決戦、亀裂
記念すべき100話目です。これからも投稿は遅れますが見放さないでください。絶対に完結させますので。
不安は残れど、現状は上手くいっている。もはや学校内に恐れる敵はいない。
そんな状態だからこそ出来ることがあり、やるべき事がある。
一人きりになったこの部室でケータイの電源を入れ、一人しか友達のいないLINEを開く。少し悲しい。
宛先は当然森谷朱里。それしかない。
やるべき事とはつまり情報交換、俺と朱里は今まで敵に味方だと悟られないようにするために接触を避けてきた。そのせいで今お互いがどういった状況なのかを理解していない。
知ることは大切だ。情報があれば選択肢が増える、必然として戦略も増える。
だから恐れるもののなくなった今がチャンスなのだ。連絡を取ってもバレにくい。
「『こっちは順調、そちらの現状を聞きたい』……ほい送信」
しっかし、このLINEとかいう『えすえぬえす』? すげぇよな。面と面を合わせず指と文字で言葉を伝えることが出来る。
文字は声より物事をうまく伝えることが出来る。ただ本心は伝わらない。
明確に差別化が出来ているはずの声と文字、だがよく考えて欲しい。人は疑う生き物だ、たとえ声を聞いたからと言ってそれが真実だと疑わないってことはありえない。
声であろうと文字であろうと、結局人の本心なんて分からないんだ。
それなら、文字で話した方がいいんじゃないだろうか? 言葉の綾も少なくなるし俺はそっちの方が素晴らしいと思う。
そしてそのうち人は喋ることが出来なくなるんじゃないかって、俺はそう思ってる。まぁその前に滅ぼしますけどね!
でももし俺がその侵略に失敗して、そのような進化……進化か? 遂げるのであれば、あと百年、一人の女性が死ぬまで待ってほしい。
そうなったら俺はその女性になんて謝ればいいのかわからないから。
そんなことを思ってるうちに、既読がついた、この既読もまたプレッシャーのようなものだよな。
返信を待つために画面をじっと見つめる。
下から文字が浮いてきた。
『校舎裏に来なさい』
嫌な汗が出た。
作戦は順調だっていうのに、こんな順風満帆なタイミングで意味もわからず俺は殺されてしまうのか……? 外はまだ雨が強く降り注いでいるんだぞ……? 何をするつもりなんだ?
ケータイを持つ手が小刻みに震え始めた。
これを送った相手が朱里だってのが問題だ。
やりかねない。
×××
「最近感覚が麻痺してきた気がするけど、普通こういうのって呼んだやつが先に来るもんじゃないの?」
現在校舎裏に到着した俺は森谷朱里に待ちぼうけを食らわされていた。屋根があるとはいえ、肌寒い。弾かれた水滴が俺の体にあたりさらに冷たい。震える。……ん?
なるほど震えて待てってか? ぶん殴るぞ。
一人は慣れてるから別にどうってことないけど、純粋にムカつくから早く来い。
そう思っていると、この校舎裏に向かって全力で走ってくるチビが見えた。
やっと来たか、朱里。さあ聞かせてくれ、俺が何をした?
「ぜはー……ぜはー……」
全力疾走だったところを見ると、どうも俺に待たせるために遅れた訳では無いようだ。
「何があった?」
「な……なにがあった……ですって?」
凄い形相で睨まれた、え、マジでなんなの、俺こいつになんかした?
「あ、あんたがいきなりLINE送るせいで、ケータイ狩りに捕まったのよ……!?」
何っ!? ケータイ狩りに!? ケータイ狩りって何!?
「お、おい、ケータイ狩りってなんだ?」
「あぁ、そういえばあんたはまだ体験してなかったわね。ケータイ狩りって言うのは昼休みとかの生徒が気を緩ませた瞬間を見逃さない校則違反取締担当教師の事よ」
「は?」
全くもって分からない。もう少し人に伝える練習をするかもしくはそのオタク特有のかっこいい単語をズラズラ並べる喋り方をやめるべき。
やはり文字で会話するべきだ人間は。あとなんか困った時に「は?」とか言っちゃうやつは会話苦手。ソースは俺。
「分かりにくい」
「……注文の多い同居人ね」
「悪いな、お前の言葉の品ぞろえが悪すぎて理解出来なくて」
「お酢ぶっかけるわよ!? とにかく簡単に言ってしまえば昼休みにケータイを使う校則違反者を捕らえてケータイを没収する先生の事をケータイ狩りって言うの」
最初からそう言え時間の無駄なんだよ馬鹿。
「何その一切悪びれない態度、あんたのLINEの通知音で捕まったっていうのに……!」
ふつふつと彼女の怒りのボルテージが上がっているのがわかる。これ以上は危険だとわかってはいるけど「通知音切らないお前が悪い」と言ってやりたい。
でも、ここはぐっと身を引こう。ここで喧嘩したところでなんの意味もない。
「まぁ……悪かったよ。でもそれを言うためだけにここに呼んだわけじゃないよな」
もしそうならぐっと引いた身をぐいっと戻してビンタかましてやる。
「……そんな訳ないでしょ、いくら私でもそれぐらいの空気は読めるわよ」
ちょっと安心した。安心することが酷いことだとわかっていながらも安心しました。でも不安にする朱里も悪いと思うんだ。
「実はね、萌花ちゃんの様子がとてもおかしいのよ……」
萌花が?
「おかしいってどんな風にだよ。具体例を上げろ」
「うーんと……なんか押しても倒れないっていうか……いくら家に来るのを断っても諦めてくれないのよ」
それは、どういうことだ?
もしかして萌花はそこまで俺の言ったことを気にしていなかったのか?
いやそうじゃない。そうであれば変化はしてないってことになるから萌花はそこまで言われたら断ると思う。
そして気にしてないならば、おかしい点がもう一つ。
今日一日、あいつは俺のところに来なかった。
気にしてないなら来るはずだ、いくら俺が彼女から逃げる姿勢をとっていたとしてもそのチャンスは授業間などを使えば何とかなる。
それをしなかった、つまり彼女は俺が想定していたよりずっと……。
「……イイヤツじゃねぇかよ」
森谷朱里を裏切ったとまで言ったのに、それでもなお俺との繋がりを持ちたいか。
この考えが勘違いならそれでいい、勘違いじゃないのなら……俺が嬉しい。
「それは知ってるけど、どうするの? 力になれなくて申し訳ないけど、もう私じゃ多分どうにもならないわ」
友情にひびを入れたと思った俺の言葉は、大したものじゃなかった。
あの日結んだ俺達の友情。俺にとっては本音を隠した仮初の友情、彼女らにとっては本音を出し合ったことで生まれた永遠とも言える友情。
この作戦は、萌花が傷ついているというゴミクズのような前提から生まれる、そんな作戦。
傷ついていないなら、傷つけさせるしかない。
その役目は……彼女と話せる俺ら二人。
ただ二人が傷つかせる必要は無い。
「……お前さ、友情と命ならどっちとる?」
「え? どういう事よ?」
森谷朱里が疑問の目をこちらに向ける。はてなマークが頭に浮かぶ。
俺は一瞬口篭る。やりたくないと心が叫んでる、ただやらなくてはいけない。そうしなければ勝つことも守ることも救うことも出来ない。
覚悟を決めて口を開き、発する。史上最低の作戦を。
「……お前、今ケータイ何処だ? 今電源切ってるか?」
「電源切ってるし教師が持ってるけど……」
「放課後、見てくれ。その時までお前が俺の味方であってくれるなら」
「ど、どういう事よ!」
「作戦の内容をケータイに今から打ち込む。放課後は結局最後まで別行動だ、一人でそれを見ろ」
「わ、分かった……」
ちょうど、昼休み終了五分前になった。今から戻らないと授業に間に合わない。
朱里を先に行かせる。いつも俺達はバラバラに行動した方がいい。
それは恐らく、永遠に。




