1対1の結末
めっちゃ遅れました、これからも少しずつ投稿したいと思います。なんとか早く投稿できるように頑張ります。
「まだだっ!」
全力でぶん殴ったとは言っても、能力を解除したわけじゃない。まだシーガと俺は繋がってる。
既に瞬間移動終了時の膠着状態は終わっているだろう。だが、それでもまだ攻撃の主導権はこちらにある。
ただ長い間殴っているわけにも行かない。付けるべきは早期決着。
殴った方の拳の魔力を形にする。今は攻撃が来ない、思考のチャンスがありふれて有り余ってる。
創造すべきは昨日、シーガの腕を切り飛ばした、『シーガを切るため』だけの剣に限りなく近いもの。
長年の技術者ではないから、全く同じ寸法のものを作り出せない。時間もそんなにない。ただ似たものを、切断まで持っていけるものを想像する。
思考は一瞬でも、綿密に行う。
左手の魔力が蠢き形を作る。あの日の剣と似た形の剣となった。
右手の鉄パイプが引っ張られる。自分でも思いっきり殴りすぎたと思う。シーガの吹っ飛びに俺の体も持っていかれそうになる。
だがそれに耐える。引っ張られる右腕をこっちが引っ張り返す。今奴の体は力なくだらけてる、今なら俺の方が持っていけるはずだ。
魔力の縄がピンと張る。右腕の骨が一瞬外れそうになったが構わない。殺されることの方が絶対に痛いと思うから。
「うおぉぉっ!」
強引に持っていく。『ばんじーじゃんぷ』のごとくシーガがこちらに戻ってくる。
「クッソ……」
奴の意識が戻った。でも瞬間移動も封じられて、右手はパイプとつながっている。足でどうにかしようとしても俺の剣がそれを切り裂く。どうあがこうとしても死までの時間が延びるだけ。
「どちらにしても、これが通れば_____!」
猛スピードでシーガが突っ込んでくる。防御の姿勢はとらない。
勝った。
俺はそう思った。なんやかんやで一人で倒してしまったな。と。
今の今まで忘れていた、戦いに夢中になっていたから。俺に味方がいたことすら、忘れていた。
そして、こういう時ふと思い出したものに限って、大抵それが最悪の事態を招く羽目になるのだ。
「……悪いわね」
「何っ……」
俺はそれを、一体何度味わえばいいのだろうか。後ろからの聞き覚えのある声を耳にし、俺は嫌な予感とともに、強烈な痛みが背中を襲った。
鋭利的なものを背中に何かを刺されたようだ、俺は一瞬怯んだが、まだ大丈夫だ、なんとかなる。
後ろのやつは一旦無視でいい。今はシーガを確実に破壊すれば……!
痛みをこらえて反発でこちらに戻ってくるシーガに剣を振り込む。これで胴体は真っ二つ……。
「……あれ」
今見る光景に、恐ろしいまでの戸惑いを感じる。剣を握った腕が、振り切れていなかった。
感覚だけ暴走した、と言うことならば体はちゃんと動いてるはず。ゆっくりでも動いているはず。
と言うことは、体が何一つ動いていない。痛みを感じる手前の状態で、俺の体は静止していた。
どんなに力を込めても指一つ動かさない。腕だけではない。足も顔も口も何もかもが動かなくなっている。
原因は間違いない。さっき背中を刺されたあの一撃だ、そしてその武器には覚えがある。昨日背中にもらってる。
「……ちいっ」
体が動かなくても、シーガの舌打ちは聞こえた。心底何かを憎んでいるようで歯ぎしりの音がここまで聞こえてきそうな表情をしていた。
だがその表情が見えたのもまた一瞬。俺の視界から奴は消えた。
「残念だよ……リンデン」
そして次の瞬間に、俺は首筋に強い衝撃を受けた。頭だけ切り離されたかのような強く重い一撃を受け、俺の意識も切り飛ばされていった。
足に力が入らなくなった、そして動かない体も動き始めた。
そのまま前に倒れる。遠のいていく意識の中、なんとか睨みつけてやろうと後ろを見る。俺の背中に毒を突き立てた裏切者を。
「前回と逆ね……リンデン」
……ちくしょう。
そこには、冷たい目をしたブランシュが立っていた。罪悪感なんて何もない、雨のように冷たい視線で俺を見つめていた。
「今度はちゃーんと、毒をつけてあげたわよ」
ニヤリと歪んだ口元が実に憎らしい。殺意を込めて「地獄に落ちろ」と言いたいが、意識ももう限界だ、声にならない叫びとなって俺の心にとどまった。
そのままどさりと地に伏せて。雨を背中で強く受けた。最後は心の底から冷たさを味わいながら、俺の意識はそこで途切れた。