リンデンVSシーガ①
激しい音が響き渡る。
相手は片手一本だというのに、昨日と同じように俺の傘を難なく受け流し、打ち返し、弾く。
「硬いなその傘! なんだ鉄板でも仕込んでいるのか!?」
「毎月支給される千円で購入した百均のビニール傘だよ! そんな仕組み一切ない!」
鉄パイプと百均のビニール傘の鍔迫り合い。なんだこれ、今思うとこの光景何かがおかしいぞ。
……ってくそッ! 命懸けの戦いしてるって言うのになに考えてんだ俺は!?
「……成る程、では魔力による強化か。貴様の力は想像力といったな、前の戦いで出していた僕だけを切れる剣はどうした? 使わないのか?」
魔力による強化……これは正解だ。
俺の魔力は体から離れることが出来ない。俺の体に間接的にでも触れていなければ消えてしまう。
だからこそいろいろな手段を講じて、汎用性を高めていった。
一つは、力をカタチにすること。
もう一つは、物体に魔力をコーティングして、基本性能を上げること!
鈍器ならば強度を、刃物には加えて切れ味。
俺がその武器を手にしている間なら、レベルアップして強くなる。この傘ですら、鉄パイプを超える強度を誇っているからこそ、骨は折れず、ビニールは破けない。
「……僕もこの再戦までの長い時間、なにも考えずにしてこなかったわけじゃない。貴様の能力を分析し、考察を繰り返して来た!」
鍔迫り合いを弾かれる。ガキンと音を出し俺は後方に吹き飛ばされた。
「くっ……!?」
大した距離は飛ばない、数メートルだけだ。足元を確認し、俺は地面に難なく着地する。
そしてその後の奴が行動も分かっている。狙いはおそらく着地狩り。
すぐさま前を向く。だがしかし、そこにはシーガの姿は無かった。
瞬間移動か、一瞬その思考に陥る。だがそれもまた一瞬で覆される。
「上か!」
上を見上げると既に奴は鉄パイプを振り下ろす瞬間だった。
これは受けきれないと判断し、全力でまた後ろに飛ぶ。
ドガン。もはや爆発音だ。当たっていたら一溜りもない。
ギリギリで振り下ろした鉄パイプは地に突き刺さる。コンクリートが粉々に砕けていった。日々が俺の足元まで届いている。
「危ねぇ……!?」
安心もほんの一瞬で消え去る。奴の動きが常に俺の動きの先をいっているような気がした。
一足飛びに俺との距離を急激に縮める。奴の冷たい視線が俺の心臓を握り潰しているようで、一瞬ゾッとした。
緩急もクソもない、シーガが繰り返すのはただただ速さだけを求めた連撃。力任せに鉄パイプを振り回すステゴロ。だが、その異常な破壊力がいなすことすら許さない。
風圧で、衝撃で空間が歪んでいるようだ。
何とか最大限傘を強くして防御しきれているが、防戦一方だ。これじゃあジリ貧、最終的には折られてしまう。
くそっ、一番嫌いなんだ。こう……
「何も考えずに、ただ攻撃を続けてくる輩が。だろ?」
「!?」
なっ……こいつ、今俺が言おうとしたことを!?
「驚いてるな、リンデン。それもまた隙だぞ?」
しまった、と思うのがまた一瞬遅れる。一瞬の遅れは次の行動を一瞬遅らせる。そしてその後も、次も次も、遅れてしまう。
そしてそれは最終的に致命的なものとなっていく。
俺は足祓いをかけられた。完全に鉄パイプに集中しきってしまい、周りが見えていなかったのだ。
一瞬重力を失ったかのように体が浮いた。バランスを崩した俺に、奴はまた鉄パイプを豪快に薙ぐように振り回す。狙いは、頭部! 当たれば即死!
「うあっ!」
何とか傘を差し出し、鉄パイプと俺の頭部の間に入れ直撃を防ぐ。だが、攻撃はまだ終わってはいない。
「そぉ……れっ!」
シーガがドン、と強く前に踏み込み、右手にさらに力を込めているのがわかった。そして俺の体は今ほんの少しだが宙に浮いている。
ブォンというソニックブームでも発生しそうなは轟音と共に、俺はさっきよりも果てしなく強く吹き飛ばされた。
強すぎて、身動きが取れないレベルに。
そして俺が向かう先には……確か、ビルの入口があったような……!
「……ちょっとやばい」
口元が歪む。これから起きることがあまりにも嫌だった。それなら地面にでも叩きつけてもらった方がいい。
でも背に腹は変えられない。身動きの取れない衝撃のまま俺は。
ドガシャァァァン!!
「ぐはっぁっ!?」
ガラスの自動ドアをブチ破った。初めての経験だ、こんな『はりうっど』みたいなことになるなんて……!
しかし不味い、流石に今のは人に……?
「ほぉら、またすぐ油断する」
「え?」
今度は思考が追いつくより先に、腹部に蹴られる衝撃を覚えた。そしてすぐさま外に出された。
ゴロゴロと情けなく俺は転がっていった。回転を止めて体勢を立て直す。────!?
「さぁ次だ」
「くそっ!」
今回は気配で分かった。上空だ。
前方に飛び回避を……っ!
さっきの腹部のダメージが足に来た。ガクついてつ強く飛び出せない……!
「終わりだな」
ダメだ、足が動かないのでは奴の攻撃を躱す術はない。傘は、さっきの蹴りを受けた時に手放してしまった。
「……終わりか」
奴の強烈な一撃が振り下ろされる。衝撃が大地を揺らし、轟かせる。まるでダイナマイトでも爆発させたかのような一撃が俺を捉えた。
「……なにぃ!?」
「……俺とは、言ってないよな?」
少し時間をかけ過ぎたなシーガ!
奴には信じられないだろうな。今の光景を、自分の一撃を左手一本で受け止められた状況を!
「間に合わなかったか……」
「やっぱり、お前はちゃんと俺と同じことを考えていてくれたらしいな」
シーガが狙っていたのは俺の思考を止めること。だと思われる。
昨日の奴の失敗は俺の首を絞めながら俺に時間を与えすぎたということだ。そのため考える時間が増え、やつの腕を切り飛ばすに至った。
なら次にシーガのする事と言ったら、考える隙すら与えず連続攻撃をすることだ。手を休めずコンマの余裕すら与えないほど。
その考えは、バッチリ正解。というか弱点を見事付かれた。
「さんざん鉄パイプでぶん殴りかかりやがって……これはほんの少しの仕返しだからな」
残った右手を固く握る。魔力を右に集中させつつも、左は決して緩めない。
「ちっ!」
奴が鉄パイプを離した。武器を離したということは、それをしなければいけないという理由がある。これまで仮説としていたことが立証される瞬間にもなる。
チャンスだ! 奴が次にする行動は分かる。瞬間移動しかありえない!
どうか、考えよ当たってくれ!
僕は瞬間移動を試みる。
あの右手に貯めた力を喰らえば、死にはしないが相当なダメージが僕を襲うだろう。
鉄パイプを掴まれた今、躱す手段は瞬間移動しかない。
唯一の武器を手から離し、少し後ろに飛ぶ。そして目を閉じ、リンデンから最も遠く、尚且つ体が動けるようになり次第攻撃に転じれる位置。
さらに記憶にある上下左右半径20メートル以内の場所……やはり初期位置だ。
念じればすぐに飛べる。今僕の体に触れているものは存在し……!?
(なんだ……これは!?)
世界がスローモーションにでもなったかのような錯覚を覚える。右手にやった視線が捉えた異常なものに驚愕する。
何か、ロープのようなものが、僕の手から伸びている。
そしてそれは、リンデンの握っている、鉄パイプに繋がっていた。
つまり、それは僕と彼が繋がっていることを指していた。
不味い。
雨ではない別のものが、頬を伝う。
瞬間移動が発動した。
「……残念だったな……最強!」
「きっさまぁ……!!」
ビルの屋上に俺たちは立っていた。
チェーンデスマッチのごとく、鉄パイプから流した魔力によって俺たち二人は間接的にだが繋がっていた。
瞬間移動が自分だけの移動であれば、鉄パイプを一緒に持っていくことが出来ないという点から、奴に触れていれされすれば、瞬間移動に巻き込まれるのではないかと考えた。
その考えを裏付けたのは、奴が鉄パイプを手放した時。
そんなことをしてまで、俺から離れたかったのだろうか、いや離れたいならそこからすぐに瞬間移動すればいい。
賭けではなかった。これは確認に過ぎなかった。そしてそれは成功した。
シーガがまだ鉄パイプを握っていた時に、俺は鉄パイプを通じ、奴の腕に魔力を渡していた。
蜘蛛の糸のように鉄パイプとシーガの掌をくっつける。そんな魔力を掌に付けていた。
そして今、俺は瞬間移動に巻き込まれここにいる!
さらに、シーガは瞬間移動をしてしまったら、連続して移動が行えず硬直状態になる!
右手はパイプと括り付けた。
体は硬直状態で動かない。
「貰った!」
「……!」
鉄パイプをぐっと引き寄せる。同士に糸のように伸ばした魔力の縄も長さを縮め引き寄せる。
当然そうすればシーガの体はこちらに向かう。
そして俺も、前方に飛ぶ。
「まずは、一発!」
ために溜めた渾身の右の一発。
容赦はない、殺すつもりで……
「死ねぇ!」
拳を、叩き込む!
「ごっ!?」
狙いやすい場所、腹部に叩き込んだ。手応え、あり!
次短編書くかもしれないんで遅くなるかもです。良いお年を。