彼女に引っ張られて、この街を練り歩く
森谷朱里に引っ張られながら、俺は階段を下り、廊下を歩き、そしてついに校舎の外に出た。空はまだ青色で、太陽はさんさんと俺を照りつけ、その中で運動部の活発な声が聞こえてくる。
しかし、いい青空だ、この世界では空はこんなにも青いのか。羨ましい。歩かされながら、そんなことを思っていた。
そんな俺の葛藤を気にせずにここまで俺を引っ張ってきた女は俺の制服の裾をクイクイしながら「ねぇねぇ」と声をかけてくる。
「さて!林田くん、どこいく?」
「家」
一秒もなかったのではないだろうか。真横にいた森谷朱里は俺の足元に右足をおき、そのまま彼女の右手の裏拳が襲いかかってきた。
こいつ、いちいち激しすぎじゃないか!?
だがしかし、俺も女性の攻撃に何度も痛い目を見るわけにはいかない、戦闘に関してはトップクラスだったんだぞ、あの世界でも!
俺は彼女の裏拳を元々せず、左手の手のひらでバチッ、と受け止めた。
「甘い、その程度で俺を殺せると思うなよ」
まさか防がれるとは思わなかったのか、森谷朱里は目を丸くさせて驚いていた。
「…!? 嘘!? この一撃止められたの初めて!すごいわね林田くん!」
自分の渾身の一撃を止められたのがそんなに不思議だったのかは知らんが、俺からすればまだまだだな。所詮人間よ。
きっとこの女は格闘技でも習っていたのだろうそう考えればあのパワーも納得がいくしな。というか格闘技習ってるやつもいじめられるんだな。
「ま、甘いな、そんなんじゃ俺の家族に絣傷一つおわせられないよ」
俺と森谷朱里はまた歩き始める、止まりながら話すのもなんか面倒臭いし。俺はこいつに教えることなんてないしな。
「ひ、一つだけいい? 私が腕をふる前にもう顔のあたりを防御してた、なんでそこに攻撃が来るなんてわかったの?」
「……攻撃前にお前の目が俺の顔付近に向いてたからな、でも普通の女なら顔面殴るなんてことは出来ないけど。お前には容赦というものがないからまず間違いなく顔面に来ることは分かってた」
攻撃したい場所以外に目を向けて攻撃するのはとても難しい、せめて一瞬確認しなければならないのだ。俺はその不審な目の動きを見抜く技術がある。
そのおかげでこいつが顔面を狙っていることはわかった、あとは防御するだけ。こっから先は反応の問題だから説明しても意味が無いな。
ざまーみろとそんな表情で森谷朱里の方を見ると、何故かあの女は目をキラキラさせて、尊敬の眼差しをこちらに向けてきた。
「あ、あとでやり方教えてよ! ね、いいでしょ!?」
「……気が向いたらな」
調子狂うな、怒らせてやろうと思ったのに、喜んでるし。戦闘民族かよこの女。
俺らの感情は交わることはなく、ただただ反発しあっていく。ここまで正反対の存在は珍しい。
ま、俺はこいつと考えを共有したいわけじゃないから構わんのだがな。
×××
初めての人間世界、俺は驚きの連続であった。
鉄の塊がすごいスピードで道を走ったり、大きな城のような建物がそこら中に並んでいる。
そして人の数、人類の人口は理解していたが、多いもんだな……。
「とりあえず今日はここで遊びましょう!」
そう言って森谷朱里が指さしたのは、ここら一帯で一番大きな建物だった。
これは知っている、「すぅぱぁ」というところだろう、色々なものが売ってあり、生活に必要なものはここで揃えることが出来るらしい。
「おい、遊ぶんじゃないのか?ここは食材とかを買うところなんじゃ……」
彼女は「なにいってんのこの人」みたいな目でこちらを見てくる、おい、なんだその顔は、しょうがないだろこちとら初めての体験なんですよ。
「んー……林田くんってもしかして田舎に住んでたのかな?」
「まぁ、お前らからしたら、知らないところだろうな……」
別の世界から来ました、なんて言っても信じてもらえないだろうし、信じてもらわれても困る。
「ったくしょうがないですねぇ、スーパーというのはただ買い物するだけではなく、遊ぶことも出来るのです!」
(無い)胸をはってやれやれと言った感じで教えてくれた。こいつに物を教わるとか……もっと勉強してくるべきだったな。
己の学びの浅さに絶望しながら、俺たちはそのスーパーに向かう。
そして入口にたどり着いた俺は、恐ろしいものを見てしまった。「くるま」とか「びる」とかよりも、おそらく一番驚いたのはこれであった。
「な、なんだこのドアは!?」
こいつ……俺たちが近付くと自分から開きやがる!? 魔法か!?
俺はこの自動で開くドアに怯えつつ、じりじりと距離をとっていく。そんな行動に森谷朱里は「何してんのこの人」とか思ってそうな表情でこちらを見ていた。
「何してるんですか? 早く行きますよ? あっ!? もしかして逃げようとしてますね! 許しませんよ! 早く来てください!!」
「いや、もうお前から逃げられないことは理解しているんだが……その自動で開くドアは一体なんなんだ?」
すると彼女はぽかーんとして、少しの間固まった。そして活動開始と同時に彼女は「ブフォ」と明らかに女性が出してはいけない声で吹き出した。
「あははははは!! 何言ってんの林田くん!? やっぱり世間知らずだね!! ダッサ!!」
……いっそひと思いに殺してしまおうか、そんな頭の悪い行動をしてしまいそうな程に俺はイラっときた。でも、ここで殺すのはなんというか、こいつにしてやられた気分になるのでなんとかこらえる。
「これはね、自動ドアっていうの」
「ほう」
「魔法の力で人が近づくと開くのよ」
「な、なんだと!?」
迂闊だった、まさかこの世界でも既に魔法は取り入れられていたのか、十年前の調査じゃ魔法は使えないって言われてたのに、つまり人間は十年で魔法をマスターしたのか!?
恐ろしい……やはり俺は人間を甘く見すぎていたのかもしれないな。俺一人で侵略は難しいぞ……!
真剣にこれからの事を悩んでいる俺を見て、森谷朱里はまたもや吹き出した。
「う、嘘に決まってるじゃーん!! 面白いね林田くん! まさかのってくれるなんて思わなかったよ!」
あははははは!! あははははは!! あははははは!! と、とても耳障りな声で笑い続けてとてもウザイと思いました。
ま、まぁ知ってたし、十年そこらで魔法なんてマスターさせられてたまるかよ。俺だってまだまともに使えないのに。俺ができないことがただの人間に出来てたまるか。
下から抜かれるのが嫌なので、俺は努力を続けていきます。こういうモチベーションの持ち方もけして悪いことではない。
「あはははは……でもさ、もし魔法があったなら、林田くんは何に使いたい?」
笑い疲れた森谷朱里はそんなことを聞いてきた。俺の心は揺るがない、答えは一つだ。
「……そうだな、俺の故郷のみんなを助けたいな」
それが俺の最終目標だ、今まで人を滅ぼすとか色々言ってたけど、極論は俺たちの世界のためである。その方法が「人類を滅ぼすこと」だから、俺はそれをやろうとしているのだ。
もし、手っ取り早く俺らの世界を救える魔法があるのであれば、俺は喜んでそれを使う。
俺だって、人間は今は嫌いだ、憎い。だけど出来ることなら殺すことは回避したいと思っている。だからこそ人間の世界で色々学ぼうと思ったのだ。
一通り自分の思いをまとめていると森谷朱里は俺の答えになにか思うところがあったのか、彼女も考え込んでいた。
「どしたの、俺また変な事言ったか」
「……いえ、林田くんと久しぶりに意見があったなって思って、私ももしそんな不思議な力があったなら、身近な人たちを守りたいと思うんで」
森谷朱里は少し悲しげな顔で俺の方を向いて、微笑んだ。意外だな、こいつはなんとなく自分のためだけに不思議な力を使うものだとばかり思ってたけど。
……でも、所詮はそれも自分の願いのため、なんだよなぁ。俺達はまるで似ていないが、この「自分勝手」という点に関しては、そっくりだ。
「ちょ、ちょっと暗い雰囲気になっちゃったね…じゃっ、行きましょう!」
「おう……っておい制服ひっぱんな」
お互いの心になにかをつっかえたまま、俺達は自動で開くドアを抜ける。
不思議なことに見たことのない世界に俺が感動するよりも先に、彼女の方が何故か先に泣いていた。
俺は、なにか勘違いをしていたのではないか、そんなことを思いながら彼女との遊びの時間が始まった。
茶番が書きたくて仕方ないけどその分物語が進まねぇ…




