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全ての人類に絶望を。  作者: うまい棒人間
侵略者は頭を抱えて、疫病神は恋をする。
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長い一日の終わりは近づく、それでもまだまだ二人きり

 結城萌花が必死に説得してくれたおかげで俺は許され、俺の罪は森谷朱里のデコピン一発に収まった。全身骨折(左手薬指を除く)とほんと女子とは思えないほどの威力のデコピン。どっちがましかなんて考えるまでもないだろう。


 そして俺たちは結城萌花と別れ、スーパーから出る。ようやく俺の長い長い地球での一日が終わろうとしていた。


 「うーん…最後の事件のせいであんま楽しくなかった…」


 「仕方ねーだろ、流石に」


 不良に襲われることを前提に予定を組むなんて芸当出来るわけがない。できるとしてもだ、やる奴なんていないだろう。


 「でも、助けてくれてありがとね、…うれしかった」


 それはさっきも同じようなこと聞いたわ、それより俺は別なことが一番気になってる。聞いていいのかわからないけれど、俺はそのことを脅迫の材料にするわけでもないし、いいかな。


 「…おまえさ、なんであの時あの連中自分の手で追っ払わなかったの?」


 「え?そ、それは…」


 急に取り乱す、やっぱりなんか訳ありみたいだな、あいつの力なら、あんな雑魚二人相手でも余裕で勝てるような力があると俺は見込んでいる。それなのにあいつは反撃もせずただ何もしていなかった。


 殴りたくなかったのだろうか?

 知り合いだったとか?

 それとも実力を見誤ったのか?


 いろいろな仮説が立てることができる。


 こういう色んな仮説を立ててしまうと究明したくなるのが俺の嵯峨。これじゃあ気になって夜も眠れない。そもそも妹が一緒に寝たら色んな意味で寝れんけどな。


「んー…ちょっと恥ずかしいんですけど…」


顎に指を当て、悩んでいるような雰囲気を出している。言うか言わないか迷ってんのかな。別に俺はそこまで無理しなくてもいいと思うんだけど。


そんなことを思いながら結城萌花からありがとうと言われて買ってくれた天然水を1口飲む。あ、なにこれすごい美味しい。人からタダで貰ったからという訳では無いと思うが。


「私、人を傷つけたくないの」


「ブッフォォォッ!!」


盛大に吹き出した。何言ってだこいつ。


「な、何してんです?」


しかもこいつ俺がおかしいみたいな目で俺を見やがる。舐め腐ってんなオイ。


「お、お前、よく言えんな人を傷つけたくないですなんて。さっきまで俺を全身複雑骨折にしようとしていた女が」


もうびっくりだわ、まさかこいつ俺がこの世界の人間じゃないってこと知ってんのか?それはそれでやばいが。


「そ、それは…!うん、順序つけて話す…」


どうやらちゃんと説明してくれるようだ。顔は当然のように赤い。やめときゃいいのに…。


「私ね、ちっちゃい頃は変な人だったんだ」


「今もの間違いだローキックすんのやめろ危ないな!!」


奴のローキックをギリギリジャンプでなんとか回避する。あ、あっぶねぇ…!あのパワー俺の足首下手したら持ってったぞ…!?


「いちいちうるさい!黙って私の話を聞きなさいよ!」


「…なんかお前最初の頃より凶暴になってない…?」


「…その理由もちゃんとおって話すわよ」


ぷい、とそっぽを向く、またすぐそうやって不機嫌になって、面倒臭い女だなぁ。


「今も、かもしれないんだけど、私は昔から喧嘩とか強くて、年上の男の人だってのせるぐらいだったの」


…つくづく恐ろしい。こいつ多分ちゃんと修行すれば俺ぐらい強くなれるかもな。


「だから近所の人達から私は悪魔とか、覇王とか呼ばれていたわ」


「うっわ、女子につけるあだ名じゃねーだろ」


「そうよね…私もはっきりいって嫌だったわ。でもそのあだ名をかっこいいから誇りを持て!と言ってくれた人がいたの」


とんだ無茶振り野郎だな、そもそもあだ名に誇りを持つとかチャレンジャーすぎるだろ。


でも、きっとその人はいい人なんだろうな。森谷朱里が覇王だの言われていたにも関わらず、その人は森谷朱里に接触した。

これはとても勇気ある行動だと思う。しかもその言葉でこいつが救われたのなら尚更だ。


「いいやつだな、そいつ」


「まぁ、お兄ちゃんなんだけどね」


ハハハハ、と乾いた笑いがこの残念な空気を見事に表す。


「家族かよ…」


確かにね。普通に考えてそうだよね…。


「でも、お兄ちゃんだったとしても、その言葉が私の心の支えになったのは間違いなかったわ」


「ふーん」


心の支え、か。


少し羨ましいと思ってしまった。俺も似たような経験があるからだ、誰も自分を理解してくれない。不思議なことに森谷朱里や俺みたいな友達がいないor少ない奴というのは露骨に自分という生き物を知ってほしい、理解してほしいのだ。


俺は、それを見つけることが出来なかった。だから諦めた。


「お前にはいたんだな…。理解者が」


「ん?なんか言いました?」


「別に…」


一人いるだけでいいんだ、一人いれば救われるんだ。自分のやっていることを許容して、何も言わずとも伝わって、存在を認めてくれる人が。


俺が欲して諦めたものだ。それをこいつは持っていた。それがただ純粋に羨ましかったんだ。


森谷朱里は話を続ける。


「私は、お兄ちゃんに救われた。だけど私はお兄ちゃんに何も出来ないまま…」


彼女のさっきまでの楽しそうな顔が一変した。どうやら何かあったらしいな、そうでもないとこいつはあんな理由で俺に相談なんかしていない。


促したのは俺だ、だから俺が止める。


「…もういい、興味なくなった。言うなそれ以上は」


「…ありがとう、やっぱりなんやかんやで優しいんだね」


俺に向けられた笑顔は、悲しさがにじみ出ていた。俺は森谷朱里に対して、とんでもないことを聞いてしまったのかもしれない。少しだけ、胸が痛む。


俺はここまで心が弱かったのだろうか。


「でもね、これだけは言わせて」


きゅっと、森谷朱里が俺の服の裾をつかむ。それは今までにない弱々しさであった。今までなら安心していたはずの弱さが、今となっては何か気分が悪くなる。


俺はこくりと頷く。彼女は顔も何も変わらずに続けた。


「私が、あんなに暴力を奮って、怒って、勝手なことして、それでも一緒に1日もいてくれたのは…あんただけだった」


そして最後に、ありがとうと言って、今度こそ彼女の本当の笑顔が現れた。


…いい笑顔だ。


「…悪い」


「な、なんで謝るの?」


「なんでもねぇよ、気にすんな」


間違いない、こいつは少なからず俺に好意を抱いてしまってる。そして俺も今の笑顔で少しだけ心が揺らいでしまった。


これがいけないんだ、一番やっちゃいけないことなんだ。


だから俺は一人がよかったんだ。こんな思いも、彼女にこんな思いも抱かせたくはなかった。


そして俺は、こんな俺に好意を抱いてくれた女を、いつかは殺さないといけない。


そんなことを思っている時点で、俺の作戦はほとんど失敗に向かっている。


疫病神め。


俺は、頭を抱えた。どうすればいいか、悩みが生まれてしまった。


俺の地球侵略は、こいつのせいで台無しになってしまった。

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