どうしても、彼女のことをほっとけない
「おいおい、なんだありゃあ」
「見るからに悪そうな人達ですね…」
俺はこの隣にいる女の子、結城萌花と一緒に今15分ほど遅れて森谷朱里のいる待ち合わせ場所に到着した。
本来であれば俺はあの女に怒られている場面なのだが、またしても俺の考えは当たらなかった。
集合場所に彼女がいない訳では無い、ちゃんといる。
…不良のような男達2人組と一緒に。
「ど、どどどどうしましょう…?」
「どうしましょう、か…」
俺の後ろでふるふる小動物のように震えている結城萌花が、そんなことを言った。
どうしましょうか、ってことはこのまま逃げる、ということも選択肢にあるということだ。
はっきり言ってしまえばそれが一番楽で、俺も結城萌花も傷つかない。意味は少し違うかもしれないが、トカゲの尻尾みたいなものだろう、ここで森谷朱里を切り捨てれば俺たちは何のトラブルも受けずにここから逃げ去ることが出来る。
だが、それをしてしまえば俺は絶対にこの2人から嫌われるだろう。俺なら一生話さないまである。
そんなことになろうが、どうしようが、俺にとってはどうでもいいことだ。気になんてしない。
確かに結城萌花と森谷朱里はいいやつだ。
森谷朱里にはことある事にクズクズ言ってるがそれでもめんどくさいであろう俺との交流を楽しんでいるように思えた。
結城萌花だってそうだ、こいつとは2回しか会話をしたことがないが、これほどまでに俺と楽しそうに話していた存在を、俺は家族以外で知らない。
でも、俺の最終目的のためなら、俺はこいつらを難なく殺せる。
今の俺の目的は「あまり目立たないようにすること」である。だからここはさっさととんずらして帰るのがベストだろう。
「はぁ…」
瞳を瞑る、何をするか決心した俺は歩き始める。
「林田…くん?」
俺は何も言わず、その場を離れる。結城萌花も俺を引き止めはしないようだ。
これが正しい、屑と言われようが俺は構わない、俺は人間じゃないからな。
そう、分かっているのだ、見捨てた方がいいと、すっぽかした方がいいと。
分かっているのだ、ここで助けたって変な良心しか産まないということを。
…分かっているのだ、メリットなんてないことなんて。
「分かってんだけど…なぁ?」
不意に笑いがこみ上げてきた、あぁ、俺は本当に何をしているんだ。ってな。
どうやら、俺の考えは間違っていないらしい、人と関わるとろくなことがないからぼっちを、孤高を貫く。それは間違っていないということを改めて確認させてもらったよ。
だって、俺は今回避できる問題事に首を突っ込んだ。
閉じていた瞳を開く。そこには今までの俺ならば見ることは無かったであろう光景が見える。
「え…?林田くん?」
「悪いな、遅れた」
本来小さくなっているはずの森谷朱里、そして男達2人組が目の前にいる。
×××
「なんだぁてめぇ」
おいおい、なんかこの2人組みんな顔になんか絵が描いてあるじゃあないか、なんかのお洒落?
片方は肌の黒い金髪だ、染めているのだろうか。
もう片方は…リーゼント、と言うのだろうか?そんな髪型をしている。
そしてお2人揃って耳と鼻にピアス…。痛そうだよなピアスって。
と、そんなことはどうでもいいか。
「そこにいる女を連れに来た」
「あぁん?お前がこの女のカレシかァ!?」
は?何言ってんだこのリーゼント野郎。
「なんてこと言うんだコイツ、そんな関係であってたまるか俺たちが!なぁ!」
「は、はいぃ!?」
俺にギロッと睨まれて怯えるように森谷朱里は声を出す。ったく、言っていいことと悪いことがあるっつーの。
「じゃあなんでお前はこの女を気にかけんだァ!?他人じゃねーかよ」
「そうだ、怪我したくなけりゃさっさとここから失せろ」
「この女とは俺たちがたっぷり遊んでやっからよ!」
え?なに、代わりにこいつと遊んでくれるの?
…一瞬だけここから去ろうかな、なんて思ったけど、流石にかっこつけてこの場にたっている以上そんなことしちゃいけない…。
しかし、不思議だ。この俺をノックアウト寸前まで持っていける力を持つあの森谷朱里が、どうして何もしないでただ突っ立ってるだけなのか。
こいつらはそこまで強そうに思えない。
「ま、そんなことはどうでもいい」
「おい!オレ達の質問に答えろ糞ガキが!!」
なんか怒りながらぐいっと、リーゼント男に胸倉を捕まれた。
…やっぱり全然力強さを感じない…こいつら雑魚だな。森谷朱里の方が何倍も強かったぜ。
「理由がないならここから失せろオラ!!」
…失せてほしいならなんで胸倉掴んで近くに引き寄せるんですかね…。
そして男は怒りのままにこれを荒らげる、これも全然恐怖を覚えない。というか…。
「なんか怖そうな見た目してるけど、あんたらめっちゃ優しいな」
「は、はぁ!?なんだお前!?」
急に変なことを言ったせいか、連中は戸惑いを隠せないようだった。いやいや、本当にそう思ったんですって。
「だってさ、お前らは2人組だろ?俺のことが気に入らないなら、二人同時に俺を攻撃すればいい。立てない程度に痛めつけてやればいい。ガタイのいいあんたらならこんなチンケな高校生1人、なんてことないだろ?」
俺は全力で馬鹿にしているような顔をする、俺が一言喋る度にリーゼント野郎は血管がピクピクしている。キレてるキレてる…!
でも煽るポイントを見つけたらとことん煽るのが俺の心情である。目標はこいつらが俺を殴るまで!
「ん?もしかして…こんなチンケな糞ガキ1匹倒せないから助けてくれたのかな…?いやぁ!そんなことあるわけないかぁ!こーんな強そうな外見してぇ!?オラついててぇ!?この俺を恐れてるなんてなぁ!!」
「うっせぇぇんだよクソガァァァァァァァ!!!!」
来た!!
俺の胸ぐらを掴んでいるリーゼント野郎は残ってる左手にグーにして力を込め始める。俺にはそれがわかる。
奴の狙いは顔面!
そこに考えが至るのは簡単だ、まずは相手はパンチで俺を攻撃しようとしている。パンチが入りやすくて効果的な体の部位は「顔面」と「腹部」。
森谷朱里の時のようにリーゼント野郎の目線を追った、というのもあるがこいつはここまでウザイ俺をすぐさま黙らせたいはず。そして何よりこのニヤついた表情をどうにかしたいと思うはず。
だが、俺の考えは憶測だ、きっと間違っているのだろう。どれだけ考えを巡らせても、人のコロコロ変わる感情というのは分かるはずがない。
人間は、考えることが出来る生き物なのに、1番何も考えずに行動出来る生き物なのだから。
突発的に、後先考えず、自己中心的に。思いのままに動く。それが人間の本質であり、俺が今日学んだことだ。
俺は奴の左手の拳の動きを予測して、右手を自分の顔の前に差し出す。あとはタイミングだ。
奴の拳が俺の顔にあたる寸前、俺は奴の左手首を掴んだ。リーゼント野郎の驚いた顔が目に映る。
どんぴしゃり、これだけ長く考え事をしてもこいつのパンチなんて軽く止めれる。森谷朱里のほうが10倍は重かったぜ…。
そして
「なっ…」
「逃がすかよ…」
俺は掴まれていた右手の手首も握り返し、胸倉から引きはがす。これで俺はリーゼント野郎の両手首を握っている状態になってる。
さてと…こっからどうするかな、手首をへし折ってもいいし、ぶった切ってもいい。ただ騒がないでほしいんだよね。迷惑だしうるさいから。
そうだな、脅すことにしよう、ビビって帰ってくれたら儲けモン。お前を殺すのは作戦が始まってからだ。
「…リーゼントさん」
「くっ、くそ!なかなか力あるじゃねぇか!!話せオラッ!」
「…話を聞いてください」
「おい!神谷!手伝え!」
「おう!このムカつく糞ガキぶっ殺してやるよ!!」
…どうやら、話を聞く気は無いみたいだな…。もったいないな、話さえ聞いていれば怪我も何もしなくてすんだというのに。
あと…。
「ぶっ殺すとかそんな覚悟もねぇ奴がぶっ殺すなんて言葉使うなよぶっ殺すぞ」
俺はリーゼント野郎の両手首を力強く握りしめる。
ボギボギと嫌な音を立てて、彼の手首は砕け散った。
テストのせいです、テストがいけないんです。




