彼女を通じ、勘違いが解かれていく
「んーまずは服見に行きましょう!」
「勝手にしてくれ……」
服とか、俺は全く興味が無い、かっこいい服を着ればかっこよく見えるのだろう、だがかっこいいと思ってほしい相手は今の俺には1人しか居ない、そしてその天使は同じ家に住んでいるからおしゃれとかする意味が無いのだ。
「俺は、服装とか興味無いから」
「何言ってるの林田くん? 君が私に似合うか判断するんだよ?君の服なんか知らないよ」
な、何言ってんのこの人…!? 他人に任せすぎだし無理やり連れてきた俺をいたわる事すらしやしない……。やっぱりクズだなこの女は。
「……自分のものになるんなら、自分で決めた方がいいと思うんだけど」
「別にそれでもいいけど……そしたら林田くん暇になっちゃうでしょ?」
「構わない、暇つぶしの天才だぞ俺は。いっつも一人でなにかしていたからな」
「私はその辛さがわかるからこそ一緒にいた方がいいと思うんだけどね……」
またしても意外だ、こいつに異性をいたわる優しさがあるなんてな。
「ま、まぁ、一緒に行きたいってのもあるし?」
「……え? 何言ってるの、お前」
ついにおかしくなったか、いや俺から見れば既におかしい人間だったが。
でもそうやってすぐに人をキチガイ呼ばわりするのはいけないことだと思うので、俺はなぜ彼女が俺と一緒に行きたいのか、彼女が何を言いたいのか考えてみる。
……確かに、こういう所に一人で行くのは心苦しいな、周りを見れば2人組が多いし。
「一人が嫌なら誰かほかの友達でも……悪い」
「せめてもっと隠蔽する努力をしてくださいよっ! 素直に謝らないでください悲しくなるんで!!」
うわぁん、と森谷朱里は泣き出した。
あの、その、ごめんなさい。泣かせるつもりは到底なかったのマジで。
「うわぁぁぁぁぁん」
森谷朱里が泣き始めて、5分ほど経過した、未だに泣き止む様子はない。
面倒だからさっさと帰ろうと一瞬思ったが、周りの人間どもの冷たい目線が俺の罪悪感をチクチクと刺激させる。
あぁもう! わかりました!
「一緒に服選べばいいんだろ!? ほら、さっさと行くぞ!」
「ふえっ? きゃ、きゃあ!?」
俺は森谷朱里の手を掴んで入口から逃げ出した、こうでもしないと目立ってしょうがないからな。無理矢理にでもここから引き剥がそうと思っての行動だ、俺は目立ちたくないんだよ。
「ようし、ここまでくれば大丈夫だな」
「はぁはぁ、はぁはぁ……」
ここは人があんまりいないな、とりあえず安心だ。怖かったのはこいつを引き連れてる最中に誰かが『もしもし警察ですか?』とか言ってたことだな。対象が俺でないことを祈ろう。
「あ、あの……」
走り回って落ち着いたのか、彼女はもう泣いてなかった。けど疲れたのだろうか、顔を真っ赤にしている。
「悪いな、勝手に走っちまって、でもお前も悪いからな、おあいこ様ってやつだ」
「い、いや、手……」
手?
あぁ手か。めっちゃ握りしめたままだったな。悪い悪い。痛かったか?
ぱっと手を離す。彼女の手は少しだけ赤くなっていた。
「悪いな、強く握りすぎたかもしれない」
「い、いえ、大丈夫です。気にしないで…」
握りしめた手と同様に、彼女の顔も赤くなっていたことに気がつく。俺の視線に気がついたのか、顔を隠すように、恥ずかしそうに俯いた。
「……よし、じゃあ服選び行くか」
「え?いいんですか?」
「また泣かれるのも困るからな、さっさと終わらせて俺は帰る」
「えへへ……その時はまた泣いて引き止めますかね?」
「そしたら明日からお前を泣き虫と呼ぶことにする」
「……冗談ですよ」
いたずらっぽく、彼女はウインクをして見せた。俺はその姿に一瞬、本当に一瞬だけ心を奪われた。可愛いと思ってしまった。
「そ、そうか安心したぜ、ほらさっさと行くぞ」
「ま、まって!」
「グッ!?」
今までなら袖を引っ張って俺の動きを止めていた森谷朱里は、何故か今回だけ俺の制服の襟を引っ張って動きを止めてきた。
そのせいで俺は動きとともに呼吸も止まった。
「ゴホッゴホッ!? て、てめぇ、せめて違う場所をだな…」
「あぁ、ご、ごめん! ごめんね!」
なんだこいつ、とんでもなく落ち着きがないな。頭がおかしいのは知っていたが、せめて行動ぐらいコントロールしてもらわないと……。
「あ、あの、あのねっ、おねおねおねお願いがあるんだけど…!」
もう身体中真っ赤にして、あたふたと手を振ったり目を回す。
そんな恥ずかしいならやらなきゃいいのに…。
やることに意味がある、といういい言葉がある。じゃあやらないことには意味は無いのか?
それは違う。きっとやらないことにも意味は存在する。一例を挙げるとすれば、失敗しないということだろう。
しかし、この人間というものは、失敗ですら自分の成長に必要なものだとか言って自分の人生に綺麗に飾る。いや、おかしいだろおかしいだろ。
それだから人は学ばない。失敗して、誰からもフォローされず、叩かれて、嫌な目で見られ、友達を無くし、ひとりとなる。
これぐらいしないと反省なんてしない。甘すぎるんだ、注意が。
だからこそ、こんな思いはしたくないから「やらない」という選択にも、価値はあるのだと思う。逃げるのも作戦のうち、だから俺はやらないことは悪いことでは無いと思っている。
一番の罪は、その考えを持つことすらせず、知らないままでいる奴だ。
こいつも、こんな照れて、恥ずかしいのならやらなきゃいいんだ。勇気出してやる意味もないんだぜ。
まぁ、俺もここまで言ったけど、こうやって頑張ってなにか言おうとしているんだ、聞いてやろうじゃないか。今の俺は優しいぞ、大体聞いてやる。聞くだけならただだしな。
「手…繋いでもらってもいいですか?」
うん、最近俺は頭が悪くなったのではないかと思う、予想がことごとく外れて、驚かされる。
俺らと人間は、どちらも似た様な種族だが。思考は一致しないようだ。
「……」
俺は無言で手を差し出した。
彼女の手が俺の手に触れた。小さくて、幼い手。
俺は今からこの小さい手から温もりを奪う好意をする。そう思うとほんの少しだけ心が痛んだ。
俺が差し出した手を彼女はぎゅっと握りしめる。これ以上ない、とてもいい笑顔で。
やけに暖かい感覚を確かに感じながら、俺たちは改めてスーパーを回り始める。
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