろうとも私の家族を殺した!地球人として、そんなことさせるわけないじゃない!」
だろうな。
そうなるだろうなとは思ってた、おとなしく殺されろといって殺される種なんていないからな。
俺はふと自分がこいつに初めて会った時のことを思い出していた。
こいつのいじめについての話を聞いたときに俺は「殺人だって美しい動機を捏造すれば悲劇だ。窃盗だって暮らしが大変だったとでも言えば少しは同情される。」と思っていた。
この状況はまさにそれだった。
しょせんどんなドラマが俺の心の中にあろうとも俺が今しようとしている行為は俺にとっては悲劇の物語だがこいつら人間にとってはただの殺人鬼のそれだ。ただ一つ違う点があるとすればこの話は嘘ではないということだろうか。
「じゃあどうする?今ここで俺を殺すか?」
はっきりいって今の俺でも負ける気はしない。だが魔力をかなり持ってかれた上にこいつの身体能力、下手すりゃ殺されるまである。
それでももうやるしかない、俺は右手を背に隠し魔力をナイフの形にした。
戦闘する準備は整った、あとはこいつの攻撃を躱してナイフを喉元に突き立てるだけ。
だがしかし森谷朱里の返答は俺の予想とまるで違ったものだった。
「…私はあなたに借りがあるの」
「借り?」
森谷朱里は俺の方に手を向けて三本の指をたてた。
「1つは私のいじめをなくしてくれたこと、1つは不良達から守ってくれたこと、1つはさっきのロボットから助けてくれたことよ」
ま、全部お前を助けないと俺がやばい状況だったからなんだがな。
そして森谷朱里は大きく息を吸って、大きな声で。
「林田くんに私はこんなに助けられたの!だから私もこの借りを返さないと気が済まないの!」
そんな馬鹿みたいなことを抜かした。張り詰めたシリアスが一瞬にして砕け散る音が俺には聞こえた。
「…はぁ?」
何言ってだこいつ、この値千金のチャンスを自分の手で捨てんのか?
あと喋り方も戻ったし…まぁこっちの方が慣れてっからな。別にいいや。
「だから私はここで貴方を殺さない!でも条件があるわ!」
そう言って今度は人差し指をたてた。
「私の目の届くところで生活しなさい!!」
「…は?」
…あぁなるほど、俺を学校内で監視下に置いて殺人をさせないようにするということか、一瞬「同居」っていう言葉が浮かんだがそんなことは無かったみたいだな。
「だから当然私の家で暮らしてもらうわ」
「お前は馬鹿か?」
こいつ、自分の親の敵と一緒に住むとかどういう神経してんだか。しかも俺は妹以外のやつと一緒に寝るなんてゴメンだぜ?
「ちなみにこの話を断ったら今から私と一緒に『対異世界生物戦闘訓練』を受けた私と同じように魔力を吸い取れる力がある人たちをここに呼び出すから林田くんは確実に死ぬわよ」
「ぐっ…!!」
なんだこいつ…友達いるじゃねぇかよ!?
って違う!
なんだ対異世界生物戦闘訓練って?こいつぐらい強い奴らがポンポン来るってのか?しかも全員が魔力を吸い取るだと?1体1なら負ける気はしないが複数となると…正直キツイ。
…仕方ない、何より大切なのは命だ、ここは大人しくしていよう…。
「ちなみに聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「なに?」
「お前は俺が何もしない限り何もしないってことでいいんだよな?」
その質問に対して森谷朱里は考える仕草をする。うーんと唸って必死に考えていた。アホみたいだった。
…本当に、さっきまでのシリアスな雰囲気は一体…?
「そうね、林田くんは何もしなければ友達がいないこと以外まさに人間の鏡みたいなところあるし…いいわ、何もしない、約束してあげる」
「この状況で喧嘩売るかこいつ…!」
うぜぇ…殺してやりてぇ…でもそれしたら殺されるからできねぇ…!
「じゃあ決まりね、私の家に行くから付いてきて」
そう言ってこの女はくるりと後ろを向く。…結局今日1日、こいつと過ごす日々だったな…。これからもこうなると思うとストレスで俺が先に死にそうだ…。
俺は心底嫌な気持ちになりながら疫病神の後について行った。
「あ、あと林田くん」
「なんだ疫病神」
「もう、私あなたと仲良くする気ないから」
「ふん、どうぞ勝手にぼっちの道突き進んでくーださい」
「そ、じゃあそうするわ」
そう言って森谷朱里は家に着くまで一切喋らなかった。振り返ることもしなかった。
同じ帰り道でも、同じ2人でも、真実1つで全てが変わる。
同じ無言の時間でも、その意味がまるで違う。
お互いのことをよく知ったら、逆にその関係が壊れる。
知らなければいいことだってたくさんあるんだ。無理して知ろうとすることは大抵良くないことばかりなんだから。
結局はこういうことだ。
嫌いなことほど知っていて、好きなことほど分からない。
でも、何時かは理解してしまう、そして信じたものが裏切られることはとても悲しいこと。
真実は残酷だ、でも真実は揺るがない。
だから人は嘘をつく、隠す。それは傷つくのが、傷つけるのが怖いから。
「…それでも、知らなきゃ何も、始まらない」
森谷朱里と出会って、こいつと何も知らないままでいるのも悪くないと思っていた。でもそのままだと俺はただの優しい人間になってしまうところだった。
森谷朱里だってそうだ。何も知らないままでいたら、こいつは永久に自分の目的を果たすことも、手がかりをつかむことも出来なかっただろう。
そう、今から始まるのだ。俺たち二人の関係が。
そうなるはずであった本当の、本来の関係が。
森谷朱里が「ただいま」と言って家の中に入っていく。そして俺が家に入る前に思いっきりドアを閉めた。
「イタァッ!?」
ドアを大きく開けてくれたから一緒に入ろうと思ったのにこいつが自分が入ってすぐに思いっきり閉めたせいで俺の足は見事にドアに挟まってしまった。
「あ、ごめん」
「コイツゥ…!」
うずくまった俺にゴミを見るような目で見つめてくる。わざとかわざとじゃないかなんて関係ない。今2人にあるのは殺意と殺意。
今ここに、史上最悪の殺意まみれの同居生活が始まろうとしていた…。
第1章が終わりました!
第2章は少し時間を置いてから投稿したいと思います。ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。




