彼女との再開を果たし、転校生の苦悩を覚える
「そうだな…林田は…」
キョロキョロと山本先生が教室を見渡す。きっと俺のために座る席を探しているのだろう。
「別に、どこでもいいっすよ」
その先生の姿を見かねて小声で先生だけに聞こえるように言った。
山本先生は一瞬驚く顔を見せたがすぐに通常通りの顔に戻り。
「じゃあ…」
「せ、先生、私の隣、大丈夫ですよ」
手を挙げて発言したのは唯一このクラスで俺と面識のある森谷朱里だった。おい邪魔するな馬鹿。
俺はそう目で訴えたがそんなんじゃまるで伝わらず、ただただあの女はニコニコと俺が隣に来ることを待ち望んでいた。
……たしかこういう奴のことを、『KY』と呼ぶんだっけ。
一方で、山本先生は問題が解決したからか表情に緩みが少し出ていた。残念ながらもう俺にはこの学校内でそんな緩んだ表情は出来そうにない。
何故なら、隣に居るのが初対面の相手にグーパンかます女だからな。
ただ、どこでもいいって言ったのも俺だ、これはもう諦めよう、というかあの女がこのクラスにいるということを知った時点で、なんとなくこうなることは予想していた。
自分には運がない、これも充分知っている。
俺はくすんだ瞳をさらにくすませ、朱里の待つ席へ向かった。足取りが死ぬほど重い。
「お、おい、転校生」
「え……なに?」
その向かう途中に、クラスメイトとなる男性が小声で話しかけてきた。
おいおいびっくりするだろ急に話しかけてくるなよ。まずい、同年代(?)の男との会話の仕方なんてもう覚えてない。
すまない名も知らぬ男よ、俺のせいで「会話が続かない」っていう悲しい思いをさせてしまった。
お詫びとしてはなんだけど、一生お前に近づかないで、話しかけないように心がけるわ。
こういうフレンドリーなやつ俺苦手だし。
「気をつけろよ…あの女を」
その男は恐怖に怯えた顔で、そう言っていた。
前言撤回。こいつとは気が合いそうだ。
普通の人間でもあの女の恐怖を理解できるとは、こいつ実はなかなか人を見る目あるな。俺は「わかった」とだけ告げて、また彼女の隣の席へ向けて歩み出した。
そしてついにたどり着いてしまった……ほんの数メートル歩いただけだったが凄まじい緊張感だった。
「久しぶり、えっと……林田、くん?」
「チッ……よろしく、森谷……さん」
「また舌打ちする……いいけど」
こんな俺にとってマイナスにしかならない状況に、俺は舌打ちという精一杯の抵抗をする。はいそうです無意味です。
彼女がどんな対応をしてくるのか、と彼女の方を見るとそれはもうニコニコしていた。ニコニコしすぎて逆に恐ろしさを感じてしまうほどに。
「なんでそんなに笑ってんだお前」
俺の方から話しかけて来ることを予想していなかったからか、「えっ?」と戸惑う。少しだけパニックに陥った朱里は質問の答えを返すのに、少しだけ時間がかかってしまった。
「それは……あなたに会えたから……ですかね」
そういうと朱里が顔を真っ赤にして俯きがちになった、
すぐにこいつ照れてるなということがわかった。だけどなんで照れるようなことをするんだろうか、そんな恥ずかしいことなら言わなきゃいいのに。
だが、森谷朱里はおそらく本当のことを言ってくれたのだろう、だからこそ俺も本心を伝えなくてはな
「そうか、ありがとな、だけど俺はお前に会えて心底悲しい」
「ひ、ひどっ!?」
ガーン、と心底ショックを受けたような顔をする、こいつ表情豊かだな。見てておもろい。自然に口元が歪む。
すると朱里はゴミを見るような目で俺を見てきた。
「うっわぁ、笑い顔気持ち悪いです……」
なんだこいつ、仕返しか?上等だよ乗ってやる。
「…….あっそ、じゃあ気持ち悪い僕にかかわらないでくださいお願いしますにひひ」
「じょ、冗談に決まってるじゃないですかー!!仲良くしましょうよっ!」
ちょろい、これが失うもののないという強さ。いくらキモイ事をしようとも、信頼度とかはゼロから下へは下がらない。
「嫌だ、前にも言った通り友達が欲しいわけじゃないからな」
「そんなぁ……」
森谷朱里がうーと、泣きそうな顔をする、俺は少し困った、いきなり転校してきたやつがクラスメイトの女子を泣かせたなんてことになったら、とても面倒だと思ったからだ。
だからここは仕方がない、彼女が喜びそうな言葉を選んで機嫌をよくしてもらうことにしよう。
「あー、でも俺と気が合う奴とか、俺と同じ人種とかなら少し気になるかもしれない」
「ほ、本当!!」
ちょろいなこの女…絶対騙されやすいタイプと見た、まぁそれぐらい正直で純粋な人っていうことなんだろうがな。バカともいうが。
「じゃあ私と林田君はどっちもぼっちだから友達になろう!」
何言ってんだこいつは……友達がいない奴のことを大概ぼっちっていうんだぞ、それなのにぼっち同士で徒党を組む?馬鹿言っちゃいけないよ。
単純な足し算なら1+1=2になるけれど、それがぼっち同士の場合まず足すことを拒むため足し算そのものができない、加えることも増やすことも入ることもできないのだ。だからぼっち同士で友達になるなんてことはできない、というのが俺の持論。多分間違ってると思うけど。
ただ、もし俺が友達ができることがあるのならそう簡単に人と友達になりたいと思わない。そんな簡単に友達だなんて言っちゃいけないと思う。そもそも俺は人間が嫌いなのだ、だからよっぽどのことがない限り俺が人間の友達を作ることはないだろう。
「俺は友達を作るつもりはない」
「そ、そんな…いい加減かっこつけるのやめたほういいですよ!私のように素直になっていきましょうよ!」
「なんだ……」
やっぱりこの女ムカつくな、今のところ人間の中で友達にしたくないランキングぶっちぎり再開まであるな。ちなみに一位はさっき俺に話しかけてくれた男の人。やはりはじめての友達は同性のほうがいいな。
って、何友達ついて熱く語ってんだ俺は、ここに何しに来たんだよ、旅行じゃないんだよ旅行じゃ。人類を滅ぼすためだろうが。
忘れちゃいけない自分の使命を再確認して、森谷朱里との会話を切り上げる。そして俺はとてもまじめな学生らしく、山本先生のほうに目を向ける。
「……仲がいいのだな」
顔は笑ってはいたが、心は全然晴れやかではない、そんな顔で山本先生はそう言っていた。俺は言葉の意味がよくわからなかった。
だから、なんとなく教室を見渡してみた。
「え……? あっ」
気が付くとクラス中の視線が、俺と森谷朱里に向けられていた。
そこでようやく自分の置かれていた状況に気が付いた。聞かれていたのだ、今までの会話すべてを。
なんという醜態、そしてなんという凡ミス。転校生だから注目されるというのは分かっていたことなのに、こんなにも周りに聞こえるような声であの女と会話してしまうなんて……。
あぁ!なんかひそひそ声も聞こえてきた!噂話は聞こえないようにやりやがれ気になるんだから!
(お、おい森谷朱里、お前のせいでこうなったぞ、どうしてくれる)
今度は聞こえないようにひそひそと話す。
(真希君が友達って早く認めればよかったんです!)
(クッ……まさか俺の生き方がこんな結果を生むとはな…….)
それもこれも、全部こいつが関係してやがる。やっぱりこいつは俺の疫病神だ。いいこと一つおこりゃしない。
ひそひそ聞こえる噂話と、くすくす笑う音に紛れ、俺は深いため息をこぼしながらそんなことを思っていた。
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