距離感が理解出来ず、表現力に恐怖する
「…おい、おまえ」
俺の「ファンになります騒動」から、どうやらまじめに気持ち悪がられているらしい。さっきまで手をつないで歩いていたというのに今となっては1メートルぐらい離れながら歩いているのはそのせいだ。
「なんですか、ちょっと気持ち悪いんで黙ってもらっていいですか?」
「なんだこいつは…」
5文字しゃべっただけでこれである。嫌われたもんだな、とそう思った。
前にも言ったように嫌われることには慣れてるし、どうとも思わないのが俺の強さである。だから俺はこいつに嫌われることになってもどうとも思わない、実際思ってない。
ただ俺自身も初めてに近い体験だったのだ。こんな長い時間、ずっと話したり行動するというのは。
しかし。それでも俺は動じない。悩んだりなんかしてたまるか。
すると彼女はふてくされながら話しかけてくる。
「林田君、別に私はあなたがアニメ好きになったから気持ち悪くなって距離置いてるんじゃないんですよ?」
「え?そうなの」
よかったと思う自分と、がっかりする自分がそこに生まれていた。本心は俺にもわからない。
「さっき、私のことフルネームで呼んでましたよね」
「それがどうかしたのか」
「それがなーんか気に入らないんですよね、堅苦しいというか。」
まぁ、そうだよな。実際俺もなんてこいつのことを呼べばいいのかわからなかったからずっとフルネームで呼んでたというところはある。初めて知った人間の名前だしな。
「…じゃあ、なんて呼べばいい?」
「名前で呼んでほしいですね!友達っぽくないですか?」
…いつから俺とお前が友達になったんだよ。ここ最近の記憶を探ってみたけど、なった覚えはない。やっぱりこいついかれてるみたいだな…馬鹿にやる薬はない、という聞いたことがあるが。まさにそれじゃないか?
「名前か…」
朱里って呼べばいいのか、別に簡単なことだからいいや…とはならないんだなこれが!
「友達っぽく見られたくないから俺はお前のことを名前で呼ばないことにする。だからお前は「森谷さん」な」
「さ、最低だ!名字だけでは飽き足らず敬語も加えることで距離感も出している!」
敬語はこいつの勝手な思い込みだが意図はあっている。まぁ、こんなこと言ったところで、だ。自惚れているわけではないがこんな悪口じゃこの女はふり解けない。
「そもそもあれだ、お前が先に距離感を出したんだろ。おあいこ様だよおあいこ様」
「むー…じゃあっ!」
なにか決心したのかキリッとした目つきで俺に突進してきた。ん、突進?おかしいね?
っておいちょっと待て、まさかこんな人目のつくところで喧嘩しようというのか?馬鹿なのか?馬鹿だったわ!
「まて!早まるな森谷朱…森谷さん!」
俺の静止を聞きもせず、彼女は俺に向かっての進軍を止めない。
1人で軍、というのはいささか違うような気もするが。
「…おい、何してんの?」
まっすぐ俺に向かって突撃してきたこの女は、俺の手をまた強く握ってきたのだった。
どうやら攻撃目的ではなかったらしい。
「こ、これで私が作った距離感はありません!これで全部林田くんが悪くなりました!さぁ今すぐ私に謝りつつ名前で呼びなさい!」
森谷朱里がふふん、と得意げに鼻で笑う。
…なるほど、言いたいことは分かった。
それで納得するわけねーだろーがよ!?
「最低だなお前は…」
「林田くんもでしょ?最低なのは」
「いや、お前の方が最悪だ、自分の罪をよくわからない行動で無きものにしようとした挙句俺に大体の罪を被せてくるなんてそれはもう人間の恥、人間の屑」
「そ、そこまで言わないでよ!?」
うわぁんと森谷朱里がまた泣き出した。こいつメンタルそんな強くないのかな…。
そんな考えの中、森谷朱里は泣き続ける。
「うわぁぁぁぁぁぁん」
「…?」
なんだろうこの強烈な違和感は…。あっ、おい待てこいつ、嘘泣きしてるな…?
「うわぁぁぁぁぁぁ…ん」
慰めてもらおうとしてんのかこの女は…やはり俺の見立ては間違ってなかった。この女は屑だった。
ん…でもどうしたものか、このまま引き連れたところでこいつの騒音が止むわけではないし、止めるために俺が謝るのも癪だ。
「ちっ…」
仕方がない、こんなうるさいスピーカーとなんか歩きたくないからな。
「はぁ、…行くぞ朱里」
「ほらまたそうやって…え?」
「どうした?早く行くぞ」
「ちょっ、ちょっと待って!もう1回!もっかい言ってくださいよ!」
「あ?なんだよ森谷」
「呼び捨てになったのは嬉しいですけど名前で呼んでくださーい!」
名前で呼べ、か。今更だけどお前も名前で呼んでないからいいだろそれぐらい。
あーあ、距離感というのはよく分からないもんだな、俺はこいつとどう接していけばいいのだろうか。
再び縮んだ距離は一つだけかそうではないのか。そんなことも思いながら、俺たちはまだまだスーパーをまわり続ける。
×××
次に訪れた場所は本屋というところだ。ここに漫画や小説などが売っているらしい。お金を手に入れたら一番お世話になるところじゃないだろうか。と俺は思っている。
「へー、ここって立ち読みも出来るんだ」
森谷朱里近くにあった漫画を1冊取り、パラパラとめくる。
「おい、周りの人に迷惑だろうが、読むなら買って読め」
「…ちっちゃいこと気にしてると禿げますよ?」
「俺はお前ら女性と違って髪の毛にこだわりなんてない。禿げようが構わん」
「本当に面倒だなこの人は…」
はぁ、とため息をついて持っていた漫画を元あった場所に戻す。
うむ、元あった場所に戻すのは良いことだ。
「林田くん、ちょっと私も欲しい本があるかどうか探したいんで、ちょっとだけ別行動しませんか?」
突然、森谷朱里はそんな提案をしてきた。
「いいねそれ、最高だよ。よく思いついたな森谷実は俺も同じこと考えてたんだよね」
もちろん断る理由なんてない、むしろマジで有難いぐらいまである。まさか向こうから言ってくれるとは思わなんだ。
「なんですかその言い方は…とてもむかつきますがいいでしょう、それでは20分たったらここに来てくださいね?」
「分かった」
「それではまた会いましょうね…あ!そうだ」
「ん?どしたの」
ニコニコしながらこっちに近づいてくる、なんだこいつ。鼻歌とか歌ってんぞ。
「もし帰ったら、きっと骨はクッキーみたいになっちゃいますからね♪」
とてもいいスマイルでそんなことを抜かしやがった。
こいつエスパー…!?俺の考えを読みやがるとは。くそう、チャンスだと思っていたのに…。しかも骨をクッキーみたいにするってどういう事だよ、意味がわからなくて逆に恐怖を覚えるぞ。
「…分かったよ、ちゃんと戻る」
「うん!よろしい!」
そう言って俺と彼女は今度こそ別々に行動を始めた。




