始まる前から問題点を知り、その上で戦いが始まる
ここからやっと「林田真希」のお話が始まります。彼のお話なので視点も彼です。
楽しんでいってください
途中でいきなり視点変更があります
「空が青いなぁ」
リンデン、名を改め林田真希は学校に向かう最中にそんなことを思っています。
今日から俺は転校生として入学する。恐れているのはあの女と同じクラスにならないこと。
「あぁ嫌だなぁ……」
この二つの切なる望みを胸に秘め。俺こと林田真希はついに学校に到着した。
×××
「今日からここが新しいお前のクラスだ、高校生にいう言葉じゃないと思うが、みんなと仲良くするんだぞ」
このクラスの担任である山本先生はにやっと俺に向かって笑った。女性なのに、やけに男前な雰囲気を漂わせている。
だが俺はそんなものには目もくれず、言葉にそこまで耳を貸さない。
友達なんて、あってもなくても同じだろ、俺は少なくともそう思ってる。
俺の学年は二年で、クラスも二組。今俺のいる廊下からでも、転校生が来るというイベントに心踊らせてガヤガヤ騒いでいる音が聞こえてくる。
可愛らしい声でイケメンであることを所望されたり、太い低い声で「どうせ陰キャだろとか」言いながら自分の地位を脅かされるのを恐れていたり。彼らは、名前も声も顔も何も知らない俺という存在に、期待をしていた。
「……知らない奴に期待なんかしてんじゃねぇよ」
小さく、誰にも聞こえないように呟いた。
そうやって自分のために他人に期待する。これが友達が多いやつの成れの果てだ、孤独というものを知った方がいいな。楽だし、強くもなれるしいいことずくしだということを知ってもらいたい。
「だから、友達を俺は必要としない」
「ん? どうしたんだ? 林田くん」
俺の声が聞こえていたのか、山本先生は不思議そうに俺の方を見つめてきた。
「……なんでもないっす」
そう言ってはぐらかしたが、山本先生は「んー?」と疑問を浮かべている。
「ま、いいや、私が来いと言ったら来るんだ、わかったな?」
山本先生は見た目通りさっぱりとした先生のようだ。いい印象を受けた。
「わかりました」
俺が頷くと、先生もうんうんと頷いた、ご満喫、といった表情をしてる。
「うむうむ、返事がしっかりとできるのは好印象だ、目つきは悪いし声もなんだか少し不気味だが、悪い人間ではなさそうだな。彼女の言っていた通りだ」
「……………」
山本先生のその言葉で察した。だって、この学校で俺の存在を知っている人なんて、あいつしかいない……。
この学校は1学年6クラス存在する。つまり俺はあの彼女と同じクラスになる18分の1の確率を引いてしまったのだ。不幸すぎる。
どうやら、この世界は俺のことが嫌いらしい。
それでも、俺は全然構わない、むしろこの世界で俺がしようとしていることを考えれば、嫌われて当然だ。
でもちょっとぐらいの幸福は欲しいと思ってます。
ガラリと先生がドアを開ける。その音は始まる前から問題だらけの学校生活の幕開けを告げた。
ある青い空に桜が舞う、とても晴れた日のことだった。
私達に転校生がこのクラスに来ると聞かされたのは五日前、でも私はそのことを誰よりも早く知っていた。
(これってやっぱり運命……)
まさか本当に同じ学年で、同じクラスになるなんて、十八分の一がどんぴしゃりと当たったのだから。
世界はあの人と私を祝福してるよね。
クラスの中ではイケメンかなーとか、どうせ陰キャだろーなーとか、そんなことばっかりクラスのみんなは言っている。
うつ伏せながら、私はちょっとだけにやけた。
知っているからだ、あの人は彼らの期待には絶対に答えない人だということを。
私自身一回しか話したことはないけれど、彼のことは少しだけわかっているつもりだ。
……その上で、私はあの人と仲良くなりたい、友達になりたいと、そう思っていた。
ガラリと教室の扉が開き、担任の山本先生が入ってきた。ざわついていたクラスが少しだけ静かになる。
「おらー、聞けお前らー! みんなも知っているとおり、転校生を紹介する。ネタバレしてしまうと転校生は男子だ」
「はぁぁぁぁぁぁぁ! 何ネタバレしてんすか!!」
「ねぇねぇ! 男子だって!!」
「どんな人かな! どんな人かな!」
こ、この先生空気読めなさすぎ……まぁ私は知ってるからいいですけど!
「では入ってきてください」
山本先生の言葉とともに、一週間前に私の悩みを聞いて、色々考えてくれた彼が教室に入ってきた。
クラスはすでに静まり返っていた。
ピリピリしていた男子はほっとした表情を浮かべ、ワクワクしていた女子は静かに、先程以上にワクワクしていた。
私としては懐かしいその男は、いかにもだるそうにして、猫背のまま教卓の前まで歩く。
たどり着いた彼はこちらの方を振り向き、一礼をした。
「では転校生、名前を」
山本先生の言葉で、むっとしていた口を開く。
「林田……林田真希です……よろしく」
そう言って、また彼は礼をした。続いて教室には拍手の音が鳴り響いた。
そういえば、彼は私のことを覚えているのだろうか……不安になったので、私は彼に向けて、小さく手を振ってみた。
目が合った。くすんだ目元がさらに歪んだ。
「……チッ」
(更に舌打ちっ!? ひどっ!?)
ま、まさか舌打ちされるなんて! やっぱり最低だあの人!
でも、覚えててくれていた、それだけでなんか少し嬉しい。
彼、林田くんはまだ嫌そうな顔をしてこちらを見ている、でも私は笑顔で彼を見つめ返す。にこにこと、にこにこと。
「よーしみんな、こいつと仲良くしてやってくれよな!」
山本先生が不意に思いっきり林田くんの背中を叩いた。びったくりした表情を浮かべ猫背だった彼の姿勢がしゃきんと真っ直ぐになった。
「ぐっ……!?」
あー……先生、力強いもんね……。
仲良くして、かぁ。多分彼はこう思ってるだろうな、そんなもの必要ないって。
何はともあれ、今日から林田くんと一緒に活動ができる。楽しみで仕方ない。私の心はとても弾んでいる。
それは、いつも通りの晴れた日のことだった。




